好きなのに行動だけでは伝わらないから手紙を書いた
手紙なら文字が私の心を代わりに伝えてくれる
そう思っていた
でも彼は文字を読むのが苦手な障害を持っている
そんなことを知らない私は
彼に強く問い詰めてしまった
「どうして?なんで答えをくれないの?」
「文字がわからない」
始めはその一言の意味がわからなかった
見え透いた嘘をついていると思ったけど
ネットで調べたら
『ディスレクシア』と出てきた
その説明を読んでいくうちに私が止まらなかった
「なんでわかろうとしなかったんだろう」
親の転勤で引越しが決まった彼に声で訴えた
最後の登校で初めて知った引越しの件
誰もいないオレンジの空が似合う雲が浮かぶ空の下で
私は、声が枯れるまで謝罪の言葉を叫んだ
「ごめんね!わかってあげられなくて。でも!私は」
そして最後にかすれ始めた声に
「好きだよ」を言った
彼は大きな声で
「ありがとう」とだけ言った
その言葉に私は精一杯の笑顔で応えた
「初めまして」
いつも仕事で新しい仕事仲間が現れると
その初対面の方と会話する時に
その一言を言うのが苦手な時がある。
これからこの人と関係を築くのかと思うと
うまくやっていけるか心配になる。
そのネガティブな精神を180度変えてくれるのは
いつも相手の優しさだったり
人によっては私からのちょっとしたアプローチを含む
声かけだったりする。
何かの拍子で関係が悪くなることを恐れるより
いつも始まりは
深い意味を持たない「初めまして」から
一歩を踏み出すのが正しいのかもしれない
親友とのただ一度だけのほころびから
職場でも今までのように手がつかず
次第に上司に怒られ続け
次第に同僚も離れていった
少しでも彼女との関係を修復しようと思っても
一度すれ違いをしてしまうと
もう戻すことはできなかった
戻す方法がわからないのではなく
戻そうとする前向きな気持ちを自分で見つけられない
一度去ってしまった元彼に復縁を求めるのと同じで
修復するのは難しいと諦めている
「あの時あんなこと言わなきゃよかった」
そう思って自分の頬を何度も引っ叩く
そんな後悔ばかりしている
最後の命綱として親友のあの子にLINEで
「会って話したいことがある」
その一言を崖の下から投げてみたけど
崖の上の彼女の足元まで届かなかった
秋晴れの空から降ってくる紅葉と同じ名前のあの子恋し
あの人が去ってしまった日もこんな秋晴れだった
焼き芋を分け合う猿がいたならばその日はきっと秋晴れだった
使い捨てマスクのように
過去の恋なんて全て忘れていた
実らなかった恋がほとんどだった
それくらい私は地味で
それくらい私は人を知らなかった
そんな私をおしゃれ下手から上級者に昇華したのは
初めて付き合った年下の彼だった
外見だけではなく
その人は私の内面まで綺麗に仕上げた
人を知らない私は
恋を実らせることの出来ない私
彼はそれを見抜いてた
私のトータルコーディネーターとして近づいた
その本心を私は見破られらなかった
詐欺のようで詐欺ではなくて
友達のようでただの友達でもない
そんな中途半端な恋だった
彼は言った
「俺が君に近づいたのは君を放って置けなかったから。
危なっかしくて見た目も地味な君を。
気づいたら新たな色に染まった君に恋をしてた。
でもそれは、俺が作り上げた理想の女だからではなく
俺が手助けして仕上がった素敵な女になったから」
その彼の本音を聞いて私は涙が止まらなかった。
そんな素敵な告白をした彼は
突然、海外に飛び立って姿を消した
理由は日本のテレビの報道番組で知った
彼は特殊詐欺の仲間だったが
本部となる半グレ集団から逃げるため海外に逃げた
でも、彼はある晩に山で暴力を振るわれ銃で撃たれた
この世から去ってしまった
「あの人は貴方を好きなように遊んでいた。
もう、忘れたほうがいいよ」
そう友達が言っても私は
嘘かもしれない良い面も本性の悪い面も
好きになっていた
忘れたいのに忘れられない人にした彼の罪は
彼が実行した特殊詐欺並みの大罪である