【力を込めて】
あー…これは…。
「何とかしてよ郵便屋さん」
えぇ!?私ですか!?対処出来なくはないですが…。
「アンタしか頼れないべ」
うっ…押しには弱いので…。せーの!
―
サイバー?っていうのあれ。この辺じゃ見ない格好だけどあの郵便屋はよく見る。最新技術ってスゲーんだな。道塞いでた巨岩を拳で砕くんだもの。だとしてもだ。反動ヤバそう。やっぱり、あの郵便屋自体も強くないか?ん?郵便屋の見た目?気弱な女子だが?正直あの体躯でありとあらゆる場所に郵便物届けてるっての信じられない程にか弱そうだけどね。
【過ぎた日を想う】
笑えていた日はいつだったか。何も知らない頃はいつだったか。思い出そうとしても過るのは先輩の顔。先輩のいない人生だってあるのに。それが全て先輩に塗り潰されている。先輩は何一つ悪くない。悪いのは…拳を握り締める。恋心と復讐心。混ざりに混ざって気が狂いそうになる。
「また考え事か」
友人に声を掛けられる。
「…あぁ」
マトモに顔も見られない。嫌いな訳でも苦手な訳でもない。ただ…気まずいだけ。あの日から日常がズレにズレて地に足ついて生きている気がしない。俺だけが別の世界に取り残されている。
「帰ってくる日を願ってる」
口数の多くない友人はさらりとそう言って去った。アイツも俺が孤独なのを理解しているんだなって思う。その願い俺だって叶えたい。普通に生きていたい。声を殺して泣いた。俺なんかが背負える問題じゃないがシェアして軽くなる問題でもないんだよ。
【星座】
星を見るのは好きだけど十二星座覚えるのがギリギリじゃない?そんな事ない?記憶力良いんだね。クジラ座とかあれのどこがクジラなのさとか思ったよ。神話から来てるって知って読み始めると沼に嵌まってー。キリないよねぇ。何事もさこれとこれが作用しててこれをもっと知りたかったらこれを知る必要がーとかなってさ。知識ってあるだけいいけどさー過程がしんどい。資料探しとかのしんどさがね。そこまで楽しめる人間になりたかったよ。あ、星見るか。知識披露してよ。覚えただけとキチンと知識として培ってるのは違う?そっか。
【踊りませんか?】
Shall We Dance?なんて。まぁでも、お手を拝借。踊り方なんて知らない?結構結構。素人らしさが出てる方が俺が映える。そういう目的かっ!だって?そ、最初からそのつもり。ほーら、嫉妬、羨望が気持ちいいねぇ。此方は恥ずかしいだけだって?踊れてる踊れてる。はい、曲終わり。良かっただろ。良くない?まあまあ、これ夢だから。夢オチなんてサイテー?じゃ、お前は目の前の俺が本物の生徒会長様の方が良かったのかね。宜しくないだろ?モブで生きてきた奴が急に学校の高嶺様とダンスだなんてね。ガチ嫉妬と羨望はお前が壊れちまうぜ。じゃ、おはよう。
―
頭痛い…。変な夢見てた気がする。覚えてないけど変な夢…。あ!遅刻遅刻!
【巡り合えたら】
時々思う事がある。即死出来る様な高い場所から飛び降りたら彼女に会えるんじゃないかって。でも、彼女と同じ死に方をしたって…とも思う。幼少期、僕には大好きな女の子がいた。金髪で大きなツインテールを揺らしていたチャーミングな子。
「空に近いところで告白されるのが夢なの」
そう話していたから屋上に呼び出して告白したのに彼女は満足げに微笑んで身を投げた。広がっていく血溜まりで死んでいるなんて思えない程の満面の笑みの彼女の顔を今でも夢に見て、嘔吐する。あの時、僕が悪いんだと散々わめき散らしたが誰も責めてくれなかった。これは君が持っていた方がいいと手渡された彼女の日記の最後の一文。
「世界で最もいとおしい彼の記憶に残る為に逝くの」
君の思惑は大成功だよ。忘れられるものか。胃液がせり上がるが当時の僕みたいに吐く事はなかった。でも、また夢に君が出てきたら嘔吐するんだろうなって思った。