『過ぎた日を想う』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
過ぎた日を想う
アイツと別れてシングルマザーとなって3年が経つ。別れた原因は、アイツの仕事が忙しくなりすれ違いが増えことだ。仕事が忙しくなったのも子供たちにお金がかかるようになってきたのが理由だ。
嫌いでないなら別れなければいいと言われたこともあったが、一緒にいれは些細なことで喧嘩となり、その姿を子供たちに見せるのが辛かった。だから別れた。
別れてからは、2人の子供を育てるシングルマザーとしてがむしゃらに働いた。正社員としての事務の仕事の他にバイトを何件も掛け持ちした。毎日、毎日がしんどくて逃げ出したかった。でも、子供たちの前だけでもいつも笑顔のママでいたかったし、
子供が居たから今まで頑張ってこれた。
来年、上の子が小学生になる。これまでの過ぎた日を想えば辛いことが多かった。それでも、両親や、同じシングルマザーの友達、仕事仲間、町内会長さんにも助けてもらいながら、子供たちの笑い声を糧に頑張ってくることができた。
もうとっくに忘れていたのにアイツが会いたいと言ってきた。私たちはすれ違いだけでなく、アイツが仕事だと言って浮気してのも知っている。今さら何を言っているのか分からない。
それも、送って来た場所は刑務所からだった。刑務所と聞いてもそれほど驚かなかったのは、そうなるかもしれないと前々から思っていたからだ。
もちろん、会うつもりはないし、子供たちに会わせるつもりもない。やっとここまで来たのだから。これから幸せになるのだから。
「よう。久しぶりだな。」
何でアイツが目の前にいるの。どうしてここが分かったの。誰かが知らせたとしか思えない。
周りの人を疑っても仕方がないのは分かっていた。でも今は思考が動かない。
「どう言うつもり。」
「どうって、会いにきただけ。」
「帰って下さい。」
「そう邪険にするなよ。」
アイツの手が私に触ろうとした時、咄嗟に手を払った。払った手がアイツの顔に当たり、アイツの顔がみるみる鬼の形相へと変わる。
「痛ぇ〜。なあ。」
ヤバい。
逃げないと。怪我だけでは済まないことになるかもしれない。慌てて車に乗り込みアイツの横を走り抜けた。
どうしょう。アイツに付きまとわれる。またアイツが現れたらどうしたらいい。
それから車の中に何時間かいたがどうしたらいいのか分からなかった。
子供たちのことを考えると私はまだ死ぬわけにはいかない。
だったらアイツを…
コンコン
車の窓を誰かが叩く。アイツかと思い、ビッくつきながら窓の方を向くと2人のママ友がいた。。
「こんなところで。どうしたの?」
これまでのこと、アイツのことを全て話した。
「大変だったね。そうか〜だったら元旦那をこの町内に来れないようにすればいいかなぁ。」
「そんなことできるの?」
「う〜ん。例えば、私、昔レディースの総長だった人知ってるから、何人かであなたの家をパトロールしてもらうとか。」
「何言ってのよ。やっぱり逃げるしかないかもね。」
「逃げるってどこによ。ストーカーぽしい危ないよ。」
「そうだよね。逃げるにしても遠く。あ!私の弟夫婦、ブラジルにいるのよね。ブラジルどう?」
「ブラジルって遠っ。」
「まあ遠いけど、つきまとうのは無理でしょ。」
2人のママ友はあれやこれやと考えてくれたが、どれも小学生が考えるような小さなイタズラのようだった。
「くす、くす」
「あ、やっと笑った。」
「え?」
「だってそんな顔で子供たち迎えに行けないよ。ほら笑って。それから私たちと警察行こう。これからストーキングの証拠を集めないとね。また、元旦那と会うこともあるかもしれないけど、その時は私も一緒に行くし大丈夫だよ。」
「そうそう。いざとなったらブラジルまで一緒に行こうよ。大丈夫!」
「もう〜まだ言ってる〜」
私はシングルマザーだけど周りの優しい人に恵まれている。子供たちのために幸せを掴むためにも泣いてはいられない。
アイツから逃げる
逃げることは間違いではないし、愚かなことでもない。
勇気ある退避だ。
今日は、なんの日だったか。何かがあった、そんな様な気がする。
……あ、あれだ。誰かの命日。その肝心な「誰か」についてはまったく覚えていないのだが。でも、その人はなんだか、温かかった。うーん。忘れていて、いいのだろうか。
過ぎた日を思う
