僕は傘を忘れた。
しかしそんな僕の隣で傘を開いた君がいた。
君は僕の方をチラッと見てから少し下を向き、走って帰ってしまった。
僕はあの子が好きだった。まぁでも、嫌われているだろうなと考えた。
仕方がないから僕はカバンを傘替わりにして君を追いかけた。
少しあの子の話をしよう。
あの子は高校になってから隣の席になったんだ。
最初は僕もあの子も気まづそうにしていたけれど、時が経つにつれて心を打ち解けてきたんだ。
授業中にメモ帳をちぎって絵しりとりしたり。
先生の愚痴を言ったり。
好きな人を探りあったりして。
雨が降った日はいつも一緒に相合傘をして帰って。
お互いの肩が近くて、僕はドキドキしてたけど、あの子は僕の方を見ると照れくさそうに笑って「ありがとう」って言ってくれたっけ。
あの子は雨の日はいつもびしょ濡れで登校してきて。
僕がいつもあの子を傘に入れてやった気がする。
そんな日常が突然パタンと終わってしまった。
僕は交通事故にあった。
あの子は毎日お見舞いに来てくれた。学校であった出来事を楽しそうに話してくれたり、時に僕の前でだけ泣いてくれたりした。
くしゃっとした泣き顔がとても可愛く思えた。
手術の時、あの子は何故か来なかった。
きっと用事があったんだろう。
その手術はとても簡単な手術らしい。
僕はすぅっと目を閉じた。
次の日、目を開くと、学校の門に居た。雨が降っていた。
きっと僕は疲れていて、ここまでの記憶がすっ飛んだんだろうと思った。
それか手術の後遺症だろうか?
ここはあの子といつも一緒に待ち合わせ場所にしていた所だ。
懐かしさに浸っていると、横に君がいた。
君は僕の方を2度見してとても悲しそうな顔を浮かべていた。
僕はたまらず声をかけた。
「なぁ、一緒に帰ってくれないか?」
しかし、君は何も反応せずにただただ靴を履いて、紫色の傘をさして帰ろうとしていた。
無視されて悲しくなったとともに、涙が出てきた。
「どうして無視するんだ?!なにか、なにか君に悪いことをしたのなら謝るよ!!!!」
そんな僕の声も届かず、君は少しこちらに振り向いてまた前を向き走り出した。
僕はたまらず君を追いかけた。
すると
君は小さな声で何かを呟いていた。
「手術の日に行けなくてごめん。待ってて、すぐそっちに行くから。」
君は道路に飛び出して車のタイヤに引き摺られる。
君の悲鳴がセミの鳴き声によってかき消された。
いつの間にか晴れていた。
傘など要らないくらいに。
1年前は何をしていただろうか。
部活が楽しくてしょうがなかった時だろうか。