『私の日記帳』
私の日記帳のはずなのに、
書いていることは貴方のことばかり。
『向かい合わせ』
いつも通りの時間に電車に乗って、
いつも通りの暇つぶしをする。
電車内には私以外にはいない。
これも、いつも通り。
それなのに、今日は違った。
向かいの席に、女の子が座った。
同じ制服に身を包んでいる。
驚いて無意識に凝視していると目があった。
なぜだか視線をずらすことができなかった。
それから毎日その子は現れた。
一言も言葉を交わすことはなかった。
だけどいつも、視線を合わせて心のなかで会話する。
向かいに座った彼女と私の行動が
いつも通りのものになろうとしたとき、
物語はゆっくりと歩みを進め始めた。
『やるせない気持ち』
交通事故があった。
彼女が轢かれて亡くなった。
俺はすぐに加害者側の運転手に抗議しに行った。
運転手も亡くなっていた。
事故の原因は、信号無視ではなかった。
飲酒運転でも、スピードの出し過ぎでもなかった。
道路に飛び出してきた野良猫に驚いてハンドルをきってしまった。
そして、対向車線にはみ出て、彼女の車と接触した。
この事故に、悪役はいなかった。
結婚式のドレスを決めた日の、帰り道だった。
どこにもぶつけられない怒りと辛さがただただ、俺を襲った。
『海へ』
浦島太郎っていう物語、知ってる?
あの話に出てくる竜宮城って実在すると思う?
私は、あると思ってる。
きっと、黄泉の国より素敵なところ。
え、理由?
だって城から帰ったとき、
地上ではとんでもなく長い時間が経っているでしょう?
てことはさ、
あの子もあの子もみーんないなくなってるってことでしょ?
そんなの、最高じゃん?
だから、探しに行くの。
え、見つからなかったら?
なにいってるの?あるニきマッてるデショ?
だって、
一昨年行った女の子も
その次に行ったお祖母ちゃんも
一緒に行ったお祖父ちゃんも
去年行った男の子も
10か月前の女性も
5ヶ月前の男性も
みーんなみんな
カエッテコナカッタンダカラ。
『裏返し』
親が怒るのは愛情の裏返し
兄が着てる服はいつも裏返し
先生が怒るのは期待の裏返し
洗濯の靴下はいつも裏返し
嫌いは好きの裏返し
好きは嫌いの裏返し
私の言葉はいつも裏返し