私には旦那がいた。
何ヶ月前だろうか。大きな病にかかったのだ。
「もって半年でしょう。」
医師からの余命宣告。目の前が歪み涙が頬を伝っていく。
この半年間何をして過ごそうか。
「夫の好きなように過ごして欲しいな。」とか「夫が行きたいと言っていた所まで行って写真を撮って見せてあげたいな。」とかいろいろな考えが頭の中をよぎった。
夫本人に聞こう
そう決心し、翌日夫に聞いてみることにした。
「ねぇ。残り5ヶ月間なにしたい?」
「ふたりでのんびり過ごしたいなぁ。」
旦那の答えを聞いた瞬間目の前が歪んだ。
来世でまた、あなたと巡り会えたら。
私の祖母は2年前他界した。
起き上がれないほど弱っていたのに1度は皆が驚く程に回復し、起き上がれるようになった。
まるで魔法みたいに。
だが、2、3日程だろうか。
また体調が悪くなったのだ。
前よりもずっとずっと。
それから2日後、笑顔で、苦しい顔ひとつしないで静かに息を引き取った。
今、入院中の私の母も祖母のように。
1度だけでもいいからまた元気な姿を見れるかな。
奇跡をもう一度
あと少しすればこのたそがれ時も終わり、月がてっぺんを目指して歩き出す時間だ。
太陽は反対側に向かって歩いていってしまう。
心做しか太陽の方が月より歩くのが早いような気がして問いかけた。
「ねぇ。なんでそんなに早く行ってしまうの?」
「僕はもうてっぺんの景色を見たんだ。あの素晴らしい景色を早く月にも見てもらいたいんだよ」
答えてくれるはずのない太陽が、答えてくれたような気がした。
私にとっての小さな幸せ。
それは猫を撫でること。
いつも公園のベンチの下で丸くなって寝ている黒猫
その公園にお散歩しに行くと足にすりついてきてかわいい声で「にゃ〜」と鳴く。
私も出迎えてくれるように、まるでおかえりと言っているように。
きっと明日もその小さな幸せは私のことを出迎えてくれる