【さよならは言わないで】
『ゔえええええん!!うわあああああん!』
『ほらほら、そんなに泣くなよ。目ぇ腫れるぞ?』
神社の境内の近くで泣きじゃくる少年と、それを慰める青年。
心なしか、青年の目にも哀愁が漂っている。
『だっでえええぇ、、もぅ会えないんでしょ?』
『いつか会えるよ。な?だからもう泣くなよ。』
嗚咽を漏らしながらも、涙を拭って何とか止める少年。
青年はニッコリ笑い、少年を抱き上げて背中を規則正しく叩いて落ち着かせる。
『会えるから。』
そう何度も言って。
やがて、純白の着物に包まれた青年は、大人に囲まれながら神社の奥深くに入ったまま、出てこなかった。
ーーー
13年後。
あの時の少年は、今や高校生。
泣かなくなったし、サッカー部のレギュラーを任せられる頼れるハイスペイケメンになっている。
校内にファンも多く、彼を狙う女子も多い。
でも、、
『なー三綱、彼女本当にいねえのかよ〜』
『ああ。俺には、心に誓った人がいるから。』
どんなに可愛い子からの告白でも、彼は受け取ろうとはしなかった。
『またその心に決めた人かよ、、どんな美人なんだろーな。』
友達が茶化す様にいうが、三綱はしばらく考え、
『その人は、女神だ。』
大真面目にそう言った。
『ワハハッマジか!ガチ惚れじゃん!!』
どんなに揶揄われようとも、彼は愛してやまなかった。
その、心に決めた人とやらを。
ーーー
そんな彼にも、遂に時が来てしまった。
『山犬様に選ばれたのよ。三綱。』
彼は喜ぶ母親とは違い、嫌悪の表情を丸出しにして『生贄か、、』と苦々しく呟いた。
『とっても喜ばしいことよ?山の神様に選ばれたのですから!』
彼が住んでいる村は、ある神様を信仰していた。
山を守るとされている、山犬。
神様に生け贄を3年に一度の頻度で捧げないといけないらしく、彼はその生贄に直々に選ばれたのだ。
とはいっても、、決められるのは実際はくじでだが。
『はぁ、、母さん。日時は?』
『1週間後の正午よ。綺麗でいて清楚な白の着物を準備しなきゃ!』
まるで結婚式の準備をする彼女の様に、母親は喜んで着物を選んでいる。
三綱は小さく舌打ちをして、自室に戻った。
ーーー
この村は、俺が生まれる前からずっとおかしかった。
3年に一度の生贄捧げますイベントに、たかが犬を祀るためにある神社。
そして、、、俺の大事な人を奪った儀式。
こんな村、俺は嫌いだ。
そんな俺も、生贄として1週間後出発する。
『はぁ、、、あの時、さよなら言っとけば良かったかもなぁ。』
あの時。そう、智和君が生贄として連れて行かれた時。
本当は、幼心にわかっていたんだ。
もう、智和君は戻ってこないって。
でも、いつか会える。って言ってくれたから、ずっと信じてきた。
もし、智和君が生きてるなら、先に俺が死んじゃうな。
『最後に思いくらい、、伝えてえな。』
無機質な天井を眺めながら、脳裏に思い人の姿を描いた。
ーーー
1週間後。
いろんな人達から祝福を受けながら、俺は神社に向かう。
道中、クラスメイトや学校の先生もいたけれど、気持ち悪いくらいの満面の笑みで見送られた。
やっぱりこの村はおかしい。
そう思いつつも、もう手遅れに等しい。
今日、俺は山犬サマの餌になる。
『いい?三綱、山犬様は、高貴なお方なのよ。決して粗相のないように。』
何百回も聞いた忠告を聞き流し、神主に連れられて社の中へ入る。
『、、、山犬様、、か。』
鏡がポツリと置いてあるだけで、犬なんて何処にもいない。
このまま餓死するんだろうな。
そう思い、何もかも無気力になって寝転がる。