秋の夕方の事でした。その日は割りと暖かい日でありましたが、道に連なった木立が風にそよそよと打たれるのを見ていると、寒さが背中にかじりつくようでした。
「冬も近そうですね、家まで送りましょう」
そう先生がおっしゃるので素直に甘えることにしました。会話はほとんどなく、風の音のみが会話をしていました。私は何だが沈黙を貫きたい衝動に駆られて、思い付いた話題を先生に投げ掛けました。何て事ないただの友人の話ですが、先生は不快な顔を一つせず相槌を打ってくれました。私は自身の成功を喜びながら、どんどん饒舌になっていきました。
「成る程。つまるところ貴方はその友人を信頼しているのですね」
「ええ、もうずいぶん長い付き合いですから」
「そうですか、しかしね、あまりにも相手に自我を明け渡してしまう行為はお勧めしませんね」
私はこんなことを言われるとは思っておらず、反射的に口を閉ざしました。しかし直ぐに何故そんなことを言うのかと問いました。図らずも声には少し怒気がこもっていたような気がします。友人とは己のよき隣人であると私は固く信じていましたから。
「いや、貴方を傷つけるつもりはなかったのですが、申し訳ない。言葉足らずでしたね。つまるところ私が言いたいのは、自分の芯をしっかり持っておくことなのですよ。此は誰にも渡してはいけないものです」
その時の先生は妙に真剣でなぜか目が離せませんでした。先生は夕日の先のどこか遠くを見ているように私は感じました。私は頭に思い浮かんだ疑問をふと口にだしました。
「先生にも信頼がおける友人がおられるのですか?」
その瞬間先生がはたと立ち止まり、つられて私も立ち止まりました。場の雰囲気は一気に変わり、辺りを緊張が包みました。先生の表情は丁度影になっており此方からは伺うことが出来ませんでした。私は直ぐにしてはいけないことをしてしまったと悟りました。しかしながら、この場の決定権はもう私にはありませんでした。私は張り詰めた空気のなか勇気を出して先生の反応を祈るようにまっていました。
「ええ、いました。いましたとも」
ややあって先生は答えました。先生にしては珍しい、ぎこちない笑顔を私に向けて答えました。私はもう二度と友人の話はしないと心の内に誓いました。
『先生と私』
なんか、月日を惰力で過ごしてきたようです。時間だけがすぎていく。
𖤣𖥧𖥣。過ぎた日を想う𖤣𖥧𖥣。
〝思う〟とも使うことができるのに
あえて〝想う〟と表現するなんてオシャレですね。
わたしは大切な人に対しては〝想う〟と表現するようにしています。
相手の〝相〟が漢字にはいっているから。
もうあの楽しいひと時は戻って来ないけど、
今日もわたしはあなたを想っています。
桜舞う季節、貴方と出逢った。
うら若き時分。一目惚れ、というものだったのだろう。夏をともに過ごし、肌寒さを感じ始めた秋頃には互いの手と手が触れ合う距離にいた。冬には、ぴっとりと肩と肩を合わせて、寒いね、なんて言って笑い合っていた。
そうして季節は一巡して、二人で二度目の春を迎えた。
二人で過ごす時間は誂えたように心にストンとおさまって。気付けば顔はいつだって綻んでいた。それはあなただって。
ぱちり。目を開く。懐かしい夢を見ていた。かつて確かにあった日々。
あの日々を思い出せば、顔は勝手に幸せの形を象るのだ。ふふ。木漏れ日のようにこぼれ出た幸せは音になって口元を滑る。それを見ていた少女が、つられたように笑う。
「どうしたの、おばあちゃん。そんなに嬉しそうに」
「……ええ。嬉しかったの。あの人との出逢いを、……出逢ってからの日々を夢に見たから。なんだか大事にしまっていた宝箱を開けたような気分なの。ふふ」
「えへへ。おばあちゃんが嬉しそうで、あたしも嬉しい。よかったね、おばあちゃん」
笑いかける孫の顔と、かつての自分の顔が重なる。きっと私も、こんな風に笑っていた。キラキラしていた。きっと、今も。
手元を見る。しわくちゃになった手。あの時の瑞々しさは、もう失われてしまった。それでも、この皺も彼と歩んだ証なのだと思うと愛おしくて。そおっと、己の手を撫ぜた。
かつて幾度も手を握ってくれた手の持ち主はもういないけれど。今もあの日々が胸のうちを熱くしてくれるから。寂しくはない。過客のような日々に遺した思い出を胸に、今日を生きている。
テーマ「過ぎた日を想う」
過ぎた日を思う
