『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『香水』
人混みの中で嗅いだことのある香りとすれ違い、記憶が遡る。都会に出てきたばかりの若かりし俺は夜の街で働く年嵩の女にいっとき飼われていた。飼われることに嫌気がさして都会を飛び出し、十年近くを経て戻って来たときにはあの人は消息不明となっていた。
何も持っていない俺のどこに価値を見いだしていたのかはあの人の年に追いつこうとしている今でも自分にはわからない。俺が女であったならわかってやれただろうかなどと詮無きことを思う。
白粉と香水の混じり合った香りが幻のように立ちのぼる。人混みの中で振り返っても、そこには俺の後悔が影のように立ち尽くして消えていくだけだった。
『香水』
17の時に、初めてお付き合いしたあの娘がくれた誕生日のプレゼント。
フィルムケースほどの大きさの藍色ベロアの小さな小箱。
その中には、小さな小さな香水の瓶
「お金が無くて、試供品でごめんね」とあの娘は言っていた。
あまりおしゃれを気にしない私が、絶対に自分で買わないし、選ばないだろう一品。
自分とは違う環境で育ったあの娘が選んだプレゼントだからこそ、私の手元に迷い込んできたジャンルの品。
だからこそ、私の中では珍品となり、
二十数年経った今でも
使い終わった小瓶を捨てられずに持っている。
もう、小瓶の中は、
ほぼ空っぽなのに
蓋を外すと
とてもいい想い出の香りが残っている。
目を瞑ると
若かりし自分とあの娘の姿
あの夏の思い出が蘇る。
今
だから思う。
本当に良いプレゼントをもらったんだなと。
飽き足らず
香りに上乗せする香り付け
におい消しの香水でも
ああそれがなければ
出逢えなかったと思う
香水と言えば、ボスってどんな香水をつけてるんだろう?
香水の知識なんてからっきしだけど、なんか、甘いスイーツみたいな匂いをつけてそうなイメージかな。
見た目がイカつい人ってだいたい優しくてかわいいものが好きそうな人が多いから、そんな感じかな?
人が死ぬ時最後まで残るのは匂いなんだって
さっきまで聞こえてた呼ぶ声も
揺さぶる感覚も、全部無くなって
意識が遠のいたとしても
私の側には貴方がいる
好きだったその香水と
私と一緒の柔軟剤
『嗅覚』
何が私を惹き付けるのか。
生きた年数も、経験も、果ては性別すら違う。離れてはまた探し求め、今となっては日常の一部に溶け込んでいる。顔も名も知らぬ彼は人誑しだ。そうでなければ、扱いづらい私と受け入れ、こんな奇妙な関係を何年も築いたりしない。
「───」
彼は慣れたように私を呼ぶ。
今は声だけ。まだ距離はある。
だけど、それすらもなくなった時、私は一体どうなるのだろう?
『その青が届く距離』
香水
「香水」
爽やかで、優しい、石鹸の香水が好き。
彼の香水は私にとってキツかった。
でも
忘れられない...... あの匂いが
なんでなの。
【お題:香水 20240830】【20240903up】
当時付き合っていた彼女の二十歳の誕生日プレゼント。
8歳も年下の女性に何を贈るのが良いかと悩んでいた俺に、同僚が教えてくれた店。
会社から駅に向かう通りの1本裏、小さな飲食店やオフィスが並んだ一角に、周りとは異なる雰囲気の建物がポツンと建っていた。
ポツンとという表現が正しいのかどうか、と言う所だが、少なくとも俺にはそう見えた。
周囲が無機質なコンクリートで作られた建物だらけの中、その店は木造だった。
ビルの1棟1棟が隙間なく建てられている都心の一等地で、ヨーロッパ調のオシャレなフェンスで囲まれた敷地には広い庭が設けられ、背の高い木々が生い茂り、色とりどりの季節の花が咲き乱れていた。
まるでそこだけ、違う世界であるかのようなそんな雰囲気。
開け放たれた敷地の入口には、小さく『魔女の隠れ家』と書かれた木の看板が下げられて、敷地の入口から建物まではおおよそ10mほどあり、足元は石畳が敷かれ歩きやすくなっている。