木の匂いを直に感じ、何処か安心する。
だんだん瞼が下がってきた。
嗚呼、俺が寝ている間に、山犬来て食べてくれないかなぁ。
できるだけ痛く死ぬのは嫌だからなぁ。
ーーー
何処か、懐かしい匂いで目が覚めた。
もう、何年も会ってなかった思い人の匂い。
目を開けると、真正面に俺の大好きな人の顔があった。
『え、、』
『あ、起きたか〜。いや〜お前も捧げられちまったなぁ。』
体を起こすと、俺はその人の膝に寝ていた様で。
辺り一帯花畑。
『此処は、、?俺、死んだのか?』
『いーや。此処は山犬様の神域。そして俺がその、山犬様。』
『は?!はあああああああああ?!?!』
ーー
落ち着いて話を聞いてみたら、、
生け贄として捧げられた時、俺と同じ社で寝たら花畑に来ていて、先代の山犬様がいた。
その山犬様は人型で、智和君の生け贄の経緯を聞いてめちゃくちゃに悲しんだらしい。
そして、自分の役目はもう終わりだからと、神の座を智和君に譲って自由に世界を旅している、、と。
『な、なるほど、、』
理解したら、何だか追いついてなかった涙がボロボロと出てきた。
『どうした?!何処か打ったのか?!』
慌てて心配する智和君。
俺は思いっきり抱きついた。
2人一緒に花畑に倒れる。
『よかった、、よかったよ、、生きてた生きてた、智和君、、生きてた!!』
『ああ。、、三綱は、相変わらず泣き虫が治ってないなぁ。』
優しい顔で、俺の頬を伝っている涙を拭ってくれる。
嗚呼、、あの時、さよならって言わなくて良かった。
また、会えたから。
【光と闇の狭間で】
『お願いです!通してください!お願い!』
『残念ながら、ここから出すことはできない。』
長い髪を振り乱しながら一心不乱に乞う女と、彼女の前に薙刀を交差させとうせんぼしている門番2人。
『諦めろ。お前らはここから先へは行けない。ここからは神の仰られる域だ。』
厳しい声色で女を押し返す門番。
女は尚も乞いながら縋り付いてくるが、右の門番が薙刀の石突きという刃がついていない方で女を押したため、女は呆気なく下へと落ちていった。
ここは、死後の世界。
天国と地獄の狭間にある、境界門だ。
『、、ここのところ罪人が多いですね。』
落ちていった女を見るために下を覗き込んだ俺は、俺の右に立っている先輩に話しかける。
『ああ。ちょうど、下界は"夏"という季節だ。此処も暑いな。罪人が増えるのも頷ける。』
どうやら、夏は事件が起こりやすく、死亡者も、死刑者も多いらしい。
元々、天界と下界の途中の世界で生まれた俺は、下界は"人間"という人達が住んでいて、そこには心が綺麗な人も、汚い人もいると習った。
人間には寿命があることも。
心が綺麗な人が死んだら天界へ導くことも。
下界で大罪を犯した人間は地獄で捌いてもらうことも。
全てを理解している。
でも、門番という職に就いている俺から見たら、下界の人間も、俺達と変わらないのかなと思う。
ただ、悪いことをした人と、いいことをした人にわけているだけで。
『おい、ボサっとしてんな。這い上がって扉開けられるぞ。』
バシッと柄で頭を軽く叩かれ、我に帰る。
『さ、さーせん、、』
改めて顔をキリッと引き締め、俺は目の前に集中する。
天界と地獄は長い長い階段で繋がっていて、その階段の途中にある浮いた島が、俺達下っ端の奴らが育つ境界と言われる世界。そこからずーっと下は、地獄。
門はその地獄と天界の間にあり、ギリギリ地獄の気候が届かない、本当にギリギリのところにある。
門番は、地獄から来る天界に行きたいと這い上がってくる地獄の住人を突き落とすのが仕事。
