明確に、打撃を与えた出来事があった。
できることなら過去に戻ってやり直したいぐらいの。
後悔ばかり募っていく。ぐちゃぐちゃしたどす黒いものが心を蝕む。
あのとき、会うことにしていれば。
あのとき、かけた電話を切らなければ。
あのとき、繋いでいた手を離さなければ。
あのとき、甘えていれば。
あのとき、好きだと言えたなら。
だったなら、どんなに良かっただろう。
この世界は理不尽だ。僕らははじめから幸せになれない運命だった。
そう分かっていても、多分、好きになるんだろうけどな。
ただいま、夏。外は暑かった。あの日も暑かった。あれから直に涼しくなって、寒くなって、暖かくなって、また、暑くなってしまった。
これからまた涼しくなるんだろう。また、寂しさを抱えたまま一年、二年、三年が過ぎていくのだろうか。冷たくなる前に会いに来てよ。
二十五作目「ただいま、夏。」
お互い生きていて自由に交流ができるうちに、好きな人には好きと伝えましょうね。曖昧は皆様を応援しております。
「ぬるっ…」
思わず、口にした。取り出し口に突っ込んだ手を引っ込めたぐらいに冷えていたコーラが、その温度を保っていると勘違いしていた。
そりゃこの炎天下の公園で、思いっ切り日向のベンチで。手だって汗ばんでる。それでも冷えていて欲しかったと思うのは我儘だろうか。
「ごめん」
そのとき、久し振りに君の声を聞いた気がした。聞きたかったのはその三音じゃなかったけれど、まぁ、良いのかな。
「もう待ってなくていいよ」
君の言葉は地面に吸い込まれていく。別にそれだって聞きたかった音じゃなかったし、どうせなら「待ってくれてありがとう」の方がマシだった。君はいつもこうだ。だから僕は君が世界一大嫌いで大好き。
「暑いから、帰って」「嫌だ」「なんで」
君こそこんなクソ暑い中で長袖で、汗が滴り落ちている。そんな奴に心配される筋合いは無い。しばし押し問答を繰り返したあと、「…わかったよ」と君は諦めたように立ち上がって、僕に背を向けた。帰るのか。そうかそうか、冷房の効いた部屋でゆっくり休め。
「…あつい……」
僕はと言うと、その場から立てずにいた。なんだか頭がぼーっとしてくる。空は青く澄んでいる。白んだ眩しい視界。そっと目を閉じて、全てを無に帰す。
「つめたっ…」
「コーラ」「え、え…?」
頬にぴしゃりと冷たいものが当てられて、僕は現実世界に引き戻される。君の顔が逆さまに見えている。両手にはコーラ。その片方を僕に手渡してきて、つい受け取る。帰ってなかったのか。
「ぬるいのは俺のね」
「あ、ありがとう…?」
プルタブを押し上げる。口をつけると、すぐに冷たいしゅわしゅわが喉を潤してゆく。美味しい。
「なにこれ、こんなに待ってたの?」
僕の隣で、ぬるい炭酸と無口な君がにらめっこしている。また前みたいに本音で話せるまで、生涯捧げて待っていようか。
二十四作目「ぬるい炭酸と無口な君」
このあと、「ていうかこれ間接キスじゃん」って話で盛り上がります。なんか、仲いいけど本音で話せない関係性ってありますよね。
曖昧は炭酸が飲めないので、飲める人にちょっと憧れています。
貴方の手を擦り抜けた試験管が、音を立てて割れた5時間目の理科室。
周りの同級生の悲鳴と先生の慌てた様子に、貴方はただ瞳を震わせていた。
私にはそのガラスの破片と、貴方の目が、とても美しく見えたんだ。
そのとき貴方と目が合って、私は誤魔化しに窓を見た。
思いの外眩しくて、目を瞑った。
ぼんやりした真っ赤な世界。
二十四作目「眩しくて」
毎日このぐらいの内容量で、このぐらいの字数で書けたらいいな。
俺はミミズが嫌いだった。いや、今も嫌いではある。
駅に向かう道中、俺はアスファルトの上で干からびているミミズを何匹も見かける。何故こんなにも温度の高いところにでてきてしまうのかは分からない。以前踏みかけてからより鬱陶しく感じるそいつらを、絶滅させたいとも思った。
ミミズは他の虫とは違う。環形動物とやららしく、なんかうにょうにょしている。泥みたいな色をしてるし、動き方もなんか嫌だ。コンクリートジャングルに住む俺と、畑に住むあいつらは分かり合えない運命なんだ。
「あっ」
思わず足を止める。ミミズだ。しかもまだ生きてやがる。
そのとき、俺の中で謎の好奇心が作用し、地面にしゃがんで子供のように観察してみることにした。一応スーツを着た社会人男性だが、人が通らないタイプの田舎なので関係無い。
ミミズの動きは蠢くというか悶えるというか、それでも懸命にからだを動かし水を求めていた。なんだか今の会社内での俺みたいだ。
こいつも、生きてんだな。小さき命から熱い鼓動を感じた文月。
二十三作目「熱い鼓動」
ミミズという生き物は、曖昧にとって特別。好きではないけれど。
ここは、天国だろうか。どこを見ても美少年、美少年、美少年……成る程、ここは天国だな。しかし何も無い…ただ、美少年達が此方に微笑みかけているだけで、これでは景色とも呼べないな。なんだこの空間は…。
一番俺好みな美少年に「ここはどこなんだ」と尋ねてみた。
どうやらここは天国でも地獄でもなく、オアシスと呼ばれる場所らしい……この美少年の集団は確かにオアシスと呼ぶに相応しいが…そもそも死後の世界なんてものが本当にあったことが驚きだ。で、俺はこれからどうすれば良いんだ…?
「お兄さんのしたいようにしなよ」と、俺好みな美少年が言う。日本人形みたいに艶のある黒髪に、愛嬌のある垂れ目。声変わりしていない彼の声が、なぜか懐かしく感じた。
「ここにいてもいいんだよ」と、美少年が宣う。
「でも、ここはオアシスだから…唯一の、休息だからね」
どういうことなんだ、と聞けば彼は表情を曇らせる。曰くここは現実で言うところの砂漠的な場所で、俺は運良くオアシスなる美少年達の集いに放り込まれたらしい。生死を彷徨っている状態だから、本当は直ぐにでも目覚めるべきだそうだ…。正直訳がわからない。
彼は俺の首筋の痣を撫でた。
「お兄さん…どうしたの?」
俺はすぐには答えられなかった。この無垢な少年が、自分の生み出した幻覚等では無くて、ましてや神の下僕たる天使でもなくて、俺の幼い頃の罪と過ちによって永遠の美少年となってしまった悲しきあの子だと気が付いたからだった。
ようやく、口を開いた。もうどうにでもなれ、と諦めた。
「君が、殺してくれるのかと思った。」
そんな訳、無いよな。そうだよな。そうだと言ってくれよ。
俺はオアシスの水で喉を潤す。毒素の含まれた、甘美で耽美な聖水。ギチギチと鳴る縄の音と、頸動脈や喉仏が絞まる感覚。この頭痛はいつになったら止むのだろう。
二十二作目「オアシス」
これはオアシスと言うよりハーレムです。皆さんも適度に水を飲み、熱中症には気をつけてください。曖昧はメンタルがクソザコなので、美少年を書くことで精神の安定を保っている☆彡