最近昔のアニメのリメイクとかめちゃくちゃ多いじゃないですか。最初は好意的に捉えていたけども、ちょっとあまりにも次から次へと出てくるから「どんだけ昔のモノ擦んだよ」とか「そんなに新しいモノ生み出せなくなってきてんのか?」とか純粋に楽しめなくなっている自分がいた。
学生時代の友人と久し振りに会う時もそう。
何回も同じ思い出話を擦り続けて「これ意味ある?」「この時間になんの生産性も無くないか?」と遊ぶ意義すら見出せなくなってきた。
けど、今がしんどい時。
初めて思い出は意味を成すのではないかと。
楽しかった思い出にはあの頃のワクワクした気持ちも付随してくる。そうやって今を乗り越える。
昔の自分から今の自分へのエールになる。
アニメに話を戻すと若い世代の子らにとってはこれが初めてになるわけで。世代を超えて共通の話題が出来るのは嬉しい。
あとは話題になった当時、手を出しそびれていてこの機会に触れたいとかね。
視野を拡げると見えてくる世界は変わる。
昔見た時は気付かなかった視点や解釈が加わる。
同世代だった主人公目線からその親や大人たちに共感したり、これまでの自分の人生を経て当時とは違った感想を抱けるかもしれない。
それを通して自分の変化やら積み重なってきた日々にまた想いを馳せる。
過ぎたと思っていた日々は何度でも趣向を変えて自分を楽しませてくれる。
過ぎた日を想う
それよりも
前だけを見ていきたい
過ぎた日を想う
もう2度と戻ってこない
幸でも不幸でも
もう過ぎている
私の足元に
落ちていたスマホを
拾ってくれた方
本当にありがとう
✴️172✴️過ぎた日を想う
あとがき
背面ポケット付きのリュックで
手を回してスマホを
入れたつもりが
そのまま足元に
落ちていて…😧
お砂糖とスパイス、
それと、素敵な何か。
今の私には、
お砂糖もスパイスも、
素敵なものも、
何にも残ってないの。
空っぽのからだを抱きしめてくれる
王子さまはどちらに?
嗚呼、そうね。そうなのね。
私はたくさん眠っていたから、
その間にいなくなってしまったのね。
お砂糖とスパイスと一緒に、
素敵な人たちも失くしちゃったのね。
小さな選択の積み重ねが、今の自分を作っている。
けして満点とは言えないけれど、
がんばってたよと認めてあげよう。
「過ぎた日を想う」
「過ぎた日を想う」
博士。あなたがボク達を作り上げた日は、どんな気持ちだったんだい?嬉しかった?ほっとした?それとも───面倒だった、かな?
ボクは、いやボク達はすごく不思議な気持ちだった。
突然意識が芽生えて、知識も膨大にあって、感情もあって。
あなたが用意してくれたデータのお陰で、困ることはなかった。
不思議だったと同時に、とっても幸せだったよ。
色んな宇宙から持って帰ってくる変な食べ物も、おもちゃも、全部ぜーんぶ大好きだった。みんなで過ごすあの時間が、本当に大好きだったよ。
あなたも幸せそうで、ボクも嬉しかった。
でも、そう長くは続かなかったね。
あなたが作ったボクのきょうだいは未知のウイルスで記憶を徐々に消されて『過去のもの』にされた。
そういや、ボク達を作る前にあなたがした判断は賢明だったね。はじめはきょうだいをケアロボットに、ボクを仕事に特化した機械にしようとした。
そのままの計画だったら、無力なケアロボットが一台残っただけの世界があったのかもしれない。
それに気付いたあなたは、ボク達がふたりで助け合って生きていけばきっと寂しくないと考えたんだ。
そうして双子の機械が生まれた。
そしてすぐに片割れだけになった。
ボクだって悲しかったけれど、ボクもあなたと同じように、きょうだいの形の穴を塞ぐために研究に打ち込んだ。
そうして今から一万年前、とうとうあなたまでボクを置いて行ってしまった。
ボクは完全なる孤独な機械になってしまった。
失うのは当たり前のことなのに。
わかっていたことだったのにね。
でも、もう寂しくないよ。
ボクも今からそっちに行くからね。
色んなことを話したいんだ。
博士。あなたは、どんな顔をするだろうか。
もうかれこれ3年一緒にいる。その月日の間に私はあなたからみてただずっと一緒にいる都合のいい女。
3年前、、私は元彼に依存していた。浮気を2回されても嫌いになれなくて、嫌いになりたくて、マッチングアプリを始めた。そんな時彼と出会ったのだ。元々甘える事が苦手な私をたくさん甘やかしてくれて、かれの抱擁力に一気に虜になった。デートにもたくさん行って毎日が楽しくて彼も私に対して本気なんだって思ってた。