かなりエグいことしてるけれど、この人間達も下界で罪を犯して死んだやつらだ。
慈悲はない。なくていい。
でも、、
突き落とした時の、落ちていく罪人の顔が、悲痛に歪んでいて見ていられなくなる。
門番は意外と辛い仕事だ。
先輩はもうベテランだから仕事をしている時は無心だ。
前聞いたら、『こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。』って言われた。
先輩曰く、地獄側に加担してしまうと、魔物に引き摺り込まれてしまうらしい。
だから俺も無心になって仕事をする様に心がけている。
引き摺り込まれたくはないからな。
ーー
ある日。
また、いつもの様に這い上がってくる罪人を突き落としていたら、
『よいしょ、、よいしょ、、』
小さな女の子が来た。
俺は女の子が来た途端に拍子抜けした。
こんな小さな子供が、地獄にいることにも驚いた。
何より、罪を犯して死んだことにも。
『、、、』
先輩は別の人を突き落とすのに夢中でこっちに気付いてない。
ちょっとくらいなら。
『君、ここから先は天界だよ。間違って迷い込んだのなら、天界入場証を見せてくれないかな。』
女の子は戸惑った顔をして、来ていたボロボロの服の裾を手が震えるくらい握りしめていた。
『あの、真夜は悪い子なの。だから、、下でいい。』
、、、自ら地獄に、、
『あっちの世界では、君はどんなことをしたの?』
『真夜、お母さんにいい子しててねって、言われた。けど、、いい子じゃなかったから、、』
女の子の足をよく見てみると、無数のアザがあった。
嗚呼、この子は、、
虐待児だ。下界にいるという、自分の子供に暴力を振るったり、暴言を吐いたりする大罪人の子供だ。
『、、、真夜が、悪いから、、王様に此処にいさせてって言った。』
『っ、、』
俺は声が出なかった。
可哀想。とも思った。だけれど、、
"こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。"
先輩の声が蘇って、、頭がぐちゃぐちゃになる。
『、、真夜、下に戻りたい。』
『ど、どうして、登ってきたの?』
声を振り絞ってできるだけ優しく問う。
女の子は言った。
『王様が、上に登ったら地獄があるからって。』
嗚呼、閻魔大王様。確かに此処は地獄です。
俺は精神的にキツいです。
どっちだろう。
俺は今、どちらを守るべきだろう。
純粋無垢な虐待児か、天界の鉄則か。
"こーいうのは、気にしちゃあダメなのよ。"
"真夜が、悪いの。"
"いいか!門番候補!大罪人に肩入れし者、それ同罪とみなす!それをしっかり覚えておけ!"
いろんな、いろんな人の言葉が頭の中でグルグル周り回って、、
ドンッ
俺は女の子を下へと落とした。
女の子は驚きもしない、普通の顔だった。
でも、押した瞬間、
『ありがとう。真夜、お母さんと一緒にいるんだ。』
と呟いた。
『、、、、、ごめんなぁ、、真夜ちゃん。』
俺は今日も、光と闇の狭間で、揺れる。
門番は、本当にキツイ仕事だ。
【終わらせないで】
カツ、カツ、、
スチールの階段を一段一段のぼるたび、ローファーの靴音が宵闇に響く。
『はぁ、、はぁ、、』
一段と踏みしめてのぼるたび、運動不足か、興奮しているのか息が上がる。
暑くなりマスクを取った。マスクは夜風に巻き込まれて吹き飛んでいった。
『ふー、、綺麗。』
階段を登ってビルの屋上に着く。
『今日はオリオン座流星群か、、』
空を見上げれば、綺麗な星々が瞬き刹那に落ちていく。
二つ三つ四つ、、たくさんたくさん綺麗な星が落ちていき、私の瞳に光を映す。
