目の前に1人の人間。誰だろう?それは、自分。私が動けば、そいつも動く。
かわいい相棒と、鏡の中、向かい合わせ。
人が、やるせない気持ちになった出来事について語っているのを聞く時。それこそ、自分は、やるせない気持ちになるのです。
「海月になりたい、何も感じず、美しい、海月に。」
あの子はよく言っていた。
「海月ってね、死んだら溶けて消えちゃうんだって。」
だから、私は海へ行く。
海の中で死んだなら、海はとても薄まった私になるから。
そしてずっと待つの、あの子が海月として私の中へ浮かびに来るのを。
あの子が溶けて、私に混ざる瞬間を。
「この中から好きなカードを裏返して!」
なんて僕の好きな子が言うものだから、会話出来たことをみっともなく喜び、そしてそれを悟られないように、敢えて素っ気なく一枚選ぶ。
「ふむふむ、このカードはね……実はさっぱり分からなくて!君と話したかっただけ、私の好意の裏返しだよ!」
引っかかった~なんて喜ぶこの子に、僕は、初めて、素直な気持ちを口にした。
鳥のように飛ぶ金属の塊、飛行機のことだ。
これは確かに飛んでいる、飛んでいるのだが、僕にはそれを鳥のようだと言う人が理解できない。こんな、決められた時間通りに決められた場所へ、沢山の人を乗せて世の役に立つ、そんな鳥が居てたまるものか。もちろんパイロットだってそうだ、鳥じゃない物に乗っているだけの操縦士が鳥になり得るわけが無い。
もっと自由に大空を羽ばたく生命、それこそが鳥というものだろうに。
ここまで僕が鳥というものの神聖性に拘る訳というのは、昔ペットとして飼っていたからに他ならない。
過去形なのは……まあ、寿命だ。最期、僕には彼女の魂が見えた。確かに見たんだよ、空へと羽ばたく彼女の魂を。そしてこれは心底不思議なことなのだけれど、僕はその光景になんて思ったと思う?
鳥のようだ、と思ったんだ。
そのまんまじゃないかと自分でも思うのだが、どうも鳥籠に入れられていた頃の彼女のことを、今ではもう鳥だと思うことができない。
鳥のように飛ぶ不思議な生き物、正しく鳥のことだ。だけど、鳥のように飛べないやつを、僕が鳥だと認めることは無い。
ならば彼女は、生前一体なんだったのだろう。ふと、空を飛ばぬまま一生を終えるなんて、まるで人のようだと気が付いた。僕は彼女を人にしてしまった、常に嘆いていた退屈な種族へと、僕自身が彼女の羽をもぎ取って引きずり下ろしてしまった、この罪悪感が消えることは決してない、それなのに、彼女は最期、あんなにも穏やかに空へと消えていったんだ。
最期にはちゃんと鳥に戻れたのだ。
一方で、こんなことを未練がましく考えている僕は、これ以上無く人なのだ。きっと死ぬ時だって、人以外の何者にもなれやしないだろう。」
そんな話を長々と友人に話し終えた頃、こう言われた。
「君だって鳥のように空を飛ぶじゃないか。今だって、金属で出来た立派な翼で、大空に飛び立っているのに。」
「あのね、君は僕の話をまるで聞いてなかったのか?いいかい、もう一度初めから話すよ。