石畳でないところは、植物達の楽園と言っても良いほど様々な植物が植えられていた。
あまり見た事のない花もあり、少し興味を惹かれたが、目的のものを入手することを優先した。
建物に近づくと窓越しに店の中が見えてくる。
キラキラとした小さな瓶が並べられた棚と、それとは対照的に装飾など一切ない茶色の便が並んだ棚が見える、カウンターのような机と、その中で瓶を磨いている人物が一人。
「いらっしゃいませ」
日が落ち始めた店内には、柔らかい暖色系のあかりが灯されている。
少し鈍いドアベルの音が響く店内に足を踏み入れると、何とも言えない感覚に陥った。
「あの⋯⋯プレゼントを考えているんですが」
「かしこまりました。当店のご利用は初めてでございますね?」
「はい」
「では、ご説明いたしますので、どうぞこちらへ」
年の頃は自分と同じか、少し年上くらいだろうか。
白いシャツに黒のスラックスという出で立ちの男は 、カウンターの1席に座るよう勧めてきた。
俺は言われるがまま、椅子に腰を下ろし周囲を観察する。
壁一面に色とりどりの小さな瓶が並べられている。
同じものが1つとしてないのは一点物なのか、単純に在庫は並べていないだけなのか。
「では、ご説明いたします」
「はい、よろしくお願いします」
同僚に簡単に説明はされたが、ここは店の人からきちんと聞くのが筋だろう。
「当店『魔女の隠れ家』では、『香り』と『封じ物』の販売をしております。『香り』はお客様のご要望などから調香したものを、『封じ物』はあちらからお客様がお選びになられたものを販売いたします。尚、当店で購入した『封じ物』をお持ちいただければ、『香り』のみの販売も可能となっております。また、ご購入いただいた『封じ物』が不要となられた場合には、購入時の8割程の金額で『封じ物』の買取もしております」
「『香り』と『封じ物』⋯⋯」
つまりは、香水と香水瓶って事か。
「ここまでで何かご質問はございますでしょうか?」
「あ、いいえ、大丈夫です」
「はい。では、価格のご説明をいたします。『香り』に関しましては、基本はこのくらいになります。ただし、調合に使ったもの、それから量によって前後いたしますのでご了承ください」
「わかりました」
意外と安いと思ってしまった。
大量生産されている香水とは違い、フルオーダーなのだからもっとすると思ったのだが。
「次に『封じ物』ですが、右手側の棚に並んでいるものは全てアンティークものです。こちらに関してはお値段は色々、とだけ言っておきます。反対側は現代のものになります。こちらは比較的お求めやすい価格帯となっております」
「説明ありがとうございます。それで、どうすればいいんでしょうか?先に『封じ物』を決めた方が?」
「はい、その方がスムーズかと」
「わかりました」
俺はまずアンティークの棚に向かった。
様々な色や大きさ、デザインに目移りしてしまう。
「プレゼントをされるお相手は女性でしょうか?」
「あ、はい。二十歳の誕生日プレゼントにと思いまして」
「妹さんでしょうか?」
「あー、いや、彼女です」
「えっ、マジで!羨まっ⋯⋯」
「ん?」
「あっ、ヤバ、っと、えーと、もっ、申し訳ありません、つい⋯」
先程までの営業の仮面はどこへやったのか、慌てふためき冷や汗までかいている。
どんな相手だとしても客は客だから、それなりの言葉遣いをしなければならないのだろうが⋯⋯。
「あー、そのままがいいな、とか言ったら困ります?俺も出来れば、気楽に話したいなぁと思って」
「あ、いや、全然大丈夫だけど」
「じゃ、そう言うことで。色々聞いても?」
「どうぞ」
「助かる。20歳ぐらいの子にオススメなのはどれ?」
「アンティークなら、この辺のがいいかな。ただ、扱いが難しいのもあるし、価格もそれなりにするけど」
「どれくらい?」
「これだと⋯」
結局、現代物の『封じ物』にした。
薔薇の花をあしらった瓶で容量は少し多め、同じデザインのネックレス型とセットという所に惹かれた。