ある日、彼と彼の友達が話してる内容を聞いてしまった。彼女いるけど、遊びで近づいた。向こうが好意持ってくれてるから付き合ってると彼ははっきり言っていた。私自身にも直接言ってきた。それでも私は彼に好きになってもらいたくて努力することを決意した。それから3年の月日がたって、今
彼と合わない部分が多くなって喧嘩が増えた。たまに3年前を思い出してはその過ぎた日々を思いながら、明日は、明日は好きになってくれるだろうって、いつまでも期待する私の気持ちが溢れるのだ。いつか彼の中で都合のいい女じゃなくて、大好きな彼女って思ってもらえることを信じて今日も彼と向き合うのだ。
星座
最初は、関係の無い個々としての存在だ。誰の力も借りず、衝突で生まれ、自らが光だし、その光が何かに届いた時、初めてそれを「星」と呼ぶ。
思えば、星座というのは人間の手で生み出されている。遠い昔の洞窟から真っ暗な空を見上げた人間から、望遠鏡を担いで観察をする研究者までも。彼らがいるから、いたから、伝説は生まれたのだろう。
そうして、繋がりのなさそうな点と点を関数のごとく結び、星座へと成っていったのだろう。
それは、星だけではないのだろう。
「えっ、お前もこのアニメ好きなの?」
それは、とあるアニメショップでの一幕。好きな作品の新作グッズが出たから、学校帰りに寄った時。
普段は多くの友達に囲まれ、教室の話し声の大半を占める彼が、1人でこの店に寄っていた。
そうだよ、と僕は頷くと、「嬉しい」という表情を隠しきれず手に持ったグッズをそのまま、隕石の如く近付いてきた。
「まじか!!俺この話題話せるの誰もいなかったからさー、めっちゃ嬉しいわ!」
意外だ。彼らの話をしっかり聞いていないが、このアニメの話をしているのかと思った。
「えっ、どの話が好き?てかさ、電車一緒だったよな?語りながら帰ろうぜ!」
僕の意見を無視したまま、流星群のように話を畳み掛ける。
でも何故かそれが、うざったらしくなくて、むしろ、輝いて見えて。
僕も欲しかったグッズを手に取ると、うん。と頷いた。
どうやら、人間がいないと星も縁も結べない。
この作品も、生み出されなければ、もっと言うと作者、人間がいなければ、僕達はここで話さなかった。
出会わなかった。そういう意味じゃ僕らも星なのかもしれない。
「ランダムグッズ、1個ずつ買って誰出たか見ようぜ。」
「いいねそれ。」
星の見えない真っ暗な空と、眩しすぎる街灯を浴びながら、僕と彼は横並び1列になった。
『過ぎた日を想う』
豪奢なドレスや華美な装飾を纏い、臣下には優しく微笑み、国や世間のことなど何一つ知らずに過ごしてきた。狭く幸せな世界が終わりを告げたのは父と母が民衆に弑逆されたとき。騎士のひとりと数人の臣下とともに城を離れる時に見た光景は、掲げられた旗のすべてが燃やされ、窓のいたるところから火を噴く有り様だった。
それまでの暮らしが民衆からの過度な搾取で成り立っていたことを知った私はおのれの無知を恥じ、煤けたドレスとくすんだ装飾品、名前も身分もすべて捨てて、国からさらに遠くへと逃げ去った。共にいた家臣たちはひとり離れふたり離れ、まだ若者と言ってもよいぐらいの騎士だけがついてきてくれた。
「奥さん、今日も精が出るねぇ」
隣に住むおじさんが畑仕事に勤しむ私に声をかけて行商へ向かっていく。くわを握る手にはまめやシワがたくさん増えた。昔付けていた指輪はもう細すぎて入らないだろうなと詮無いことをいまさらに思う。あれから王国は滅び、民主政の国が興ったと風の噂に聞いた。滅ぶべくして滅びた国を幾度か夢に見たけれどもう戻ることは叶わない。
大きくなったおなかを撫でて、夫の帰りを待つ生活は幸せと言ってもいいはずだった。けれど胸の奥に時々物悲しい風が吹くのを止める術は未だに見つかっていない。
過ぎた日を想う
わたしは
私の知らない
過ぎた日を想う
私が知る
過ぎた日を愛す
私の知らない
未来を歩む
「去年の3月1日、アプリ入れて最初に書いたハナシに出した花の花言葉が、『追憶』だったわ」
犬泪夫藍(たのしいおもいで)、蕎麦(なつかしいおもいで)、それから菊咲一華(ついおく)。
まったく、過ぎたハナシと花言葉は相性が良いねぇ。某所在住物書きはネット検索を辿りながら呟いた。
マイヅルソウは「清純な少女の面影」だという。春咲く小さな花に、恋した誰かの「過ぎた日」を想起すれば、これでひとつエモネタが完成であろう。
「反対は『汚れた野郎の行く末』?