『はあああぁ、、』
大きく息を吐き、屋上の緑芝生の上に思いっきり寝転がる。
背中がチクチクしててくすぐったいけれど、それよりも私は川水の様に流れていく星達に夢中になっていた。
三十分後。
そろそろ寒くなって来たな、、帰らないと。
でも、、もうちょっとだけ。
六十分後。
本格的に寒いなぁ。カーディガンじゃ足りない、、。
でも、、星は降り続けている。
『うぅ、、さむ、、』
嗚呼、、帰りたくないな。
『何で帰りたくないんだい?』
後ろから声が聞こえて、振り返る。
『やぁ。』
シルクハットを被った西洋風の男が私の後ろに三角座りをして空を見ていた。
何かのコスプレだろうか。
『、、誰?』
『ハハハッ、、やっぱりこの星の生物はみんな疑り深いねぇ。』
いや、問題は誰なのかじゃなくって、私の心を読んだことだ。
『僕には昔っから不思議な力があってね。心が読めんるんだよ。』
、、、、、、まぁ、綺麗な星に免じてそう思うことにしよう。
『、、帰りたくないのは、家が苦しいから。』
『難しい表現をするんだね。苦しいって、、どういう意味?』
『苦しいのは、お母さんが原因なんだ。生まれた時から完璧を求められて、テストだって、家事だって、自分のお小遣いだって管理されて、何でも完璧に完璧に、、それがとても苦しい。息ができない。』
一つこぼせば、二つ三つ。
ポロポロ言葉が溢れて、コスプレ男に吐き出していく。
『ふ〜ん、、それは辛いね。どうしたいの?家に帰ってもお母さんに完璧を求められて君は苦しいんでしょ?』
『うん。苦しい。私、、このままずっと、この星を見てたい。』
そう呟くと、体がフワリと浮かぶ。
シルクハットの男がいつのまにか真正面にきており、私の手を取る。
私の体が浮き、空中歩行している様になる。
『私、、浮いてる、、!』
『うん。そうだね。君を永遠の流れ星ショーに招待するよ。どう?』
妖艶に笑うシルクハットの男。
永遠。ずっとこの綺麗な星を見ていいの?
疲れか、星の綺麗さに感動してか、私はその提案がとても魅力的に見えた。
『Posso chiederti un favore?』
意味が通じたのか、シルクハットの男はうやうやしく私の手にキスをした。
『Ho capito.』
そう言いとうとうビルの外に飛び出す。
私は落下しながら美しすぎるオリオン座流星群を目に焼き付ける。
『永遠に、、この星が、、見れる』
グシャリ
ビルの下が騒がしいのを耳に入れながら、シルクハットの男はビルの屋上でタップダンスを優雅に踊る。
『永遠の星。とっても綺麗だねぇ。君の心は真っ黒だったけど、永遠のショーを見ている君の心は明るいね。』
シルクハットの男はくつくつと笑い、背中からはやした翼をはためかせ、上空に飛び上がった。
『アハハッ、、、僕の名前はルシファー。光を掲げる者だよ。』
もう声も聞こえないであろう女の子に向かって自己紹介をするルシファー。
彼女の終わらせたくない願いは、くしくも彼女が死ぬことによって実現した。
【微熱】
私は昔っから体が弱かった。
雨風に少しでも当たると熱を出し、体育で走るだけで息が上がって喘息の症状が出てしまう。
勉強は好きで、特に歴史の織田信長に尊敬の念を抱いている。
私の紹介はこれくらい。
特に好きな物は歴史くらい。他はあんまり興味がない。
学校の友達だって、入退院を繰り返しているから仲良くなれてないし、する必要もないと思ってる。
『吾妻さん、血液検査しますよ〜』
病室に看護師が入ってくる。
少し、外に出るだけだと思い織田信長の住んでいたお城、安土城に行ったら風邪を引いたのだ。