『香り』は彼女の好みとイメージで少し甘めの花の香りを調香してもらった。
彼が調香したものを俺が確認して、イメージ通りの香りに調整していく。
その工程は、何か魔法の薬でも作っているかのようで、この年にして随分とワクワクさせられた。
「じゃぁココは黒瀬さんのおばあさんが始めたのか」
「そう。ご先祖さまが集めた香水瓶をただ置いておくのは勿体無いって言ってさ。でもまぁ、アンティークものはなかなか売れないね、高いから。時々コレクターの人が来て買っていくけど」
「へぇ。調香の技術はどこで?学校とか?」
「俺はばあちゃんから教わったよ」
「へぇ」
調香も終わって、プレゼントをラッピングしてもらい、今はおしゃべりの時間だ。
外はすっかり暗くなり、店もそろそろ閉店という時間だろう。
俺はカウンターで黒瀬さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、この不思議な時間を過ごしている。
「俺が23の時に店継いで、ばあちゃんは今どっかでのんびりしてる」
「じゃぁ店を継いで5年か」
「そ。俺、小さい頃からこの店が好きで入り浸っていて、ばあちゃんから色々教わってたけど、継ぐってなったらやっぱり色々足りなくて」
「うん」
「学校っていう方法もあったんだろうけど、それってばあちゃんから教わったことが上書きされるみたいな気がしてさ。で、高校卒業してからばあちゃんにみっちり扱いてもらって、5年で何とか一人前になれたって感じかな」
「凄いな、5年もか」
「いやぁ、まぁ、だいぶ頑張ったよ、俺。ばあちゃんと同じくらいになるまではって思ってたんだけど、今でもばあちゃんには追いつける気がしないんだよな」
黒瀬さんはすごいと思う。
目標を立て、それをクリアするための道を一歩一歩、確実に歩いて来たからこそ、今の黒瀬さんがあるんだ。
「はぁ、凄いな。職人って感じがする」
「照れるなぁ。ところで、近藤さんはどこで彼女さんと知り合ったの?」
「えっ?」
「近藤さん、俺と同じくらいの歳だよね?28とかじゃない?」
「あ、うん。そうだけど」
「ほら、俺達タメだ。この年で二十歳の子とお付き合いとか、普通に生活してたらまず無理じゃん。だから、ね、教えてください!」
「あ〜⋯⋯」
結局その日は夜遅くまで話し込み、店というか、店の2階の黒瀬さんの家に泊まった。
出会って数時間の人の家に泊まるとか正気かと思うけど、時間とか関係なく、黒瀬さんとはあっという間に打ち解けた。
そして特に用事がなくても、会社帰りに『魔女の隠れ家』に寄るようになり、終末には店を閉めたあと飲みに行くようになった。
「はぁ?別れたってマジで?」
「嘘言ってどうなる」
「いや、そうだけど」
俺が初めて『魔女の隠れ家』を訪れて3ヶ月が経とうとしていた。
黒瀬さん⋯いや、黒瀬との週末の飲み会は恒例となり、今日は黒瀬の家での宅飲みだ。
で、とりあえず腹を満たし、一息ついたところで俺は黒瀬に彼女と別れたことを切り出した。
まぁ、ここ1ヶ月半ほど、金曜の夜から土曜の昼、長い時は日曜の昼まで一緒にいたのだから気がついても良い様な気はするが、気が付かないのが黒瀬クオリティってやつだ。
「理由聞いても良いか?」
「あー、うん。プレゼントがダメだったらしいぞ」
「え、プレゼントって、うちの香水?」
「黒瀬の店の香水がじゃなくて『香水』がダメだったらしい」
今飲んでいるのは梅酒のロック。
梅の香りが強くそれでいてサラリとした喉越しの美味しい梅酒だ。
会社の同僚に勧められ、半年前にポチッたのが、今週の火曜日にようやく届いたのだ。
これは絶対に飲むべきだと思って、今日出社時に鞄に入れてきた。
まぁ、通勤時は重かったが、それもまた、楽しみの一つってやつだ。
「らしいって言うのは何でだ?」
「直接本人から言われたわけじゃないから、だな」
「詳しく聞いても大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。っても何から話せばいいのか⋯⋯」
