『柔らかい雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
テーマ:「柔らかい雨」
ぽつぽつと、音が聞こえ始めた。
本来であればこの後に、ザブザブというような喧騒や、ボタボタというような振動が続くのだろう。
ただ、今日の音はそのままだった。
…精々、その天候を名乗るために最低限必要なだけの勢いをともなった、
不協和とも、調和とも判断のつかない純粋な水と土との触れ合いを、
私はじっとその場で、聞き続けた。
そのうち、波を思い出した。幼い頃、浅瀬の中から見た海面の波を。
揺らめく視界の中での、全身で水に触れ合いながらの、自然な態度のそれは、
砂で立ってみた時よりも、神秘的で、違って見えたのを思い出した。
そしてそれが、雨を、ほんの少し暖かく感じさせた。
そろそろ止むだろうな、と感じた。
それが、時間のせいなのか、温度のせいなのか、思い出のせいなのかは、分からない。
ただ、実感だけはあって、
気がつくと体の準備が出来ていた。
数分後、雨はやんだ。
ほぼ同時だったそれに、
感謝とも、寂しさとも、愛しさとも、
なんとも判別できない感情を抱えつつ、
私は、漸く帰路についた。
多分、包んでくれていたのだろう。
雨は嫌いだ
が
雨音は好きだ
そんな人は意外に多いと思う
考える仕事をしているとき
YouTubeで探して雨音を流す
外は晴れているのに
イヤホンからはひたすら雨音
たぶん今日もそうする
「柔らかい雨」
秋。夏の暑さに終わりを告げ、少しずつ寒さを運んでくる季節。
河原にきのこを、猫に冬毛を、人に憂いを与える。
太陽がなかなか顔を出さなくなるから、なんとなく寂しい。
でも、秋の雨は柔らかい。
穏やかな音を立てて、明るい空に虹をかける。
金木犀の香りを漂わせて、皆に元気を与える。
夢か現か、山にはぼんやりと霧を纏わせる。
この柔らかい雨を、金色に光る雨を見て思う。
秋は寂しいけれど、世界のあたたかさと美しさを教えてくれる、そんな優しい季節だと。
やがてこの雨は霙に、雪に変わって町を白く染める。
全てを無に還す白い死をもたらす。
柔らかい雨が雪に変わる前に。
秋の優しさに触れて、包まれて。
ひんやりとした暖かさに触れましょう。
私に降り注いだ
穢れが全て消えますように、と
ただ心の中で願った
知られなければ、なおのこと。
_柔らかい雨
君が知らない男の嫁になると聞いて、私がどんな思いだったか、君は知らないだろう。
男の暖かい腕の中で眠る心地はどんな風だろうか。
私は君の傍で暖かく過ごしていたかった。
ずっと優しく寄り添ってくれていた君は
私に飽きたのか、友達として話してくれる事もなくなった。
君の結婚式の日
私は君を遠くから祝福することしか出来なかった。
生まれ変わったら
君を包む、柔らかい雨になれたらいいな。
結婚式の日
家のポストに入れられた合鍵
優しく微笑みながら、遠くから私の事を見ている貴女。
私は貴女と幸せになりたかった。
ほんとうよ。
もし、生まれ変わることが出来たなら
どんな姿になっても、貴女の傍で眠りたい。
暖かい貴女の傍で。
ピュアじゃない私を洗ってよ
優しい緑色の雨のシャワーで
そこに根を下ろしてもいい
秋霖が許してくれた自由に伸びる
♯柔らかい雨
柔らかい雨
普段自転車に乗ってるときに雨が降ってくると鬱陶しくてイライラしちゃって土砂降りのときはなんでこんな中自転車漕いでるんだろうって思って涙も土砂降りにしながら漕ぐときが時々ある。
そんな私でも柔らかい雨は感じることがある。基本的には会いたい人に会いに行くときの雨。雨降ってるのに自転車漕いだり原付跨ったりしてまで会いに行ってる自分に酔ってるだけかもしれない。まあびしょ濡れになってまでも会いたいから雨なんて気にならない、柔らかい雨。
でも今までの人生で1番柔らかかった雨は元彼と最後に会った日の雨。電車に揺られながら今日で終わりにするんだって心に決めて会いに行ったあの日。帰りの駅から自転車で帰っているとき本当に今日で終わりでよかったのか、不安で仕方なくて涙が止まらなかった。そのとき降り始めた雨はまるで私を包み込んでくれているかのように感じた。