今はもう下がっているが、持病もあるので一応何週間か入院中。
私の血液を迅速に摂った看護師は、さっさと病室を出て行った。
『、、、はぁ、、こりゃまだ入院かな。』
独りぼっちの退屈な病室。無機質なデザインのベッド。
見舞いに来ない両親。
『あー、、安土城、見たかったぁ。』
外で秋色に染まった葉っぱの舞い散る様を見ながら、私は深く、大きなため息をついた。
ーー
進展があったのは、そこから2日後だった。
朝の体温検査に来た看護師が、受付の人から預かったと手紙とファイルに入った紙をもらった。
どうやら、
『吾妻さんに会いたいって言ってたけど、学生だし、ご両親が面会許可を出してないからって断ったら、じゃあこの紙を渡してくださいって。』
ということらしい。
名前を聞いたら、"中村天祐"というらしい。
ありそうでなさそうな名前だな。
ていうか、誰だ。
身に覚えのない人に名前を覚えられているという恐怖。
『、、、手紙は、、後から読もう。これは学級通信か。』
いつもは渡してこないはずなのに、クラスメイトも、担任すらも私のことなんて忘れるくせに今更学級通信か。
嘲笑う様な織田信長の様な笑みを浮かべて学級通信を読む。
今の季節は秋。ちょうど文化祭があった頃か。
『、、、くだらない。』
笑顔でピースして写っているクラスメイト達を見ると、少しだけイラッとし、紙を放り投げた。
次は手紙だ。くだらないこと書いてあったら皮肉をたっぷり入れた手紙を送り返してやる。
『、、吾妻美代さん。学級通信は見てくれましたか?僕は中村天祐と言います。学級委員長をしていて、勉強はそこそこです。はっなんだコイツ。手紙の書き方を知らないのか?』
"僕は手紙を書くのがものすごく苦手です。言っちゃダメなことを書いたり、思ったことを正直に言ってしまうんです。だからどうか、この手紙を読んで気を悪くしないでください。いつも、席に座って織田信長の歴史本をゲヘゲヘと眺めている吾妻さんを見て、美しいと思いました。気がついたら、ずうっと貴方ばかりを見てしまっています。結論は、早く元気になって貴方の顔が見たいです。体調が良くなったら、また会いましょう。その時は、僕とぜひお話をしてください。中村天祐より。"
『、、後半、口説かれている?』
ていうか、ゲヘゲヘとした顔とはなんだ。
私はそんな顔をして織田信長のご尊顔を眺めていたわけではない。
実に不愉快極まれり。
織田信長なら即斬ってる。
『、、これは皮肉を詰め込んだ手紙を書くのが有効か。』
そう思い引き出しを開けたが、、
便箋が入ってなかった。
白い上品な和紙で作られた牡丹の花のイラストが邪魔しない程度に描かれていたあのお気に入りの便箋が、、ない。
『あんの、、クソ親父、、。』
やり場のない怒りをベッドにボフンボフンとぶつけた。
ーー
ガヤガヤと騒がしい教室。
結局、一時退院を許されたのはそれから1週間後だった。
どんだけ心配性なんだよ。まったく。
そのくせ見舞いにはこないのに。
考えたらイライラしてきた。
織田信長のご尊顔でも眺めよう。
そう思い本を取り出し、堂々とした風貌で座っている信長のご尊顔を拝見する。
『ほら、ゲヘゲヘしてる。』
面白がる様な声が頭上から聞こえ、顔を条件反射であげれば、、そこには四角い眼鏡をかけたいかにも真面目キャラの男が私の前の席に座っていた。
『、まさか、、中村天祐。』
『覚えててくれたんだ。よろしく。吾妻美代さん。』
差し出された手は受け取らず、また本に視線を落とす。
そんなにゲヘゲヘしていたか?
