「空飛ぶくじらに会いに行くの!」
黒い髪をなびかせて笑った彼女は、
いつまでもサンタを信じ続ける子供のような、
そんな純粋な瞳をしていたから、
だから、
だから私は、
「そっか。私も連れてってよ」
って思わず呟いた。
「笑わないの? うそだーって」
「笑わないよ」
いるんでしょう。きっと。
あなたが言うのなら。
塾の帰り道、公園でお祭りをやってるいるのを見た。
地域で行われる小規模なものな上、もう遅い時間のため、人はまばらである。
受験生の身。夏休みは無論塾でほとんどが埋まっている状況で娯楽などあるはずがない。荒んだ日々を過ごしていた私には、その祭りはある種のテーマパークのように写った。
思わず近づいていこうとして…遠巻きに、参加している人たちが目に入る。
可愛い浴衣を着た女の子。
甚平を身につけた男の子。
軽装で来ているカップル。
うちわを帯に挟んでいるおばあさん。
みんなが笑顔で、なんだか私はそれだけで十分だった。
また時間作って、可愛い浴衣を着て行こう。
そう思って、私は帰路についた。
誰かのためになるのなら、と毎日教会で祈った。
紛争地の子供たちが救われますように。
嫌な親を持った子供が将来報われますように。
世界で誰も人が死にませんように。
殺人がなくなりますように。
自殺がなくなりますように。
「祈ってるだけでどーすんの」
教会に行く前の朝、弟が私に話しかけた。
ふとテレビのニュースが耳に入った。
14歳の少女が飛び降りたらしい。
私の祈りは誰も救うことができていなかった。
2-3の教室の窓際には小さな植木鉢がある。
担任が「なんだか可愛らしかったから」という理由で買ってきたものであるが、結局しばらくの間、そこには何も植えられずにいた。
ならば僕がちょっくらやってみるか。
と、種を買って一から育て始めたのは約3ヶ月前だ。
寂しかった植木鉢に、今は綺麗な花が咲いている。
「わぁ、すごい! 綺麗なお花!」
いつものように水やりをしていたら、後ろから弾ませた声が聞こえてきた。
「これ、なんてゆーの?」
思わず振り返ると、同じクラスの植草 彩花…だったかな。が、満面の笑みを浮かべて立っている。
「コスモスだよ」
「コスモスかぁ……可愛く咲いたねぇ」
「うん。よかったよ」
「……ねぇ」
植草さんが上目遣いでこちらを見た。
「次、育てるときは私も誘ってほしいな」
私興味あってさ、こーゆーの。
そう言ってふわりと笑う植草さんは、僕が3ヶ月かけて咲かせたコスモスよりも可愛らしかった。
隣のあの子の視線の先には、
クラスで人気者のサッカー部の男子…
…の視線の先には、
クラスで一番可愛いダンス部の女子…
…の視線の先には、
クラスで成績トップの図書委員会の男子…
…の視線の先には、
今授業をしている我らが担任…
…の視線の先には……
「おい、当ててるぞ。
52ページの問3だ」