そういえばその元彼の前の元彼と故意的ではないが最後に会った日も土砂降りだった。今の彼氏と復縁する前最後に会ったときも雨の中会いに行った。
そう考えると雨の中好きな人に会いに行くのは危険なのかもしれない。
晴れの日も雨の日もだいすきな人と一緒にいられますように
細かい雨粒が
柔らかく私の周りに纏わりついてくる。
小さな雨粒たちは
じわじわと私の体を湿らせるだけで
この涙を隠してはくれない。
柔らかく、でも確実に私の体温を奪っていく。
優しいふりをして
私から希望を奪う
まるであの男みたいだ。
#柔らかい雨
渇いた緑に静かに染み入るように
寂しい心をしっとりと包み込むそんな
柔らかい雨なら濡れていこうか
【柔らかい雨】
目を閉じると
ふと考えてしまう
朝は来るのかな
光がありますようにと
幸せを願っている自分が居るんだと
安心する
どうかこの柔らかい雨音を
感じられる世界に居られますように
学校の帰り道。
泥だらけのように見えるランドセルが雨に濡れて光っている。
新しく買った服が泥だらけになっている。
お気に入りの靴を通って靴下まで濡れてしまって気持ちが悪い。
傘がないのに急に降り始めた雨。
それは、私を辛くさせるとともに私を肯定して励ましてくれるような温かくて「柔らかい雨」だった。
女になりたい俺は雨が嫌いだ。
ジメジメしてるし、湿気で髪はうねるし。
冷たいし、服も濡れるし、嫌なことしかない
特に夏なんか最悪で、靴下が蒸れて
ずっと干しても乾かないし……
とにかく雨の日は何もしたくない、倦怠感に襲われる。
僕は、良く考えたら晴れも嫌いだ。
暑いし、湿気はすごいし
汗が出て、そこらじゅう暑くて堪らない。
自分は、もしかしたら雪も嫌いかもしれない。
冷たいし、素肌に少し触れるだけで凍傷になりそう。
雪だるまではしゃげた子供の頃に戻りたい。
私は、いい加減に何がしたいんだろう。
何だかよくわかんなくなっちゃった。
この曇りで、なんでもない今日に死ねたりしないかな。
今日は、すごく強い酸性雨。
体が熔けて、死んじゃうくらい。
なのに気持ち的にはすごく柔らかい雨だ。
男になりたいあたしは、酸性雨が好きだ。
からだがどろどろとけて、ぜんぶおわりだ。
キリンジは雨を毛布に例えてた喧嘩傷にはそれでも沁みた
「柔らかい雨」
柔らかい雨 11.07
今日は雨が降ってる。
ちょうど出掛けようとしていたから、
いい迷惑だ。
でも、ずっと行こうと思って言っていなかったから、さすがにそろそろ外に出ようと玄関を出た。
なんだ、思ったより小雨じゃん。
良かった、もっと降ってるのかと思ったから
少し憂鬱感が抜けた。
やることも終わり、家に帰ろうとしたら
突然、声をかけられた。
振り返ったら、学生時代の友達だ。
ここしばらく会って居なかったため、なんだか
懐かしい気持ちになった。
あのまましばらく話して、途中で別れた。
今日はこんな雨だったけど、いつもより気分が
良かった。
普段は鬱陶しい雨の音が今日は柔らかく聞こえた
『少年Bのハンコウ』
少年Bは、人を殺した。
それはそれは激しい雨が降る夜に。
少年Bに滴るのは、ただただ興奮して火照った体を強制的に冷却するようにつんざく雨だけである。
涙など流れてこない。あったとしてもそれは涙ではなく、人を殺したことによる焦燥感ゆえの汗であろう。
少年Bは、前々からこの人物を殺すつもりであった。
一時の昂った感情などのものでなく。
計画的な犯行、反抗、反攻であった。
だがこの少年Bは人を殺したことを悪い事だとは思っていない。いや、正確に言うとするならば「この人物を殺したことについて悪い事だとは思っていない」だろうか。
多分、他の人であれば大罪を犯してしまったとさぞ恐怖で震えるだろう。
しかし、少年Bが殺したのは他でもない少年Aである。
いつも、いつも、いつも先にいる、少年Aである。
さぞ妬ましいだろう。
さぞおぞましいだろう。
さぞ愛らしいだろう。
どう自分をアピールしたところで結局皆少年Aの方へと流れてゆくのだ。
そこで少年Bは考えた。
「自分が少年Aを殺せば、皆自分を注目してくれるのではないか」
あぁ、なんと賢い。賢く醜く愚かな考えだ。
しかし、僕は止めはしない。
少年Bの傘になることなど到底僕にはできぬのだ。
いいや、先の言葉は撤回しよう。