早い話が、俺も彼女も無理をしていたって事なんだろうな。
知り合ったきっかけは暇つぶしに始めたゲームで、お互いに年齢なんか知らなくて、まぁ、何となく話しやすいかな程度のものだった。
そのうちゲーム内だけじゃなくプライベートでも連絡を取り合うようになって、向こうから告白され、お試しで、という事で付き合い始めた。
俺としては年齢も離れていることもあって、色々と勉強したりして頑張ってはいたんだけど、なかなか難しいというのが感想だな。
自分はそんなに歳をとった気はないのに、行動も趣味も知識も知恵もきちんと時間を過ごし蓄積されたものがあって、そしてそれを持たない彼女のことを、新鮮にも、懐かしくも、子供にも思ってしまう事が多かった。
けれど、お試しとはいえ付き合っているのだから、相手に対してそういう気持ちを抱けるよう努力は必要だと思ってはいたけれど、中々どうして難しい。
手を繋いだり、腕を組んだりするのは問題ないが、その先はキスまでで、どうしてもそれ以上する気にはなれなかった。
彼女がそういう事を望んでいるのはわかっていたし、傍から見れば彼女はとても魅力的な女性でもあった。
けれど、それまで同年代の女性としか付き合ったことのなかった俺にとって、彼女に魅力を感じる事が出来ず、どちらかと言えば年の離れた妹や親戚の子供のような感覚でしか無かった。
そして、彼女の二十歳の誕生日、俺は正直な気持ちを彼女に伝えようと決心した。
少しだけ高級な店を予約して、彼女の生まれた年のワインと『魔女の隠れ家』で買った香水をプレゼントした。
その場でプレゼントを開けた彼女は、一瞬だけ顔を曇らせたように思った。
そして、食後に話をしようと思ったのだが、直ぐに帰らなければならなくなったと、挨拶もそこそこに彼女はタクシーに乗り込んだ。
彼女の乗ったタクシーを見送り、俺は一先ずメッセージを送った。
近いうちにまた会いたい、と。
だが、そのメッセージが既読になる事はなく、その日から彼女との連絡が取れなくなった。
無理に連絡を取ろうと躍起になるほどの情熱もなく、何となく日々を過ごし、『魔女の隠れ家』に行く頻度が多くなった頃、唯一彼女との共通の知り合いから教えられた事実に俺は驚いた。
どうやら彼女は俺以外にも複数の男性とお付き合いしていたらしい。
そして、その男性陣全員から、二十歳の誕生日プレゼントを貰ったらしいのだが、他の男性陣はアクセサリーやブランド物の鞄等だったのに、俺は香水でしかもブランド物ですらないって事で連絡を絶ったと言うことらしい。
因みに他のプレゼントをくれた男性陣とはまだ付き合って貢がせているとか何とか。
「お、女って怖ぇ」
「本当にな」
「よし、近藤!今日は飲め!」
「いやこれ、俺が持ってきた酒だけど?」
「細かいことは気にするな!さぁ、グイッといこう!」
黒瀬のこういうところは嫌いじゃない。
まぁ、傷ついていないかと言われれば、そうでもないんだろうけど、黒瀬といるとそんな小さいことはどうでもよくなってしまう。
むしろ彼女には感謝してもいいかもしれない。
大人になって、仕事と関係なく、こうして気心知れた友人に出会うきっかけをくれたのだから。
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(´-ι_-`) 大人になってからの友人ってイイヨネ
香水
これはこれは新しい体験だ。
いや、世界的に見ればそうでもないか。
この芳しい香り、この突発さ。
思考を巡らせど、アレのいい所はそんなに見つからない。
飛んでいく短い命を眺めながら、かけられた香水を拭った。
【香水達の喧嘩】
給食の後の5時間目、教室は異様な匂いに包まれていた。
一言でいうと、臭い。
気持ち悪い。
なぜならば、今日は参観日だ。
参観日ということは、親が来る。
母親とは不思議で 、これでもかというほど香水を着けたがる。
