(くらくなったら電気をつけるように。)
人々からくらやみを奪った怪物の腕の中に抱かれている。優しい化け物の声が聞こえなくなることは死にほど近い生命だ。文明に寄生して永らえている。
(電気を忘れずに消して眠ってくださいね!)
わたしたちを嫌う本能が呻いた。守られることに怯えながら地平線までなんでも暴いて、都市に怪物を敷き詰めながらまた眠れる夜を祈った。
真夜中の怪物は、慎重がすぎるほどやさしい手付きで命を覆った…やさしさは有限で、与え続けていられない恐怖があったりして…_、世界が無数の悪意を失うように。
自分のためなんかに争いなんてやれないよ。誰かのためだから永遠に、永遠に、続いていくお話のなんてお優しいこと。あの日といつかの満ち足りていない誰かのために捧げている青春。美談なの?
世界で一番たたかうのに親しいのは子どもを持った母親だ、って、考えるみたいに。愛おしくおもうことは、たたかいに多分、とても近い。
あなたのことを大切に思ったから、あなたを傷付ける人に抱いた、気持ちっていう名前の暴力が、とても忌々しく心臓に居座った。
流れていった笹舟みたいでした。その上に乗ってきてしまったようでした。どこまで降りてきたのか、流れの上にはもう戻れないけれど、はじめに行きたかった場所なんてこの世にないし…。
失くしたものはかえらないようでした。未だあるものもあるんですが、痛みを堪えるのは悲しいし、誰にも泣いてほしくない願いが叶わないから、空に浮かんだ星を眺める時間を失くしました。(最近は。)
風が吹いていて、通り過ぎて手が届かなくなっていて、どこに行きたいのかわからなくなっている。雲は凪いでいて、その下で人は犇めいていて、犯した間違いの数に押し潰されていました。
花を踏んだことがたくさんあったんでした。覚えてもいない間にたくさんあったんですよ。知らないで過ごせる罪悪を、知ってしまう善良さが、誰の首も締めないことを祈っていた筈でした。
生き物は消費していくことが生業だから、その手の内側にはまだないものくらいしか残っていない。形のないものを証明するために形のあるものをあつめている。そのほうがずっとずっと形がないですね!みんなが権利という名前の紙切れを集めている。紙も金も等しく口にもできない無機物に過ぎない。
『助けて!勝利の女神とか!』
何と戦って誰を負かすの!そうしていつになったら春が来るの。あたたかい季節は人数制限付きだから誰かを蹴落として生きている。それがこの世界の全て!誰もが正義になりたいって?誰かを幸せにしてみたいって。人類にはまだ早すぎたみたいですね?
わたしたち何も持っていないから何も失ってなんかいないよ!命だって証明のひとつも持っていないしそれがなんの権利の代わりになるんだろう?悲しくても嬉しくても涙を流す生き物だから、一人で!一人で。
『生まれてきてよかったです!』って!
お葬式のあとに少し胸がうきうきする感じがする人は、物が壊れるのが嫌いじゃあない人の気持ちをわかってあげられるかもしれないって思う。じぶんを知るひとを失っていく気楽さ。
大切にしているものなんて、みんなすぐになくなってしまうのに、不思議だ。目が覚めたら、驚いたことに、かれかのじょたちは生きていた。真っ白な絨毯みたいな雲のうえに、その糸くずみたいな出っ張りがいくらか現れたあと、たぶん人はいなくなる。宇宙がまばたきをする。目を閉じて、開いたら、地球はもうなかった。