目が覚めると、また辛い一日が始まる。奥方無し、カノジョ無し、親無し、子無し、犬無し、猫無し、運も無し、励みも無し。
あの悪女の所為で、無し無し尽くしの人生だ。
人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった売女……人でなしの今井裕子。
目が覚めると、身体が動かない。……と言っていたのに。
覚めるどころか、緊張して眠れなかった。
だから、全身麻酔はイヤだ……って言ったのに。ナースのおねえさん!
私の当たり前……。
何が、当たり前なのか。
あの悪女に台無しにされた今の人生が、当たり前なのか。
まあ。あの売女……今井裕子には、人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった人生が、当たり前なのだろうが。
私の当たり前……と、言えば。
『無言の帰宅』かな。
誰も出迎えてくれないから、「ただいま」を言う必要も無い。
何処かの街の明かりの中で、あの悪女は幸せに暮らしているんだろう?
人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった売女、今井裕子。
そう思うと、明かりのひとつひとつが、嘲笑を浴びせているように見える。
街の明かりが無いと、星が綺麗だ。そう聞いたことがある。
七夕……。織姫と彦星の、一夜限りのロマンス。
そんなロマンスも、文字通り違う世界の出来事。
あの悪女、人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった、今井裕子。
その売女が、白鳥を追い払ってしまったから。
七夕か。
女運も落ちて、孤独な人生。
このまま死ぬのを、待つばかり。
短冊に書く願い事?
世界平和……とでも、書いておくか。
友だちの思い出……。
友だちと、飽きるほど語り合った。
夢? いいや。馬鹿な話を。
それも、遠い昔。
あの悪女の所為で……。
人のおもいを躊躇いもなく踏みにじった売女、今井裕子。
あの人でなしの所為で、ツキも落ちた。
異性はおろか、人と真面に話す機会を失くして、何年になるだろう?
友だちの思い出。
忘れた訳じゃないけど、思い出すこともあまり無い。
他人に話せるような人生を、歩ませて貰えなかったから……な。