すると、教室は一気に香水臭くなってしまうのだ。
少しだけふわっと香るなら良いものの、
異なる匂いが混じり合えば喧嘩してキツイ臭いを放ってしまうのだ。
そして今日は、香水達の喧嘩が酷く激しかった。
「教室、臭くね?」
僕は、隣に座っている友達にこっそり言った。
「だよな、気持ち悪い」
やっぱりそうだ、間違いない。
香水達が喧嘩している。
僕はちらっと後ろを向いた。
母親達はヒソヒソと話し、笑っている。
きっと、本人達は自らの香水が放つ異臭に気がついていない。
幸いにも窓側の席なので、外から入り込む風が喧嘩を仲裁してくれている。
しかし、隣に座る友達は辛そうだ。
「大丈夫か?」
本当に心配になって、思わず声をかけた。
「うん、大丈夫。全然大丈夫だよ」
いや、全然大丈夫ではなさそうだ。
授業はあと30分。
このままでは、早ければ5分後にも彼のライフが0になってしまいそうだ。
どうしよう。
保健室に連れて行くべきだよな。
しかし、1つ問題があった。
保健室に行くならば、教室の後ろのドアから出なければならない。
これは担任が作ったルールなのだが、授業中に廊下に出るときは、後ろから出ることになっている。
前から出ると、黒板が見えづらくなって邪魔になるらしいのだ。
後ろを通るということは、母親達の前を通らなければならないということだ。
こんなの、自ら殴られに行くようなものではないか。
僕は隣を見た。
友達は顔を真っ青にして俯いている。
いよいよヤバいことになってきたな。
もう保健室に連れて行くしかない!
「先生!」
僕はピンと手を伸ばし、先生を呼んだ。
「どうした?」
「橋本さんが具合悪そうです!保健室に連れて行ってもいいですか?」
「橋本、大丈夫か?菅田、付き添ってあげてくれ。あ、橋本さんのお母さんもお願いします」
僕達は席を立った。
友達を支えて前から出ることにした。
絶対に先生から何か言われるだろうけど、もうそんなの知らない。
「良樹!大丈夫?」
友達のお母さんが駆け寄ってきた。
しかし友達は
「ちょっ…と、近づか、ないで…」
と、突っぱねてしまった。
「おい、後ろから出ろよー」
先生が言った。
しかし、僕達は無視して前から出た。
先生の前を通ったとき、友達が呟いた言葉が忘れられない。
「香水、気持ち悪っ…」
友達を保健室に連れて行った。
今日の保健室は人が多かった。
「良樹に付き添ってくれてありがとうね。もう戻っても大丈夫だよ」
本当はもう少しここにいたかったけど、早く戻らないと先生に怒られるだろう。
僕は教室に戻ることにした。
でも、本当は戻りたくない。
あの教室にいたくない。
授業は残り20分。
サボるのは難しそうだ。
せめてもの抵抗として、ゆっくりと廊下を歩いた。
外から流れ込む風がやけに心地よい。
無臭の風が、僕を撫でてくれるようだ。
教室に戻ると、またキツイ臭いを放つ香水に殴られた。
僕は香水に殴られつつも耐え、無事に参観日を終えることができた。
帰りに保健室に寄った。
友達の顔色はかなり良くなっていた。
安心した。
帰り道、お母さんに褒められた。
「すごいじゃん、友達を保健室に連れて行くなんて。
良い子だねぇ〜」
そういうお母さんも、香水の臭いがキツかった。
しばらくして、学校からあるプリントが配られた。
参観日に関するプリントだ。
そこにはこう書かれていた。
「香料による体調不良が増えていますので、参観日に香水をつける際は適量の使用に留めていただけると幸いです。」
「香水…こうすい…」
バス待ちの列の中。
本日のお題の書くことの無さに難渋していた私は
知らぬ間に声を発していたようだ。
すると目の前に並んでる女性が振り返り
「そうよね、まだ台風あんなに遠いのに
結構な被害がでたわよね、ビックリ」
「・・そうですよね、ビックリ」
とりあえず話を合わせた。
これ母の前で言ったら梨の話になるな。
(香水)
透 週 さ 香
明 末 り 水
な の げ や
衣 街 な パ
更 へ き イ
