空模様
「大きな雲‥‥」
通学中、淡い空を背景に渦を巻いたような白い雲が浮いていた。迫力があって思わず怯んでしまいそうなくらい巨大だった。お日様の光で照らされてる部分は綺麗で汚れを知らないくらい真っ白だ。
でも、手を伸ばしても指先すら触れることなく遠い場所にそれはいて何だか切なくなった。だから目を瞑り、脳内でこんな事を考え出した。
触ったらどんな感触なのだろう。フワフワしてるのかな。それとも水分がなくてパサついてたり。口に含んだら綿飴みたいに溶けるのかな。
僕は可能性のない事を想像するのが好きだ。よくそのような事を考えたりするので周りからはファンシーな人と言われる。
僕自身の見た目はそこまでふわふわしてる訳じゃないが考え方が不安定で底がつかず分からないのだそう。
「あ、飛行機」
すると、向こうから飛行機がやってきた。目の前には見惚れていたあの大きな雲がある。これから飛行機は雲に食べられるのだ。僕はそう思った。雲は大きな口を開けるかのようにゆっくりと形を変える。飛行機は速度を下げることなく真っ白の中に吸い込まれていった。
その途端だった。
「あれ‥?」
先程の雲が、ポツンと赤くシミのようなものが浮かんでいる。それは徐々に広がり気がつけば白い所に真っ赤な模様が出来ていた。その瞬間、赤い液体が漏れ始め地上に落ちていった。同時に空模様が不安定に変わり気がつけば快晴だったのが雨に変わっていた。
「うわぁぁ最悪だ。傘持ってないやー」
僕は急いで学校へと走り出した。
雲の異変など気にせず今は自分の身を優先にしないと。今日の空模様は何だか変だな。そんなことを考えながら僕は走った。
昇降口に着いたとき、そこに居た友人が僕を見てギョッとした顔をしていた。
「お前‥‥どうしたんだよそれ」
「え? うわ! 何これ」
僕が制服を見るとそこには真っ白なブラウスに、真っ赤なシミが付いていた。しかも、結構目立つ肩から胸元らへんに。他も濡れているがそこだけ異常に赤く汚れていたのだ。
「しかもお前、顔にもついてるぞ。だらしねーな。これじゃまるで、殺人鬼みたいだ」
「さつ‥じん」
「制服に付いてるシミもまるで血みたいだな、血の雨でも降ったんじゃないか?」
「‥‥」
「どうしたんだよ」
「い、いや。何でもない。ちょっと考えごとしてただけだから」
「ふーん。ま、いっか。いつも考え事してるからな、お前。何考えてるか分からないけれどさ、苦しくなったら言えよ?」
「うん。ありがとう」
ううん、あのね。実はね‥。
そう言いかけて僕は口を開くのをやめた。どうしてそんなことをしたのかは分からなかったが次第に心臓の鼓動が激しくなる。
僕はどうして言おうとしたのだろう。まだ何も言ってないのに、謎の後悔がよぎる。
あんなこと口が裂けても言えない。
ただ、僕は友人を見つめる事しか出来なかった。
鏡
自分にとって鏡は良くも悪くも不思議なものだと思う。
鏡は自分の邪気を祓ってくれる神秘なものとも言うし、運気を上げてくれるのだそう。あとは身支度するときに鏡は必須だ。鏡はオシャレを気遣ってくれる大切なものだ。
でもそれとは反対で良くないこともある。例えば、鏡と鏡をくっつけて起こる合わせ鏡は幽霊など死んだ人が通る霊界に繋がるのだそう。それから、ふと顔を見上げたとき、鏡に人ならざる者が後ろに佇んでこっちをみていた、という怖い話もよく耳にする。
私はオカルト系を信じる方なのでそれを想像してしまうと鏡が恐ろしく感じてしまう。例え、それをあなた達が笑って信じないとしても構わない。
ただ、それが私の妄想なのだとしても。私にとって鏡は好きとも嫌いともいえない不思議なものに違いないのだから。