『特別な夜』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
遠くから聞こえる祭囃子。煌々と辺りを照らす提灯。
とっぷりと日は暮れて、夕闇が僕らを包み込む。
ああ、つまんないなって、もう帰ろうかって、引き返そうとした時。
すれ違い様、
君と、
僕の、
視線があった。
夜の帳の中を、慣れない下駄で駆け抜ける。
真夏の魔物に惑わされ、僕はみっともなく汗を滲ませながら、走っていく。
やっと見つけた。
「遅くなってごめん。迎えにきたよ」
夜空をバックに、再会の光が宙を舞う。
こっくりとした濃紺のキャンバスに、色とりどりの華が煌めいた。
僕らの、一夜限りの特別な恋。
今回、&TEAM の「FIREWORK 」という楽曲をもとに制作してみました。ご興味ある方は是非、楽曲も合わせてお楽しみくださいませ。
物音を立てるな。
口をつぐめ。
目立つな。
海に聴こえないように。
戸を閉じろ。
窓を閉じろ。
女子供は家の奥に、
男は扉の前にいろ。
海に気づかれないように。
家畜が嘶いても、
ヒトが悲鳴をあげても、
ヒトの笑い声が聞こえても、
決して興味を持つな。
見に行くな。
海に魅入られないように。
海に魅入られたものがいたら、
黙って送り出してやれ。
海に興味を持たれないように。
−ある海沿いの街で、
その年初めての気嵐の日に唄われる詩−
無惨に食い荒らされた家畜を丁寧に布に包んで、飼い主である街人の父娘は、地下洞窟の祭壇の下にある水路に、それを投げ入れた。
娘は、普段立ち入りを禁じられているそこに入るのは初めてで、一度は入ってみたいと思っていたが、大切にしていた家畜の死の哀しみで、全く嬉しいとは感じなかった。
ばちゃんという音と共に水飛沫をあげ、沈んでいく。
左に進むと海に出るというが、ここからは見ることはできない。
しばらく水面を眺めていると、涙で視界が滲んだ。
「行くぞ」
と言って、父が彼女の手を取る。その声には焦りとも畏れともつかない感情がある。
彼女は取られたのと逆の手で涙を拭い、父と帰路に着くべく踵を返す。
(きゃはは…)
洞窟内に微かな嬌声が響いた気がした。
父の手にぐっと力が込められて、足早になる。
娘は突然歩きの速度が上がったことの転びそうになったが、なんとか持ち直して、若干の駆け足で父の歩幅に合わせた。
(きゃはは…)
娘の耳にその嬌声がへばりつき、消えることはなかった。
高一の夏。父さんが亡くなってから三回目の夏。
母さんは昼も夜も働いていて、俺はいつも一人だった。
家に帰っても誰もいない。誰も俺なんかに構う暇がない。心の真ん中がポッカリ欠けたまま、俺はある日、夜の学校に忍び込んだ。ただの暇つぶしだった。
昼のうちに開けておいた一階の窓から、中に入った。普段通っているはずのそこは、月明かりで照らされると途端に姿が変わる。誰もいない、静かな場所。
「あー……」
まるで、俺の心を表しているようだった。ポッカリ欠けたところに、きっとこの場所があるのだ。誰もいない、何もない、ただ存在するだけの生きていない場所が。
「ははっ……」
適当に近くの席に座って天井を見る。
このままここで過ごしたら、母さんは心配してくれるんだろうか。なんて、くだらないことを考えていた。
「うわっ!」
声がして、ハッと教室の前扉を見る。誰かいる。二十二時、無人のはずのこの場所に。
「え、誰? あ……ん? んん? うちのクラスの奴か?」