な サ 開 が
る ン く サ
香 デ 手 ク
り | 紙 っ
か モ の と
な | 香 焼
ニ 水 け
ン よ ま
グ し
た
香水の香りがふわり。
首筋に顔を埋めてその香りを堪能する。
例えば同じ香水を買ってつけても同じ香りにはならない、あなただけの香りを独り占めしたくて、両腕に力が入る。
背中にあなたの手が回されて、私だけの香りになる。
私の吸う空気は、あなたの空気。
香水ってあまり好きじゃない。いや、他人がつける分には、強くなければ全然いいんだけど。
自分の匂いじゃなくなるわけじゃない?自分の元からの匂いを好いてくれる人がいても、香水つけたらわかんなくなっちゃうわけじゃない?それってなんかもったいない。
たまに楽しむくらいならいいかもしれないけど、常用しようとは思わないな。
あ、参観日につけるのはやめてください。混ざり合った強い匂いに酔ってしまって、あの頃は本当に困ってました。
#香水
‐香水‐
俺はこの匂いが大嫌いだ。
甘ったるくて、鼻をツンと刺すような匂い。
教室の窓際の席。
俺の前の席に彼女が座っている。
大嫌いな香水の甘い香りが、
後ろの方まで漂ってくる。
俺は彼女の後ろで睨もうとした。
だがその瞬間、彼女がふと俺の方を向いた。
俺は一瞬ドキッとして
戸惑ってから彼女に話しかけた。
「あの、何か用?」
緊張してだか声のトーンがいつもよりちょっと低くなった。
「いや、その、、、私今、髪に香水付けてて、後ろの席の貴方が不快になってないかなぁと思って、、、」
そう言って彼女は長いロン毛を耳に掛けて
クールのわりには、ふにゃっと笑って見せた。
彼女が動くと同時に、髪がフワッと優しく動く。
その度に甘い匂いが俺を包むようにして流れてくる
俺はこの匂いが嫌いだった。
だからちょうどいい機会だと思い、
彼女にぶつけるように言う
そんなつもりのはずなのに、
「いや、別に、、、いいんじゃない」
「、、、なら良かったです、ෆ」
安心したかのようにフワッと前を向く彼女。
、、、はっ、まさか俺が香水苦手なことバレてた??
いや、まだそんな事言ったことねーし、
、、、もう1つ、疑問ができた
彼女に言うチャンスだったのに、
どうして否定出来なかったんだか、、、
彼女の香水の匂い、痛いぐらいに嫌いなのに、
この時、この瞬間、初めて思えた
彼女がつける香水の匂い、ちょっと好きかも.
なんてな.
匂いを嗅ぎ取る力が弱い僕にはわからないが、そこには想像のつかない世界が広がっているんだろうなぁ。
【懐かしい香水の香り】
すれ違った知らない女性から
懐かしい香りがした
かつて付き合っていた人が喜んでつけていた
ナントカっていうブランドの香水と同じ香りだ
あの人と進む道が別々になってから
長い時間が過ぎていった
あの人は今
幸せに暮らしているだろうか
なんて
一瞬思ったけれど
あの人はもう
僕のことなんて思い出さないだろう
だからこその今なのだから
そして僕は振り返ることもなく
今の道をこれからも歩き続けていく
恋愛詩人よしのぶ
#散文詩
#恋愛散文詩
#恋愛ポエム
#詩
#香水
#恋愛詩人
ふわりと漂うその香りは、甘さを凝縮した恋のパヒューム。
それは、色鮮やかな光の中で咲く恋の花。
蜜のような甘い匂いがする、華やかな世界の象徴だ。
そんな匂いをさせる人はこの世でただひとり、君しかいないのだ。
『 香水 』
香水が好き
シュッとワンプッシュ
自分の好きな匂い
キンモクセイに、スズラン、薔薇、百合、すみれ
レモンに、桃、オレンジに、ブドウ
スタンダードな石鹸の匂いも好きだ。
色んな香水と出会ってきた私がたった一つ、買えない香水がある。
どこを探しても見つからない。
どこのお店にも売っていない。
ただ1人の特別な匂いを知ってる。
それは君の匂い。自然のままの君の匂いだ。
好きになってから今日まで、ずっと君の匂いが離れなくて。
心地良い君との時間が何よりも好きで、ずっと一緒にいたいって思ってた。
