「なんかさ、
子供みたいにわんわん泣いて
子供みたいにきゃっきゃっはしゃいで
鬼ごっことか、かくれんぼとか、木登りだって
子供みたいに甘えん坊で、泣き虫で、
よく、笑う。
そんなのが出来なくなったよな」
「大人……ってさ、
なんか、思ってたのと、違うんだよね
お金もっててさ、おしゃれな趣味持っててさ
パートナーがいてさ、仕事も大変だけど、
人間関係は良好で、帰りにはご褒美のデザート
なんて、なかったよな。なんか、」
「なんか、
高校生の時も同じこと思ってた気がする。
帰りにコンビニ、スタバ、
日帰りディズニー、
青春の部活
居残り
仲良い友達
定期テストのための勉強会
夏休みはバイト
なんて、無茶な夢見てた」
「昔は本当に、ほんとうに、
中学生が、高校生が、大人が、
キラキラしてたんだよ」
「現実を知ったら、
灰色に覆われていて、
もう後戻り出来ない。」
「子供に、戻りたい。」
放課後はいつも校庭のベンチに座る
そこは全てを感じられる場所
吹奏楽の演奏も、野球部の声出しも、美術部の雑談の声だって、
青春に囲まれて勉強する
私の大好きな放課後
『放課後』
好きな人がいた
華奢で、思慮深くて、メガネのときと外した時のギャップが凄くて、自分だけの軸をもった、かっこいい人。
その人とは、碌に言葉を交わさずに終わってしまった。
テストの点数どうだったとか、そんなのでしか関われなかった。
もっと、もっと、はあ……
もう一度会いたいな
『巡り会えたら』
「先生!!私この大学受けます!!」
その子はどこか”もっている”子であった。
運とか実力とか才能とかそういうのじゃないけど
多分、その子の雰囲気が”もっている”と感じざるを得なかった。
「じゃあ昼休み二者面談でもしよっか。」
「はい!」
いつもいい笑顔を見せてくれるな
「じゃあ進路指導室で昼休み待っててね。」
「分かりましたー!」
次の授業の準備でもあるのだろう、その子は足早に去っていった。
「私もあの子に大学調べてあるのよね」
あの子……山口春(やまぐちはる)はお世辞にも成績がいいとは言えなかった。でも、国公立大学を目指す高校3年生。模試の結果が芳しくなく、とても国公立に受かる点数ではないので、私は山口さんの為に国公立大学で春さんのやりたい事が出来る学部学科で、関東で、色んな条件の中、合格最低点を漁って漁って――見つけた。
「これだ。」
これだよ、山口春さんの点数でもギリギリ入れそうで、やりたい事もやれそうで……!
明日、明日……!これを春さんに言おう。
□▲高校……
「そう思ってたんだけど、あの子から来るなんて」
そして昼休み、進路指導室にて
「えっと、どこ受けるって?」
「だーかーらー□▲高校ですって!
この学部学科で、この点数ならギリギリいける気がして、それと、世界史の過去問をやってみたんです。そしたら●割とれたのであとはこの部分を―」
驚いた。先生が思ってた大学で考えてた内容も全く一緒だ。しかもさらにもう、行動も起こしているなんて……
「先生も、先生も同じこと考えてた!」
「本当ですか!?」
「うん、過去問解いたのは今のところ世界史だけ?」
「はい、そうですね」
「じゃあそれだけ取れたんだったら
苦手な英語を―――」
私今凄く興奮してる。
山口春さんには、頑張って欲しい……
合格発表前日……
「手応えはどうだったの?」
「いやー全然だめでした」
山口さんはアタマを掻きながら斜め上を向いた
「笑ってるなんて、余裕ありそうだね?」
「行きたいと思ってた私立には受かりましたので!落ちたらそっち行きますよ。どうせ受かってないですけど笑。」
「まあ、合格まで待ってましょうよ。」
キラキラとした夕日が眩しくて、何故かきっと大丈夫。そんな気がした。
「先生!!私、受かってました!!!」
静かな職員室に良く通る声が聞こえた。
山口春!!!
「山口さん!受かったのね!?」
「はい!なんか分かりませんが受かってました!」
「おめでとう、おめでとう!
ほんと、良かった……」
思わず山口春を抱きしめていた。
「先生苦しいーw」
「ごめん、でも、本当に嬉しいことだわ。
ちゃんと一人暮らしでも朝食は食べるのよ?」
「分かってますー。ふふふっ先生、先生のお陰です!ありがとうございました!たまに遊びに行きますね?」
「あなたの努力よ。いつでも遊びにいらっしゃい」
そして巣立っていったのだった
そして巡る、春。
「先生!!私、全然点数足りなくて、でもこの仕事がしたくて、どうすればいいですかあー!?」
二者面談で泣きつく3年生。これはまた私の出番かもね。にこっと笑いかける
「先輩と同じ奇跡をもう一度、起こしましょう。」
そして桜がひゅうっと舞い散るのだった
『奇跡をもう一度』
「なあ 晩御飯いつ?」
パジャマ姿の夫にそう尋ねられた
少しイラッとした
でも
「しー」
今、私の赤ちゃんが腕の中で眠っているのよ。
そんな風に目で訴えた
夫はどこかへ行ってしまった
ああ、外で食べてくるのかしら
そんなことを思わざるを得なかった
私は今、ストレスと天使を抱いている。
それから暫くして夫がどこからか帰ってきた
何を食べてきたのだろう
「あの……春雨スープと唐揚げ弁当でいいか?」
え、買ってきてくれたの?
夫の手にはビニール袋が1つあった
「い、いいけど……」
夫は袋から丁寧に弁当を取り出し、蓋を開け、レンジで温める。
「あなたがわたしの為に弁当なんて、明日は雪でも降るのかしら。」
斜め上を見ながら夫に言う。
「今までごめん。」
へ?予想してない答えが返ってきた。
だって夫は……夫は……
「でも、もう終わるからこんな辛い日々も。
もう。」
涙が出た。ぽろり、ぽろりと。
遅いじゃない、怠け者の夫め。
「じゃあ、これからは2人で……グスッ」
どうしようもないくらいの雨粒が”私たち”の赤ちゃんにも落ちそうだ。それを見兼ねたのか夫が私に近づき、私が誕生日にプレゼントしたハンカチでふいてくれた。これから、始まるのね。私たちの物語が……。
「スープ、熱くないか?」
「ええ、丁度いいわよ。冷めずぎても、熱すぎてもいない、ほど良い温度。」
このまま私たちは静かに微笑みを浮かべ、互いに見つめあった。
そしてまた、夫は私にスープを飲ましてくれる。
この日の夜は、静かだった。
そして、幸せに包まれていたのだった。
翌朝
「この人が俺らのATMだ!」
「は?」
1人のガタイのいい男が夫の隣に立っている。
「夫さんとも愛し合っている仲ですので宜しくお願いします!」
そしてその場で濃厚なハグチューを披露された。
「こいつが稼いできて!俺が家政夫になる!これでお前は育児に専念できて生活が楽になる!良かったな!」
なんだこれ、夢でも見ているのか
「どういうことかしら!」
「そういうことです。」
そしてこの部屋は2人の男の微笑みと静寂、そして私の萌えと共に全てを包んだのだった。
『静寂に包まれた部屋』