徐々に近付いてきて、姿がハッキリする。俺のクラスの担任だった。手に紙を持っているところを見るに、何か忘れ物を取りに来たのだろうか。最悪だ。何も今日じゃなくていいだろうに。
さて、何を言われるか。じっと身構えて、担任の次の言葉を待つ。哀れみか、怒りか、それとも別の何かか。
「お前、うち来る?」
は、と息が漏れた。正解は別の何かだった。
「うち、来るって……?」
「そう」
担任は、それ以上何も言わなかった。
何を言われているか分からなかった。でも、ここにいるよりはマシだ。
「行く」
俺の返事と共に、担任は歩き出した。その背中を追って、俺も教室を出た。
あの夜が、俺にとっては特別だった。
今はもう、俺の担任じゃなくて別のクラスの担任だけれど、俺の心の教室は、確かにあの夜息を始めたのだ。
特別な夜。
特別な夜を
2人で過ごそう。
月明かりに
紛れて。
チューを
しよう。
特別な夜と言うのはどんなものだろう。自分の知らないところで生きていく輝かしい人々にも多分苦しみがたくさんあるのだろうそれでも遠くから見れば幸せそうな人がいる。多分素敵な日々に憧れがあるのだろう。漠然とした曖昧な日々の少し後ろには穴が空いている気がするいつでも落ちれるが戻れない。平穏は失って初めてそれに気がつくがそれが辛くて不安に感じるのだろう。病まなかった日々は懐かしく戻らないその日々を思って夜の時間を浪費する。変わってしまった日々が例えようもなく懐かしく自分で選んだ道なのに納得がいかないことに苦悩する。自分で望んだ通りになっているでもそれは思った以上に苦しみがあるそんなつもりじゃなかった。なんて言い訳を繰り返して生きている。
この夜、君が思うほど明るくなくて、輝いてもないけど、
空に浮かぶ星より見たいものがある。
君の口から愛が飛び出すこともなければ、目が合うこともないけど、
あの日の温もりと、ときめきを思い出すだけで良い。
恋しい恋しい、この心よりもその心に愛を与えたい。
頭の中に響くそんな好きでもない歌手の声が、君のことを思い出させて、
辛くてさ…甘くて。
もう一度、見たくて。
思ってたより、私ってロマンチストなんだね。
明日も生きていられるか分かんないけどさ、今はなんか幸せだって謳ってもいいかな?
さぁ、どうかな、君が思うより私が嫌いだったら。
頭が痛くなるくらい、胸がすごく痛くなるくらい、消えてしまいたいくらい、
生きてられないかもね。
意外と、知ってるんだけど、手をつなぐ相手もいないくらいそれくらい、、
孤独に生きていて、それくらい、寂しくて。
恋しい、なんて言えないくらい息が苦しい。
温度のしない床にもたれるのももう疲れたな。
また私は悪いことしちゃったかな?明日もまた悪いことしちゃうのかな?
怒られるのかな?それとも嫌われるのかな?
不安が消えない、消えない、それでも夢の中を走るみたいに突っ走ってもみたい。
もう、生きてるのに疲れちゃった。それなのに、この夜がいつもより心地よくてさ。
もう、もう、もういっかって、思えるような幻想がするんだ。
どこにいるの?愛してくれるあなた。あの人じゃないよね?
あんな悪いことする人が私の人じゃないはず…。
だから、ゆっくりでいいから。お願い。
この夜に免じて願いを叶えてください。
ごめんね、また明日ね。
しんどいな。
特別な夜
貴方がいない夜なんて__________
貴方がいたからこそ"特別"と思える夜だった。
私の身体はあの日から貴方に夢中
あの夜の筋トレ以降私は丸々と肉付きのある身体から
細身の身体に変わった。普段と一味違う何かが目覚めた(?)