でも、私には買えなかったのだ。
君の心を掴むことは出来なかった。
「練り香水、部屋の香水、犬猫にモテる香水。
他には香水の付け方とか付ける場所の意味とか?」
よほど日常的に愛用してるヤツでもなけりゃ、香水、意外と余りがちになっちまう説。
某所在住物書きは「香水」をネット検索しながら、アロマオイルやルームフレグランスとしての香水活用術を見つけ、軽く興味を示した。
コットンやティッシュに吹き付けるだけでも、部屋に香る芳香剤には丁度良いという。そのコットン等々をオシャレに置ける場所を整えれば十分か。
「個人的に、『この店の「この香り」を、香水でもルームフレグランスでも良いから、持ち帰りたい』って、たまにあるわ。例として無印良◯とか」
あと内容物要らないから、香水の容器だけ欲しいとかな。物書きは付け足し、未知のサプリに行き着いた。
「……『食べる香水』と『飲む香水』?」
――――――
最近最近の都内某所、某アパート、昼。
かつて物書き乙女であったところの現社会人が、己の職場の先輩の実家より届いた昭和レトロの学生カバンを部屋の証明に当てて、目を輝かせている。
「おぉ。これが」
スマホを取り出し、即座に撮影。
「これが、実際に昔々使われてた、学生カバン」
素材はフェイクレザーとも、人工皮革とも。
ランドセルと布製ショルダーバッグしか通学ツールを知らぬ乙女は名前を後輩、もとい高葉井といい、
鍵付き学生カバンの開け方も知らぬ世代にはシックでシンプルで洗練されたフォルムが美しく見える。
なにより彼女のかつて愛していたキャラクター、
カップリングの2名、
彼等がゲーム内で使用しているビジネスバッグの元ネタがまさに「この時代のコレ」であると
原作者から情報提供があったのだ。
しかも「その次代のソレ」を己の先輩の故郷で激安販売している店があったと聞いてしまっては。
「ちょっとカビくさいのは仕方無いか」
気にしない、気にしない。
本来1〜2万円近辺の値段であっただろう正規品。
それを10分の1未満で3個も譲って頂いたのだ。
「ひとまず、匂いを、なんとかしたい」
さらり、さらり。ふわり、ふわり。
ウェットティッシュで学生カバンを入念に拭いて、
柔らかなタオルで水気と汚れを丁寧に除いて、
それを何度か繰り返して、繰り返して。
ひとつには推しカプの左側、2個目には推しカプの右側の、イメージフレグランスを吹きかけて拭き付けて、一度拭き清めて、再度香水を吹いて拭いて。
「んんん、なんか、しあわせ」
少しずつ、少しずつ。カバンに負担をかけぬように香水の成分を染み込ませていく。
今こうして香りを移す作業を丹念に繰り返しても、いずれ香水は効能を失っていくだろう。
それでも良いのだ。構わないのだ。
『今自分は、推しが持っているカバンのルーツを推しのオフィシャル概念香水で拭いている』
その労力の浪費のなんと至福で幸福なことか。
『先輩 先輩の母殿から、カバン無事届いたよ』
先程撮った昭和レトロの画像とともに、かつて物書き乙女であった後輩たる高葉井がメッセージを送る。
返信はすぐ送られてきた。
『店主が「年代物だから必ず拭き掃除してから使って欲しい」と言っていたそうだ。状態はどうだ?』
状態、じょーたい?
高葉井は部屋に咲く香水の香りで夢心地。
『ツー様とルー部長のカバン持ちになった心状態』
『つ?』
なんだそれ。後輩から送られてきた文字に先輩は今頃クエスチョンマークを量産中。
『母殿に、後輩がバチクソ感謝して崇拝して五体投地してたってお伝えしといて』
高葉井は夢心地を自己翻訳して、再送信。カバンに鼻を近づけて、深く息を吸い込む。
香水をまとった昭和レトロのカバンは過去と現代を混ぜ合わせたアロマで、彼女をつかの間のフィクションとファンタジーに誘った。
「保存用の2個の他に実用1個頼んでて良かった」
かつての物書き乙女は早速、学生カバンをショルダーバッグに改造すべく、さっそく馴染みのリメイク・アップサイクル屋に向かったとさ。