#向かい合わせ
死んだら楽になれるのかな…
生きてたらいいことあるのかな…
死んだら誰かが泣いてくれるかな…
生きたてたら誰かと笑い合えるのかな…
死にきれなかったら怒られるのかな…
生きていけば褒められるのかな…
ふわりと揺れたカーテンに
小さな人影が一つ
彼女は、
生と死の間にいた
手すりに手をかけて
呟く
ほら、また…
#海へ
「海になりたい。」
ある日彼はそう言った
普段から陽気な彼だ。
『なれるといいね。』
とりあえず、そう言っておいた。
冗談だと思った。
星が綺麗な夜に
彼は車を走らせた。
行き先を聞くと、彼は
「海にいく。」
とだけ言った。
いつにもなく真剣な顔をしていた。
あの時、
なぜ私は、いつもの様に質問攻めしなかったのだろう。
なぜ私は、素直に聞き入れてしまったのだろう。
海沿いの高台に着いた。
ここはいつもカップルで溢れかえっていたはずだが、
この夜中誰もいなかった。
だから好都合だった。
私はこの機会を利用して、彼にプロポーズしようと
思っていた。
彼が海を眺めている
その背中に声を掛けようとした。
大好きだって、結婚しようって。
でも、それよりも先に彼は言った。
「君は来ないでね。」と
私は理解が追いつかなかった。
彼はもしかして私が告白しようとしていることを
察したのだろうか。
だとしたらとんだ嫌われ者だ。
「あともうひとつ。」
突然彼が言った。
「今までずっと好きだった。」
『…え?』
嫌われたわけじゃなかった…
よかった…
ほんの一瞬、そう油断してしまったから。
「今までありがとう。」
そう言って、彼が手を振って、海に身を投げようとしていることにも気づけなかった
バシャン
荒波の中に、彼は消えた。
私は覗き込み必死に探した。
しかし、彼の姿はおろか、
残像さえもなかった。
まるで初めから
こんな“人間”は存在しなかったかのように。
海には泡だけが残っていた。
泣き崩れる私の脳裏に
彼の言葉が蘇った。
“海になりたい”
“君は来ないでね”
手のひらから溢れた一粒の涙が
静寂の海に溶けていった。
#裏返し
『君だけを愛してる』
そんな言葉
どうせ表の顔なんでしょ?
そんなあなたを裏返し。
するとどうだろう?
『他に愛する人ができた』
そんな言葉に変わったよ。
表裏つけるぐらいなら、
浮気なんてするなよ。
人の裏の顔を見る能力
嘘はすぐにわかる。
だけど、
裏返さないほうが
幸せなこともあるみたい。
#鳥のように
逃げ出したかった。
鳥籠から出た鳥のように、自由に。
この退屈な日常は、
まるで牢獄の中にいるみたいで。
冷たい場所でただ一人
声も発せず顔を埋める。
そんな僕を連れ出してくれたのは、
君だった。
炎天下、雨の中、嵐でさえも立ち向かっていく
君はこう言った。
“君は飛べないんじゃない。
飛べないと思い込んでるだけだ”と
君の言動に、背中を押されたんだ。
暗い夜、僕は牢獄を抜け出した。
できるだけ遠くに
もう囚われないように。
自分の翼を精一杯動かして。
ついに大きな崖の上へとたどり着いた。
見上げた空に、星がひとつ。
朝日が頭を出した時、
朝の空に二人の鳥が飛んでいた。
#さよならを言う前に
さよならを言う前に、
君に愛してると伝えたい。
さよならを言う前に、
大好きなものをたらふく食べたい。
さよならを言う前に、
ずっとやりたかったとこをしたい。
どれもこれも達成できた。
でもひとつだけできなかった。
それは、
さよならを言う前に、
自分を好きになること。
多分それが出来てたら、
さよならなんてしなかった。