サンシェイド手前でその話を聞いたとき、俺は冗談か、そうでなければ悪ふざけなのだと思った。そんな思いが眉間のひくつきとして出たのは、自分でも気づいていた。そのひとはそう身構えるな、ただ飯を食うだけだ――そう言って笑った。
その日はそのひとと、そのほか数人で酒を回し飲んだのだが、気がつけばテントに寝かされていたのは少し格好悪かったと思う。そのひとにはお前はわかりやすく嫉妬深いのだな、と翌日二日酔いに苦しみ、馬車に用意された床で笑われるはめになったので、さらにばつが悪かった。
あなたのせいですよ――そう、色々なシチュエーションでこれまで何度口にしたことだろうか。あのひとに***かけ、あのひとのせいで*を失い、故郷を捨て、身体と、そして心を奪われ――今ここで転がっているのだから、滑稽で、まぬけで。それでも悪い気がしない。そんな胸の内を知ってか知らずか、そのひとは自業自得だ、とさらに笑った。
そうしてたどり着いたサンシェイド。すでに連絡は行っているとのことだったが、疲れを取ってからのほうがいいだろうからと、その日は翌日に指定されていた。そう、向こうからの使いガラスによって返事が来ていたらしい。
正直な話、気が重かった。それが避けられないのなら、さっさとその時が来ればいいのにと、なかばすてばちに構えていただけに憂鬱だった。ほんの少しだが、相手の顔は見ている。少し影のある、平凡な、それでも心根の優しそうな人だったと記憶している。聞けば薬師で、あのひとが裏切られたときに助けられたという話だったから、ひどい人でないはずだ。ただ、だからこそ、それだけにあのひととの関係が気になっていた。あのひとにとって都合の悪いところがあるならむしろそのほうがいい。椅子を蹴って立ちあがり、罵り倒してあのひとの手を引いて強引にでも帰ってくればいいのだから。しかしそうではなく、その相手がいい人だったら、あのひとにとって俺よりも「いい人」だったら、俺はどうしたらいいのだろう。もしふたりの間に割って入れないほど親しかったら。そう考えると、どうしたらいいかさっぱり見当がつかなかった。
間の悪いことに、今日は団員として役割が割り振られてもおらず、悶々とした時間が長くなるばかりで。
「――」
まだ、昼か。それでも食事には少し時間があるみたいだな。
そう、毒づくように息をつき、俺は少し投げやりにベッドに倒れこんだ。
そうしてようやく、ようやく訪れたそのとき。あのひとの迎えが来たので、俺は居心地の悪い椅子から立ちあがったのだった。
すこぶる気の進まない邂逅を迎えるにしては、俺の格好はいつもよりちゃんとしていたと思う。さすがにそのために服を買い直したりはしていない。しっかりと服をつけ、髪を直し、くどくないよう香水のつけかたを慎重にした程度だ。あのひとはたぶんそのことでわずかに表情を変えた、のだと思うが、それでもいつもどおりに少し早足に俺の手を引いて宿を出た。
「そうかしこまるな。知っているはずだが、高貴な身分じゃないし、そこまで口うるさい女じゃない。普通にしていればいい」
手を掴んだままサンシェイドの街を、人の波を縫うように歩くそのひとは、言葉に違わずいつもどおりだ。思えば、初めてのときも、こんな態度だったように思う。場違いにそんなことを思い出した俺は、むずがゆさを抑えてその背中を追った。余計なこと、昨日からずっと考えていた、相手とかわす最初の挨拶や、とるべき態度、何を口にし、口にしないかといったシミュレーションが、すべて砂の城のように流れてゆく。
「お前はあいつの顔を一度見ていたな。見たとおりというか、悪いやつじゃないさ」
「俺、僕は――」
「ふふ、言葉を間違うほどか。大丈夫だ、私がついている」
ぶつかりそうになった少年を睨めつけたのだろう。そうして作った隙間を、俺の手をとったまま無駄なくすり抜ける。
そうしているうちに、あのひとはひとつの扉の前で止まる。この地方によくある、いくつもの家のくっついた、他の地方には見られない様式の家、いや、一室の前。
