- 冬晴れ -
「あれは天使の爪なの」
ふとそう言われて、僕はちょっとぎょっとした。ぼんやりと、歩道橋の上で空を見上げていただけの僕。鼻につくくらい清潔で、肌が痛々しくつっぱるような空気の中。僕は油断していて。そんな中凛とした声が隣から聞こえてきたものだから、僕は少し意表をつかれたのだ。
隣の少女は長いまつげをふるふるっと揺らして、瞬きをする。彼女の視線と高らかに掲げた指先は、天空に注がれている。背筋が良い、少女。年は僕と同じくらい、かな。
「きっと天使の切った爪が、ここまで飛んできてしまったの」
彼女の指先を目で追う。そこにははっきりとした気持ちの良いブルーの空の中にうっすらと、白くて細い三日月が溶け込みそうに浮かんでいた。
剥がし損ねた白いシールの生き残り、のような。きっと指でなぞったら紙の繊維とほのかな粘着が感じられるような。そんな弱々しくて遠慮がちな、透明度の高い白色。天使のかけら。
僕はははあ、と。とりあえず曖昧で不確かな相槌をする。頼りないつながりの3文字に呼応するように、僕の口からは白い息がふんわりと吐き出された。
天使の爪が三日月なら、天使の吐息は何になるんだろう、僕は澄み渡る空気の中、薄ぼんやりとそんなことを考えた。
- 幸せとは -
誰かひとりを幸せにしても それが他人にとっての不幸せであったりするから むずかしい
幸せはいろいろな形をしているから すべての人を幸せにすることはできない 幸せが均一なかたちだったら よかった
それに気付かされないために 人間は 不揃いなものが美しく感じられるように作られている
- 日の出 -
水平線の向こう。きっとはるかはるか遠くの、その向こう。ぼてっと輝くインクを垂らしたかの如く、光が滲む。滲んで、空の赤い色とまぎれ合うみたいに、ゆっくりとあがっていく。海の表面からじんわりと、顔を覗かせる、小さな眩しい染み。そのまま海水と溶け合って、輝くインクで満たして欲しい。その時の海はどんな味がするんだろう。でも2人の間にはずっとずっと、遠い距離があるから、叶うことはない。夢。
- 今年の抱負 -
立つ鳥跡を濁さず