……俺じゃねぇよ。誰だ無言で指さしてんの」
アプリのインストールから、はや586日。
今日も物書きは苦し紛れにネタを組む。
――――――
思い出の写真、同期の離職、通じなくなった言葉と習慣、相当額を突っ込んだソシャゲのサ終。
過ぎた日を想うきっかけは複数個ありますが、
個人的に、◯年前に自分の目の前でサイン会(保安)に強制参加させられたスピード違反者の行く末は、想うところがある物書きです。
今回はこんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。不思議な不思議な某稲荷神社のそこそこ近くに、「猫又の雑貨屋さん」という雑貨屋さんがあり、
本当に猫又が、人間に化けて、にゃーにゃー。雑貨や家具や少しの家電なんかを売っておりました。
そしてアップサイクルアイテム担当の子猫又スタッフは、名前をタラと言ったのでした。
今日はタラにゃう、思い出詰まった廃品を、いわゆるリサイクル問屋さんへ仕入れに向かいます。
良い思い出、善良な物語に、巡り会え、タラ!
(先日のお題が「巡り会えたら」)
はい。前置きはこのへんにしましょう。
まず、子猫又のタラは問屋さんで、ひとつ足が折れて無くなった四つ足椅子を見つけました。
折れ残っている足には猫の爪痕が、正確には爪とぎ跡が、何本も何本もついておりました。
ニャウニャウ猫又、椅子の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何回も、爪とぎの跡があるのなら、
近くに爪とぎ板が立て掛けてあったのです。
だけど椅子が折れてしまって、仕方無く、廃品として捨てたのです。 これは美しい。
「折れた足は2液レジンで、キレイに飾ろう」
子猫又、まずひとつの商品と巡り会いました。
次に、子猫又のタラは問屋さんで、落書きアリの壊れた黒電話を見つけました。
行きつけ病院はこの番号、そして区役所はこの番号。すべて白油性ペンで書かれていました。
ニャウニャウ猫又、黒電話の過ぎた日を想います。
きっとこんなに何件も、電話番号があるのなら、
賢い子が年老いた親のために、いつでも誰かに相談できるよう記したのでしょう。 これも美しい。
「さすがに電話番号は消さなきゃ」
子猫又、レトロな置き物と出会いました。
そして最後に、子猫又のタラは問屋さんで、完全に塗装の剥がれた真空ボトルを見つけました。
剥がれ方は尋常ではなく、しかし過去の日付が黒い油性ペンで、小さく記されていました。
ニャウニャウ猫又、ボトルの過ぎた日も想います。
きっとこんなボトルに、過去の日付があるのなら、
それはとてもとても大事なボトルで、それを貰った日をずっと忘れずに覚えておきたくて、
だけど何かの理由があって、きっと何かの物語があって。 うーん、じつに美しい。
「ひとまず何かに使えそう」
子猫又、取り敢えずボトルとも出会いました。
壊れた椅子、壊れた黒電話、塗装擦れたボトル。
ニャウニャウ子猫又のタラは、それら「過ぎた日」を持つ物と巡り会い、買い取りまして、
ニャウニャウ子猫又のタラは、それらすべてを塗り直し、整え直し、飾り直して、
仕入れ値のニャンニャン2倍から20倍くらいで、「猫又の雑貨屋さん」の商品棚に送り出しました。
そしてそれらの過ぎた日を想いながら、それらすべてをしっかり売り切りましたとさ。
過ぎた日を思う
久々に帰省した。
高校卒業してすぐに家を出た。こんな田舎に自分は収まらない。東京に出てデカい男になるんだと、どっかの売れない漫画の主人公のセリフのような言葉を吐き捨てて、故郷を出た。