『、、、、、』
『、、、』
『、、、、、』
『、、、』
『、、、なんか用?』
『いや。本を読んでる君も綺麗だなって。』
『は?!?!』
大きな声を出してしまい、クラス中の注目を集めてしまった。
『ゴホゴホ、、口説いているの?』
『まぁね。』
変人に目をつけられた。
ーー
また、熱が出てしまった。
ちょっと寒暖差が出ただけで喘息の症状が出てまた入院。
退屈だ。何故か前よりもっと退屈になった。
最近は頭の中に中村天祐の顔がチラつく。
細い糸目に四角い眼鏡。顔立ちの整った真面目キャラ。
だけど本当は思ったことをすぐに口に出すタイプのアホ。
でも、、、悪い気分にはならない。
病院の無機質な天井を眺めるよりも、中村天祐の顔面を眺める方がマシだな。
そう思いながら私はベッドに横たわる。
体が熱い。熱が少しあがってる。
ーー
退院できたのは、意外にも早く、4日後だった。
久しぶりに教室に入ると、こんな子いたっけ?という目を感じる。
織田信長はこんなの気にしない。そう言い聞かせながら自席に座り教科書を出す。
『美代ちゃん、久しぶり。顔色良くなったね。』
『、、、ああ。まぁ、、』
これは決して、学校にこれて嬉しいとかじゃない。
こいつに会えて嬉しいとか、そういう感情じゃない。
だから口角静まれ。
『、、僕は、貴方に会えて嬉しい。』
心を見透かされた様な気持ちになり、顔を上げると中村天祐と目が合う。
糸目が開かれており、優しい瞳が奥に構える。
まるで全てを見られている様な、射抜かれた様な気持ちになり、鼓動が早まる。
『、、ずっと、会いたかった。4日でさえ、長く感じた。』
彼の、真剣な顔と声色が、、、私をまっすぐに見ている。
『あ、う、、』
出てくるのはただの声のみ。
彼の瞳に捕まえられて、動けない。
『、、、ほ、保健室行ってくる。』
かろうじて搾り出た言葉と共に席を立ち、真っ先に保健室へと向かう。
『先生、、熱が、あるみたいなんです、、。』
『あら、、念の為ご両親を呼んでおくわね。熱を測りましょう。』
ドクドクとうるさい心臓。血液が高速で流れる感覚。
熱の時と同じだ。熱がぶり返したんだ。
ピピピピッ
『あら、、平熱ね。』
『、、、じ、じゃあ、この胸のドキドキと、息がしづらい感覚は、、?』
先生も首を傾げ、悩む。
本当は、わかっていた。織田信長に抱いている感情とはまた違う。
これは、、恋心だ。
『、、、微熱か、恋という名の、、』
顔が熱いと見なくてもわかるくらい熱っている。
これが、、恋。
何故だろう。
初めての感覚に恐怖している自分もいれば、ドキドキワクワクしている自分もいる。
今まであらゆる分野を学んできたが、恋心というのは読解不可能だ。
ただ、わかるのは。
彼のことが、好きだということのみ。
彼女はこれから、段々と微熱が熱になり、高熱になるでしょう。
"初恋"という名の、微熱がね。
【太陽の下で】
私は1000年生きている吸血鬼。
もちろん夜型で人の血も吸って吸って吸いまくる。
ニンニクは嫌いで十字架も苦手。
いたって普通の吸血鬼だ。
いつも黒いカラスが住む大きなお城に独りぼっち。
でも退屈だと思ったことはない。
ここに度胸試しに来るやからを揶揄う事ができるから。
街の人間の間では吸血鬼の噂はもちろん、城に住んでる私を討伐しようと兵士をよこされた時もあった。
まあ、全員血を吸って栄養にしたけど。
紹介しているうちに度胸試しに何人か武装した人間が来た。
『ね、、ねえ僕帰りたい、、』
『うるせえ!置いて行くぞミョーセル。』
『さっさと来いよ。』
1人は少し伸びてる髪を後ろに縛って丸メガネをかけている。
1人は短髪でいかにも戦士っぽい。
もう1人は髪を真ん中でわけてチャラチャラした印象だ。
城を汚される前に気絶させて血をもらおうかな。
私はコウモリの様に天井のシャンデリアに足をかけて逆さまになり、3人固まって進んでいく団子を見つめる。
『シキャー、、シキャー、、』
1・UMAの様な奇声をあげて驚かす。
『ぎゃああ!カラス?コウモリ?!怪物?!?!』
2・窓ガラスをわざと割り、コウモリを驚かし操って暴れさせる。
『コウモリだ!!逃げろ!!』
『ま、まま待って!置いていかないで、、』
