【やるせない気持ち】
どうして娘があんな姿になって帰ってこないといけないんだ?独り善がりの感情で滅茶苦茶にされてこんな…こんなっ…!体温のない手を握る。遺体は顔以外はあまり見ない方がいいと言われた。実際、握った手の爪は割れていたり、剥がれたりと痛々しい。あの娘がストーカー被害にあってるとは知らなかった。親を頼るのは恥ずかしいと思った強い意思なのか。唯一の肉親である私を巻き込みたくないと思ったのか。三日前に見た最後のあの笑顔の裏には溢れんばかりの不安を抱えていたのか。たらればが脳を満たす。もっと会話をしていれば、妻が生きていてくれれば、私に頼りがいがあれば。無意味だと分かるがこの止めどない後悔をやめられはしない。二度と動く事のない手を離す事なく、さめざめと泣いていた。
【海へ】
僕は海というものを知らない。山奥の箱庭育ちだから。興味はあるけれども冒険する気概がない。好奇心で死んでしまう猫になれない愛玩犬といった所。可愛そうだとは言わないで。安定はそれだけ幸福な事なのだから
【裏返し】
好きな子に意地悪しちゃうのは好きの裏返しだなんて言うけれどもこれが意地悪なんて可愛らしいものに見える?眼前の少女は生気が全く無く、瞳孔が開ききり、頬には涙が伝った痕がある。顔は綺麗だがシャツを捲ると腹部にはおびただしい数の痣や傷がある。三日。失踪してから三日でこうなっている。犯人は逮捕済み。素直になれなくてこんな風にしたんだと自供している。おぞましい。若い子がこうやって逝ってしまうなんて、と年を重ねれば重ねるほど胸が痛くてたまらなくなる。やりたい事、欲しいもの。沢山沢山あっただろうにと無念さを感じ取りながら少女の瞼を手で閉じる。私に出来る事は犯人に罪を償わせる事だけ。十分だろう?そんな訳がない。少女の未来と償いが平等になんてなりはしないと唇を噛んだ。正義の為に働いてはいるが正しさとはと頭を抱える日もあるし、世界の理不尽さに憤りを覚えない日はない。はぁ、祈るだけで世界が平等で平和になったらいいのに。なんて。
【鳥のように】
籠を開け放って飛び立っていく鳥を見て、自由に焦がれる描写あるよね。あれさベターだけど素敵だよね。だからさ、君も僕という籠の鳥を解き放ってくれない?足の健を切ったから走れないよ?鳥のように羽ばたくだなんて無理なんだよ?あぁ、冷たいナイフを首に突き付けて言うなんて本当に君って奴は…酷い子…うふふ。分かったよ依存してあげる。共依存で共倒れしようね♥️そういうお呪いだよ。
【さよならを言う前に】
何を感じ取っているのかしら。ふふっ。ほら笑ってよ。お願いだから笑って?本当に言いたい事を言わないとご要望には添えません?頑なね。…分かったわ。そうよ、私はもう長くないの。窓から見える木の葉が落ちたら死ぬって言うけれど本当にそれぐらいの期限しかないの。貴方は近々出張しちゃうからそれで永久にお別れで綺麗さっぱり忘れて欲しかったのに。だから、私の言いたい事はこれ。「さよなら」