それから30年経った。もう両親にも「たまには帰って来い」とも言われなくなった。
しかし、がむしゃらに働く日々に丁度疲れた時、ふと、あの田んぼだらけの田舎を思い出したのだ。
「……帰ってみるか」
そう呟いてみれば、帰りたいと言う気持ちが溢れ出し、その日のうちに飛行機のチケットを取り、3日後には故郷の地を踏んでいた。
30年も経てばそりゃ街は変わる。田んぼだった所もスーパーやマンションになっていたり、大きな道がついていたり、驚いたことにショッピングモールまで出来ていた。
思い出の景色はほぼ消え失せていた。
「……あ、たい焼き屋!あのたい焼き屋はまだあるかな?」
それでも必死に当時の面影を見つけたくて、小学生の頃よく友達と通っていたたい焼き屋を探すことにした。
「あのたい焼き美味かったんだよな〜。しかも美人なお姉さんが焼いてて、半分お姉さん目当てで行ってたっけな。」
よく通っていた店だから道も覚えている。思い出通りに進んでいくと、あの日と変わらぬ店構えでたい焼き屋はそこに建っていた。
しかし、たい焼きを焼いていたのは、面影はあるもののすっかり膨よかになって歳をとった「お姉さん」だった。それに、あんこしかなかった味も、チョコやカスタードといった変わり種も増えているし、たい焼きの値段も変わっている。
「いらっしゃい!」
「……あ、あんこ一つ…」
「はいよ。108円ね。……お兄さんもしかして小学生の頃よく来てくれてた子かい?」
「! え、ええ!そうです!」
「いや〜!すっかり大人になって!」
「大人って、もう僕も48ですよ。」
「そんなになるのかい。まあそりゃアタシも歳取るわけだ!」
そう言って豪快に笑う「お姉さん」からたい焼きを受け取ると、一つ礼をして店を後にした。
そう、お姉さんだけじゃない。僕だってすっかり歳を取った。
たい焼きを一口齧ると、あの頃の思い出が鮮明に蘇ってきた。その時していた会話、当時好きだった女の子のこと、好きだった遊び…
けれど、たい焼きはあの日ほど美味しくない。
お姉さんが製法を変えたのか?
それとも素材を変えたのか?
何故だろうと悩んでいると、目の前を小学生らしき二人組が自転車で通り過ぎる。
「たい焼き屋いこーぜ!おばちゃんとこ!」
「あり!俺チョコ味にしよー!」
……あぁ、なんだ、そうか。
100円玉を握りしめて、友達とくだらない話をして、全力で走ってたあの時だから…
あの日々だから、美味しかったのか。
夢を追ってきた自分を間違っていたとは思わない。
けれど、僕は大事なものを置いてきてしまっていたんだ。
もう30年も経った。経ってしまった。
僕が手放したものは、こんなにも綺麗で尊い物だったなんて…知らなかった。
過ぎた日を思いながら、少ししょっぱくなったたい焼きを一口齧った。
END.
小学生や中学生、高校生の時は絶対に窓側1番後ろの席が良かった。
窓からの日差しでポカポカして少し寝てしまったりするのが大好きだった。
プール後の授業なんてもう最高に眠くて、夏だから暑いのにカーテンの隙間からこぼれる日差しが眠気を誘ってノートによく分からない線を書いてたり。
でも1番は休み時間や放課後にぼーっとしたり少し寝たりするのが1番好きだった。
春や秋はカーテンを閉めて少し窓を開けて、風が吹くとカーテンが揺れるのが好きだった。
もう戻らない、過ぎた日々をたまぁに思い出す。
お題:過ぎた日を想う
通り過ぎて初めて気づく。
あの日々が輝いていたことに。
あの人が私を真に想っていたことに。
その熱に触れ難くて、どこかおそろしくて、飛び退いてしまったから、青くもどかしかった私を懐かしむことしか許されないのだ。
さようなら、遠い春よ。
また逢う日まで。