3・玄関の扉を閉めて閉じ込め、逃げ場をなくす。
『なっんで閉まってんだよ!!』
『早くぶっ壊してでも逃げよう!』
『うわああぁん、、怖いよぉ、、。』
スタッ
3人固まっている前に降り立ち、私は姿を見せる。
『だ、、?!』
『ヒッ、、』
『あばばばば』
3人とも震えて喋れない様だ。
『さぁて、、誰から吸われたい?』
『ギャアアアアアアアアア』
答えをやるはずもなく、1番筋肉質なやつを拘束し血を吸う。
『ん〜、、普通。』
2人目もさっさと血をいただき、3人目。
『こ、殺さないぇ、、』
相手は後退り、私は近づく。
腰が抜けているので逃げられず、捕まえやすい。
ガリッ
『ぎゃうぅっ!!』
ジュルッ
チュル
、、格段に美味い。
私好みの血の味だ。
うーん、、死なせるのは勿体無いし、、
首から口を離し、男を見る。
細い体躯に潤んだ瞳。
ふるふると震え、息が上がっている体。
1000年生きてても体験したことのない感情が湧き上がってきた。
コイツを側に置きたい。
直感でそう思った。
『、、、お前、名は?』
『み、、ミョーセル、、』
2つの牙の跡から血が出ている。
そこを指で押さえながら男の頬に手を滑らせる。
『ヒッ、』
『大丈夫。痛い様にはしない。ただ、、お前を側に置きたい。お前の血を永遠に飲んでいたい。』
そう言うと、目を見開き固まった。
『返事は?』
そう言うと、コクコクと首が千切れるくらい頷いた。
そこから、ミョーセルと私の生活が始まった。
『ミョーセル、太陽ってどんなものだ?』
『大きくて、あったかくて、神様みたいです。』
『、、、そうか、、。私も太陽を見てみたいな。』
吸血鬼は太陽に当たると死んでしまうから、いつか太陽を見たいという夢は叶いそうもないな。
2人の生活は意外にも楽しいものだった。
ミョーセルは毎晩私に血を飲ませ、外の話をし、私はミョーセルの衣食住を保証する。
まさにgive &takeの関係だ。
ーーー
今日は私の1027歳の誕生日。
ミョーセルは買い物に出かけており、腕を奮って料理すると意気込んでいたから楽しみだ。
鼻唄を歌いながら暗い部屋でミョーセルを待つ。
今日は特別な日だった。
別の意味でも。
ーーー
僕が帰ってくると、妙に城が騒がしく、何故か胸騒ぎがした。
慌てて城の中に入れば、聖女様と騎士達が化け物だと言って何かを取り囲んでいた。
何か、、それは1つしかない。
『ユーリさん!』
その輪の中にむりやり入り、中心に横たわっていたユーリさんを抱き起こす。
あちこち切り傷があって、聖女様の浄化能力なのか少しだけ弱っていた。
『おい吸血鬼。この者は仲間か?』
殺気を含んだ視線を感じ、体が強張るけど、逃げたい衝動に駆られるけど、優しくて聡明で僕の話し相手になってくれたユーリさん、、僕を認めてくれた唯一の光を見捨てられない。見捨てたくない。
『そ』
『違う。コイツは私が飼っていた人間だ。コイツは、、ゴホッ、血が美味いからな。』
そうだと肯定しようとしたら声をかぶせられた。
『だからコイツは関係ない。』
ユーリさんは僕の手を払ってよろよろと立ち上がった。
『、、、そうか。サリー様、トドメを。』
『はい。』
聖女様の手が光り、ユーリさんに当てられる。
『待って、、待ってください、、』
『ミョーセル。ーーーーーー』
僕はその場に崩れ落ちた。
聖女様と騎士は動物を駆除したみたいにさっさと引き上げていった。
『ぅっ、、うぅ、、ユーリさん、、』
床に涙のシミができては消える。
"好きだ。"
ユーリが口パクで伝えた言葉は、これだった。
『、、、次は、太陽の下で。貴方が、綺麗な太陽を見れる様に。』
ミョーセルはユーリの輪廻転生を願い、今もこの城に住み続けている。
50年後。
『おじいちゃん、このお城にずっと住んでるの?私のなのに?』
お城の前で掃き掃除をしている老人のもとに、幼女がかけより声をかける。
『え、、?』
老人は手を止め、まさかと振り返る。
『ふふふ、、ミョーセル。ずーーっと会いたかった。』
幼女はイタズラっぽい笑みと、慈愛の目で老人を見つめる。
『っ、、、ユーリさん、、僕もです、。』
老人も愛おしそうに幼女の頭を撫でた。
2人は太陽の下で、再会を果たした。