─閉ざされた日記─
月が綺麗な夜だった。
貴方は言ったの、私が一番聞きたくない言葉を。
「ごめん、別れよう」って。
理由も言わずに、私の「待って!」の声も聞かずに。
あの夜は、ずっと泣いてたわ。
理由が分からないことが、どれだけ怖いか。
私が悪かったのか、最初から貴方のおもちゃだったのか。
だって私たち、同棲もして、恋人らしいことは大体したじゃない。
それだけ別れを否定したくて、理由をずっと考えてたの。
でもね、数日後にきた貴方の妹さんの連絡で、また泣いたわ。
貴方、癌だったなんて、一言も言わなかったじゃない。
貴方は私を傷つけないために別れたんだろうけど、それが一番辛かった。
貴方の葬式も行ったわ。貴方、とても幸せそうだった。
家に帰ってね、貴方がずっと見せてくれなかった日記を読んだの。
ずっと閉ざされた日記だったけどね、貴方が見せない理由が分かったわ。
だって、いつも好きって言ってくれないくせに、日記には書いてあるのだもの。
「大好き」って。「愛してる」ってさ。
本当、貴方って人は、ずるいわね。
─この世界は─
神様は、この世界に居るのだろうか。
もし居るとしたら、とても酷い性格をしてる。
みんなを不平等に生かしているのだから。
生きたくない人を、無理に生かして。
健康でいたい人を、病にして。
笑っていたい人を、酷い方法で笑顔を奪って。
助けて欲しい時程、神様は無視する。
そんな神様、居なくていい。
僕から生きる意味を奪った神様なんて、いらないよ。
─どうして─
朝起きて、リビングへ向かった。
タイミングが悪かったのかな。
否、でもいつか面と向かって言われてたんだろう。
リビングからは父と母の声。
喧嘩をしているようで、その内容は私。
喧嘩はよくあることだった。
私のせいで起きる喧嘩も、よくあった。
またか、と思って終わるのを待つ。
でも一向に終わる気配がない。
勇気を振り絞って、ドアノブに手を掛けたその時。
「どうしてあいつを産んだんだ!」
父の怒鳴り声。それに続いて、
「私だって産みたくて産んだんじゃないわよ!」と母の声。
まるで鈍器で頭を殴られたようだった。
その後の会話は上手く理解出来ず、私の頬には涙が伝っていた。
「…嗚呼、そっか。私って要らなかったんだ。」
私の嘆きは、両親の怒鳴り声に搔き消されて、
そこにはただ一人、何も出来ずに立っている私しか居なかった。
─夢を見てたい─
…嗚呼、もう朝か。
ただ着替えて、朝ご飯を食べて、
電車に揺られ、デスクに向かい、
終電に乗って、鞄から鍵を取り、
玄関を開いて、風呂で体を洗い、
夜飯を食べず、ただ眠りに着く。
繰り返すだけの日々。失うことだけの日々。
何も変わらない日々。自分を見失った日々。
娯楽のない時間を、
普通になってしまった行動で潰す。
自分の首を締める行動。
分かっても、やめられなくなった。
だから変わらないと、
変えられないんだと分かっている。
僕にはすぐに忘れてしまう夢しか救いがない。
もう、ずっと夢を見てたいなぁ。
幸せだけじゃなくても。不幸でもいいから。
だから、もう朝を迎えさせないで。
僕から、自由を奪わないで。
─20歳─
ねぇ、君は今も見てるかい?
僕ももう20歳になったよ。
成人式では小学校とか中学校の皆と会ってさ、
あの頃の思い出とか、今何してるのかとか、
他愛の無い話して盛り上がったんだ。
皆も君に会いたがってたよ。
君は今何してんだろうなってさ。
本当に、優しい人に恵まれてたね。
…嗚呼、君も生きてたら、
僕と同じで20歳だったのにね。
確か、小説家になりたいって言ってたっけ?
あの頃は自分の未来が見えないって悩んでたよね。
僕はさ、君が書いた小説、読みたかったな。
君は想像力豊かで、楽しそうで。
なのに、なんであんな事故が起きるんだろうね。
本当に、神様って不平等だな。君じゃなくて、僕だったら。
夢も中身も何もない、僕だったらよかったのにね。
もしそうなったら、君は悲しんでくれたのかな。