油断するとすぐに忘れてしまうし
歳を重ねるごとに消失するけれど
あの頃の景色は
いつだって
とりもどすことができる
例えば湿度の高い日に
焼きたてのパンの匂いを嗅ぐと
傘もささずに走った帰り道が
ふと蘇る
懐かしいエイトビートのあの曲が
テレビやラジオから流れてくると
あの子の笑顔がスライドショーのように
次々と頭の中に映し出される
刻まなくたって
写真に残さなくたって
いつだって日常の中に
あの思い出は溶けている
【友だちの思い出】
いくつもの祈りがそこにある
数えきれないほどの願いがそこにある
かつて、輝いていた命がそこにある
だけど、お星様はきまぐれで
願いを叶えたり
叶えなかったり
必死の祈りには応えず
取りこぼしたりする
人間はやさしさをもっている
それは、お星様に真似のできない
特別なやさしさ
そのやさしさは時に
星の輝きを越えるのだろう
【星空】
わたしの中に
延々と刻まれて
消えない悲しみ、苦しみ
あなたに分かるわけがない
誰にも分かるわけがない
ほんとうは何も知らないのに
全てを知り尽くしたような顔をしているあの人
救いを求めるより
生きる力を身につけなければいけないと
そう思わせてくれるたいせつな存在
わたしは群れから離れて
流れに逆らって
ひとり水の中を漂う
くらげになりたい
【神様だけが知っている】
【この道の先に】
世界平和を祈る前に
わたしはいつも
自分のことばかり
今日も明日もお洗濯
くたくたにしおれたバスタオルが
ふかふかになりますように…
そんなつまらない希望が
わたしにとって
いちばんの願い事
世界平和を祈る前に
いつも自分のことばかり
目の前のことで精一杯
掃除機かけて
トイレを磨いて
湯船をあらって
食器を洗って乾かして
食器棚に戻さなきゃ
そうだ自転車の空気も入れないと
世界平和を祈る前に
いつも自分のことばかり
だからきっと
くたくたのバスタオルは
今日もしおれたままなんだ
【日差し】
飲み込んでみたくて
大きく口を開けてみた
その熱はゆるかやかに喉を超えて
わたしの身体を包み込む
いま、生きているという証は
自然のちからによって
より濃く深く、刻まれてゆくのかな
そして、コーヒーの水面に
うつるあなたを
もう一度飲み込んだ