このひとに懇意にしている人がいること自体、まだ信じられない。馴染みの商人、馴染みのバーテンダー、そういう人なら幾人も見ているが、それとこの扉のむこうにいる人とは、違う関わりかたなのだと、俺は勝手に思っている。確信している。
「ヴィオラさん」
乾いた喉を絞るように声を、出す。
「その人とは――」
――どんな関係なんですか。
――どのくらい親しいんですか。
――どんなふうに。
問いたいこととどれも微妙に違う言葉が反響しては消えてゆく。捨てられてゆく。
仕方がないので目の前のひと背に腕を回し、肩口に顔を埋める。
「どうした、怖いか?」
「はい」
そう応えると、そのひとも俺の肩に腕を置いてくれる。
「そうか」
それが「外」のものか、埋めた赤に染みついたものか分からない砂の匂いなのかは分からない。それでもそうしていると、少しずつ気持ちが和らいでゆく。
「――」
通行人が波が迷惑そうに俺たちを避けているのがわかる。それでも、俺はそのひとから離れることができずにいた。
「――いいか?」
どのくらい経ったか。涙に濡れた赤の主がそっと口を開いた。
「はい。すみません」
最後にすんと鼻を鳴らして彼女から離れると、珍しくくしゃ、とした顔を作り、そのひとは笑った。そして取っ手を掴むと、黙って扉を開いた。
「待たせたな、ユディト」
自分の家のような顔で、そのひとは中にむけて声を発した。
「ええ、待っていたわ」
想像していたよりも、ずっと***な声が、そのひとと俺を迎えた。
「カル君ね。ユディトです。よろしく」
そうして差し出された手を、俺は自分で考えていたよりもずっとしっかりした手つきで握ることができた。
『特別な夜』
何も浮かばないので創作します。
特別な夜
それは突然だった。
何が起きたのか理解できず、皆、パニックになった。
わたしも例外ではなかった。
わたしは、真っ赤な画面のスマホを見つめたまま、どうにか起動しようと血眼になった。何が起きたのかわからず、ただただパニックだった。周りにいた人々も皆同じ様に慌てふためいていた。
この日、この時、世界中のスマホが同時に壊れたのだった。
タブレットやパソコンも全滅した。
テレビ番組はどの局も端末故障の特集になり、真っ赤な画面のスマホが映し出されていた。何かの陰謀か、はたまたサイバーテロか、と評論家たちが喚いている。
画面が真っ赤なのも謎らしいが、そんな事はどうでも良かったので、テレビを消した。
スマホのない世界は、不便と混乱の始まりだった。
「昔はなかったのだから、昔に戻ったつもりになればいい。」と、言う者もいたが、もう時代が違うのだ。スマホが前提の世の中だったのだから、昔に戻れるわけがない。
スマホが使えず、「夜って、こんなに長かったっけ?」と思うほど時間を持て余したわたしは、本棚から本を取り出した。かなり前に流行った小説だ。内容を覚えていないくらい昔に読んだ本だから都合が良かった。
真っ赤な表紙に『特別な夜』とタイトルが書かれている。
「あー、ある意味、今夜も特別かもね。」と、皮肉交じりに呟きながら本を開いた。
─おしまい─
今日は満月。
小さな自分も、大きな山も、全てを照らしてくれる。ほんの少しだけど、優しい光。
今日は三日月。
少し光は弱いけど。その微かな光で自分は救われる。小さくて弱い、自分の影。自分はここに生きている証。
今日は新月。
何も見えない、真っ暗だけど、確かに存在する。いつもは自分を照らしてくれるから。今日だけは、ゆっくり休んでほしい。
どれも違う、特別な夜。
今日だけの。
_特別な夜_
もう何時間経った…?妻が特別室に入ってからしばらくたった。
今日、仕事をしていたら、妻が、入院している病院から電話がかかってきた。「陣痛が始まったからすぐに来てほしい」と。俺は急いで上司に事情を説明し、病院に来た。俺が来たときにはもう妻は特別室の中だった。
スマホを見る。もう0時を回っていた。
「頼む。無事に産まれてくれ…」
