見てみたいよね、脳裏
暗い
目が覚めて、朝のはずなのだが目の前が真っ暗だ
夢の中にいるのかもしれない
でも、布団を触っているのがわかる
少し起き上がるといつもの床の感触がわかる
何も見えないのに歩くのは危ないと思ったから布団の中に戻った
何かの病気か、ともかくこうなる心当たりがない
目を閉じても、開けてもずっと真っ暗
距離感も何もわからないほどに暗い
どうしよう…
「ここか」
「はい、相場さんの家はここっす」
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、僕も心配ですから」
「無断欠勤をあの真面目な相場がやるとは思えん」
「そうですね…とにかく、何か見つけたら連絡してください」
そう言って後輩の猪秩と別れる
相場の家と向かい合う、2階建てだ
…なんだか胸騒ぎがする
場合によっては警察も視野にいれねばならないかもしれない
相場の家の合鍵を使い扉を開ける
「誰かいるか?」
「深井さん?深井さんですよね?」
相場の声がした、思ったより明るい声が返ってきたので困惑している
「元気なのか?」
「はい、すいません携帯の場所が分からなくて連絡出来ませんでした」
2階からそう声がした、
階段を上がっていく上がるごとに視界が狭まっていくのを感じる
13段上った辺りで違和感に気付く
暗い
今は昼時だ、どんなに窓を閉めきっていても多少の光は入るはずだ
暗すぎて足元が見えない、うっかり転んでしまいそうだ
もう少し上ると完全に真っ暗になった、なにも見えない
「深井さん、何で上ってきたんですか」
相場の声がするだが、姿が見えない
「暗い所なんて来るもんじゃないですよ、何もないお先真っ暗なんですよ、文字通り」
「相場いるのか!?どうなってる!」
「分かりません、ただ暗くなっただけですよ」
「今は午後の13時だぞ!暗すぎる!」
「僕に未来なんて無いんです、家族も友達も居ない夢もお金も無い僕にそんな先の見えない暗い現状が僕の周りにこぼれただけなんですよ」
「お前は仕事だってちゃんとやってたし、後輩の吉城と仲良くしてただろ!それに今こうして俺がここにいる、まだ未来はあるだろ!そんな訳の分からない事があってたまるか!」
「でも、現になにも見えてないじゃないですか」
そう相場が言うと、一筋の光が目の前の暗闇に差し込んできた
相場が見えた
相場の手を掴む
「うわ!」
相場が悲鳴を上げ走り出した
「何で逃げる!」
「何だ!幻聴じゃなかったのか!何の手だ!握られた!」
「違う俺だ深井だ!」
「深井さんなわけない!俺は一人なんだ!」
相場が走り、壁や家具にぶつかる音がする
俺も後を追うが暗くて見えずに思うように動けない
「うわぁ!」
そう声がした、最後に差し込んだ光が映したのは
階段から滑り落ち、体があり得ない方向に曲がった相場の姿だった
息を確認したが即死だった
何故、2m程度の高さから落ちて死ぬような怪我を負うのか?
何故、目の前が真っ暗になってしまったんだ
何故、俺から逃げたんだ
何故、
そんな嬉しそうな顔で死ねるんだ
光は消え目の前が真っ暗になった
いつもとは逆の電車に乗ってみた
会社への通勤中なのだが…
まぁ、1日くらいいいだろう
毎日頑張ってる自分に対するご褒美
そう、ご褒美
一応、このままだと無断欠勤になるので会社に連絡をしようとスマホを見たが、急にげんなりしてしまったので、やめた
いいや、明日なんとかしよう
人が居ない、毎日ぎゅうぎゅうに人が詰められた駅や電車にいたお陰でとても静かに感じる
窓を見るといつもとは逆に景色が流れていく
ついに知らない景色が見えるようになった
コンクリートジャングルから
赤の紅葉が素晴らしい林が並び、間には湖がある
…きっと、この景色の先
電車の向かう先に、もっと素晴らしい景色があるはずだ
是非見てみたいものだ
悲しい
嫁に逃げられ親権も取られた、親戚や友達さえも俺が悪いと言う
良くしてやってるつもりだったのに俺が話しても無視するし、家事を手伝っても自分でやると言われる久しぶりに出掛けようとしてもゆっくりしていたいと言うし、娘だって最初はあんなに甘えてたのに気が付けば嫁にべっとりだった
家族も子供の頃はまだ暖かかったのに、高校を卒業してから一人暮らしをはじめていままで仕送りもなし、連絡もしてくれないこっちから話しても素っ気ない返事のみ
友達も一緒に遊んでも楽しそうにしてくれない、俺が居ないときは楽しそうなのに
仲間は居ない、誰も俺のそばにいてくれない
ただ悲しいだけなのに、どうして皆
私をほっておくのか
「え?あいつ?…いつも寂しそうにしてて、可哀想だねって思うよ、うん」
「うちの子?…ああ、そうですね心配ですし仕送りはしてますよはい」
「まぁ、可哀想だし一応付き合ってやってますよ友達付き合い大事ですし、でもまぁ可哀想っすよね」
「なんかさ、「私、可哀想でしょ?」ってやられるとどうでもいいってなんない?つまらない話みたいにさ、「あ~またね、いつものねって」なるんですよ」