『別れ際に』
やっぱり、聞いた方がよかったかなぁ。
あの人の背中を見送りながら、
僕は後悔していた。
「……だけど、仕方がないよなぁ」
僕は言い訳めいた独り言をつぶやく。
だって、あの人、
めちゃくちゃフレンドリーに僕の名前を呼んでたし。
僕としても、どっかで見たことある顔だったから、知り合いなのは間違い無いんだけどさ。
あんなまぶしい笑顔で
「久しぶりだなぁ!」
なんて言われたら、
……僕には無理だったよ。
「そういえば、あなたの名前は何でしたっけ?」
なんて聞くのはさ。
『窓から見える景色』
窓を開けば、海が見えるといいのにな。
きっと、爽やかな潮風が
「いっしょにあそぼ」と私を誘い、
わくわく気分でお出かけできるから。
窓を開けば、星が見えるといいのにな。
きっと、やさしい星あかりが
「一人じゃないよ」と私を励まし、
安心して眠りにつけるから。
窓を開けば、キミが見えるといいのにな。
キミの顔が見えるだけで
もうそれだけで
きっと、私は元気になれるから。
『秋恋』
今朝気づいたことなんたけど、
先輩のシャツが、長袖になってたの。
「朝夕はちょっと肌寒くなったもんな、
風邪には気をつけろよ」
と、笑いながら
先輩はあたしの頭をぐしゃぐしゃに撫でてくれたけど、
あたしはちょっとガッカリしたの。
あぁ、もしもあたしが
秋が似合うような人になれたなら、
先輩との、この関係も違っていたのかな、と。
『大事にしたい』
ほんとのほんきで、おもったのよ。
ずぅっとだいじにしたいって。
だから、おもわずないちゃったの。
あの、ワンちゃんのぬいぐるみがほしいって。
かあさんには、ちょっとおこられちゃったけど。
本当の本気で、思っているのよ。
ずっと大事にしたいって。
だから、思わずほほえんでしまうの。
このワンちゃんのぬいぐるみが欲しいって、
駄々をこねたあの日のことを思い出すと。
ふかふかだったワンちゃんは、すっかりくたびれてしまったけど。
『夜明け前』
ぶ厚いカーテンをそっと開き
群青色の空を見上げた。
夜の名残りのように、
微かな星あかりがぽちっ、ぽちっと見える。
きっともうすぐ朝が来る。
あぁ、今日が始まるのが待ち遠しい。
そう思える夜明け前のひと時の、
何と幸せなことか。