さっきから何度も呟いている。喉もカラカラだ。だが、飲み物を買いに行く気にもなれない。もし俺がいない間になにかあったら、もし俺がいない間に産まれたら。そう考えるととても動く気になれない。
「頼む…頼む…!」
その時
「ほんぎゃーほんぎゃぁあああ」
一瞬、時間が止まった気がした。産まれた…産まれたのか…?特別室の扉が開き、助産師が出てくる。
「お父さん…産まれましたよ。元気な男の子です」
涙が出てきた。案内され、特別室の中に入る。ベッドの上には、産まれたばかりの赤ちゃんを抱いた妻がいた。
「あなた…産まれたの…産まれたのよ…!」
「あぁ…本当に…」
産まれたばかりの赤ちゃんは小さく、でも確かに生きていた。
「良かった…本当に良かった…」
これほどまでに特別な夜はあるだろうか。そう思えるほどだった。
外は雪が降っていた。産まれたばかりの赤ちゃんを囲み、夫婦は涙を流し笑っていた。
「ただいまー!」
軽快な声が玄関に響く。俺は料理していた手を止め、玄関へと向かう。
「おかえり」
「えへへ、ただいま」
声の主はこの家の同居人、葉瀬(ようせ)だった。彼女はいつもより嬉しそうに笑う。
「見て見て、じゃーん!」
彼女は手に持っていた白い箱を誇らしげに見せた。
「ケーキ買ってきた!」
「えぇ?太るよ」
「む、いいじゃん。玲人(れいと)の分もあるんだし」
ぷく、と頬を膨らませる。
「はいはい、わかったから早く着替えておいで」
「はーい」
太る、と言いながらそれを許してしまっている俺はつくづく葉瀬に甘いと思う。まぁ、しょうがないよね。
俺はケーキを冷蔵庫へとしまいに行った。
「ご馳走さま」
一足先に食べ終わった彼女は皿洗いを始めるのか、シンクにお皿を持っていった。
「ケーキ、冷蔵庫にあるから先に食べてていいよ」
「ん?んー...」
なんとも言えない微妙な返事をする。
数十分後には俺も食べ終わり、お皿を運んでいた。
「今日は私が洗うよ。だから玲人は先にお風呂入ってていいよ」
「珍しい」
「珍しい...って私だって率先してやる時はやります~、ってか週三は私が洗ってます~」
「あぁ、そうだったね」
「そうだったねって忘れてたの!?も~」
またぷく、と頬を膨らませる。
「ごめんって」
「まぁ許すとして、はよ!行ってこい!私次!」
「はいはい。葉瀬も早くね」
「はぁ~い」
皿洗いをして、お風呂に入って、着替えて。
そうして全てが片付いて、俺達はソファでケーキを食べる。
葉瀬が買ってきたのは、駅前に出来た新しいケーキ屋さんのショートケーキだった。
苺が大きい。赤くて艶々していて、まさに王様の様に真ん中に立っている。クリームが胃もたれしない程度に甘い、でもふわふわ。ついでにスポンジもふわふわ。
「美味しい...」
「ん~、甘...染みるぅ...」
俺がゆっくり食べている横で、凄い速さでケーキが無くなっていく。
「あ、無くなった...」
「早くない?味わって食べたれた?」
「食べれた。ケーキが一瞬過ぎたんだよ」
葉瀬は食べ終えると前にあったテーブルにお皿とフォークを置き、肘をつきながらこちらを見た。
「......あげないよ?」
「いらないよ。玲人が食べてるとこ見たいだけ」
そんなにじっと見られたら食べられないんだけど、なんて事を思いながらフォークを進める。
「...ふふん」
何がそんなに面白いのか、そう聞きたいけど勇気が無いから言わない。
そうやって食べ終えて片付ける。勿論、二人で。
そうして寝る前に歯を磨く。
「......うぅっ...」
いつの間にこんなに寒くなったのだろう。俺達は早めに布団に入った。
「疲れた......」
彼女の体温は平均より高く、温かい。まるで湯たんぽの様だ。
「じゃあ寝ようか。おやすみ」
ライトを消す。
「葉瀬」
俺は彼女が眠る前に、名前を呼ぶ。
「なに、玲人」
少し眠そうな声がする。
「今日、ありがとう。ケーキ美味しかったよ」
「うん...わたしも......ありがと...」
「おやすみ」
「おやす...み...」
しばらくすると、彼女の呼吸が聞こえてきた。
「...葉瀬、ありがとう。大好きだよ。おやすみ」
俺はそう言って目を瞑った。
お題 「特別な夜」
出演 玲人 葉瀬
特別な夜
久しぶりに中学3年の時のクラス会…あれから長い時が過ち、それぞれ違う道を歩んできた…
集合場所の居酒屋に行くと、誰が誰やら判らない…曖昧に返事し乍ら、席に着くと、ポツリポツリ座席が埋まっていく…そして、向かいには、あの頃、淡い想いを寄せていたあなたが…段々と場が和み始めて、わいわいがやがやなり、あなたとも、別れ別れになって以降の四方山話で盛り上がる…その内、何処かで、お決まりのあの頃の恋バナが始り…懐かしさと、ちょっと切なさが込み上げてきたのを感じつつ、向かいに座るあなたの笑顔に…
特別な夜
怖い思いをした夜
関係が崩れてしまった夜
自分が全て悪いのだと枕に模様ができた夜
祖父が亡くなった夜
その祖父が祖母をお迎えに来たかのような夜
いいお酒に出会えた夜
美しいものをどうしようもなく消化できない夜
私の代わりは きっとたくさんいて
それでも眼の前の人にとって
私は私だけしかいないと 肩が軽くなった夜
明日から仕事だと落ち込んでも
昨日までの私から更新される今日の夜
2024/01/21
『特別な夜』
今宵は大臣主催による舞踏会に招かれておりますわ!
大臣と握手を交わしていると、
歓声が聞こえてきました。
そちらへ視線を向けると、そこには人々の輪の中で不敵な笑みを浮かべる道化師が立っていました。
道化師は手に持っていたナイフで見事なジャグリングを決めてみせ、皆が彼に賞賛の拍手を送っています。
私もその華麗なナイフ捌きに感心していると、
大臣が訝しげな眼差しで彼の部下を見ました。
「あの道化師は何だ?あの様な催しは
呼んだ覚えがないぞ」
「安心してください。彼はフレンドリーです!」
それから私は人脈作りのために貴族たちとの
会話に励んでおりますと、突然どこかから
悲鳴が聞こえてきました。
その場へ駆けつけると、茂みの中で男女が
抱き合ったまま見るも無惨な姿となり
絶命しているではありませんか!
すると今度は大広間で何やら
騒ぎが起こっているようです。
遺体はセバスチャンに任せて急いで広間へ
行きますと、ステージ上に先程の道化師と
逆さまに吊るされた大臣の姿がありました。
周囲には衛兵らしき者達が血を流して倒れています。
道化師はニタリと笑って、大臣の股の間に
ノコギリをギコギコと入れていき、
彼の身体を真っ二つにしています。
それはまるでマグロの解体ショーでも
見ているようでした。
人々がパニックに陥り逃げ惑う中、
道化師は血塗れのノコギリを握り締めたまま、
ゆっくりとこちらへ近付いてきます。
私はドレスの下から武器を取り出し
臨戦態勢に入りました。
悪役令嬢と道化師、二つの視線が混じり合う。
血塗られた『特別な夜』が今、幕を開ける────
心なしか足速になっていく、仕事帰り。
普段とは違って
そう、今日は特別な夜。
今までに特別な夜と思える日があったのだろうか?
それさえ分からない
特別 特別 特別って何だ?
何が特別と言えるのか?
心に残っているものが特別?
特別って思って迎えるのか?
何も思い浮かばないのは人としておかしいことなのか?
洋梨のシャーベット
ベルギーの映画
モスグリーンのソファー
オレンジペコ
ブリキのランプシェード
遠くのクラクション
伏せた文庫本
ビターチョコレート
白黒の猫
ゴブラン織りのクッションカバー
見覚えのない鍵
一人の部屋
一人の部屋
一人の部屋
【特別な夜】
特別な夜
いつもと同じ暗い黒いなのに、
いつもと違って、キラキラと輝いて見える。
初めて迎えた夜。
自転車にのれた歓喜の夜。
受験に失敗して泣き疲れ眠った夜。
両親と酒を飲み交わした夜。
未来の妻と初めて過ごした夜。
毎日夜を迎えるが振り返るとすべてが特別な夜。