僕は少年Bの傘になどなりたくないのだ。
きっと少年Bの傘になると、激しい雨で破れてしまう。
他人のために犠牲になるなんざ僕はまっぴらごめんである。
…気づけば雨は軽く柔らかくなっている。
少年Bの手元にある包丁は大雨ですっかりぴかぴかになっている。
少年Bは、ただただ空をぼんやりとした眼で見つめている
魂でも抜けたような表情である。
顔に降り注ぐ柔らかな雨は、きっと少年Bを赦してくれる唯一の友なのであろう。
あぁ、可哀想だ。少年Cの僕よりも哀れだ。
上ばかり見すぎたせいで下が見えなくなってしまったのだ。
人殺しよりも人を見下す方が軽い罪であるというのに。
見下せばよいのに。
貶してしまえばよいのに。
愚か、疎か、おろかである。
さて、そろそろ僕はこの話を閉めるとしよう。
少年Cとしての役目を果たしたからな。
あぁ、そうそう最後にこの話の本当の題名を教えてあげるよ。
『少年Cの愚かな人形劇』
お題『柔らかい雨』
少々お題から大それましたね…すみません…
柔らかい雨。
螺旋階段の踊り場で目を覚ましました。
眠っている間に雨はどれだけ降ったでしょうか。わたしは足音を鳴らして階段を降ります。朝の青い影が細い手すりについています。
わたしは階段に住んでいます。住んでいる建物が階段そのものでできています。わたしが二年前にこの塔に入りました。この塔はとても高く、天井知らずです。ぐるぐると昇ってきて、まだ終わりがありません。
昨日はいつにも増して雨が降ったようでした。
少し降りたところで階段は水に浸されていて、わたしが寝て起きた踊り場も、数時間後には冠水すると思われます。
この水はただの雨水ではありません。わたしを上へ上へと追いやる雨水は、二年前からずっと透き通っています。なにを落としても、だれが沈んでも。
わたしは螺旋階段の踊り場で睡眠を取り、踏み板に座って本を読み、ときどき現れる窓にもたれ、滅んだ世界を見て生きています。
雨は一日として止むことはありません。
塔にてっぺんはありません。
見上げると次の踊り場の窓から朝日が差し込んでいます。ここは一体どこなのでしょう。
外では小雨が降っています。
わたしは石の壁を撫でながら階段を上ります。窓の外を見てみます。太陽が水平線の向こうにいます。ここはどこなのでしょう?
きらきらと小さな雨粒が太陽に光って落ちていきます。
窓から身を乗り出して、飛び降りるつもりでわたしは下を見ました。
そこには、陸も海も底もなにもなく、ただただ、透明な水と石の塔の肌がはるかに続いているのでした。
Episode.46 柔らかい雨
「今日も雨、か。
そろそろ来るのかな。」
ピンポーン____
「…はあい、やっぱり今日は来るんだね。」
「おう!なあ、今日は雨も弱いしコンビニ行かね?
美味いもん買って映画見ようぜ、俺の奢り!な?」
「気が利かないなあ…奢ってくれるならいいけどさ。」
去年隣に引っ越してきた友達の麗斗。
彼は、雨の日には必ず私の家に遊びに来る。
雨が止んだら少し寂しそうな顔をして帰っていく。
理由は分からない、聞いたこともないから…。
「____でさ…なあ聞いてる?ボーっとしてね?」
「聞いてるよ、夢の中で逆立ちしながらカバに乗ったん
でしょ?」
「だいぶ前の話だなそれ…」
「…ねえ、聞いてもいい?どうして雨の日には必ずうち
へ遊びに来るの?」
「んー…雨の日ってさ、用事がない限りわざわざ家から
出ねえじゃん?てことはよ、俺が遊びに来ない限りそ
の日は会えねえかも知れねえじゃん?」
「うん、うん…ん?つまりどういうこと?」
「あーあー!何でもねえ、綺音はほんと鈍感だよな。」
「ちょっと、もしかして馬鹿にしてる?」
カチ、カチ、カチ、カチ____
「なあなあ、俺ら高校生じゃん?恋バナしね?」
「麗斗っていつも急ね。
話題を出すってことは話したいことでもあるの?」
「実はさあ、俺好きな人いるんだよ!ビビった?」
「麗斗は知り合った頃から分かりやすいし、今更ビック
リすることなんてないけど。」
「ええー?冷たいなあ…。
…んで、綺音は?好きな人、いねえの?」
「…いるけど。」
「え、マジ?うわー意外だわ…それって誰なん?」
「麗斗」
「ん?どした」
「…っだから、麗斗だってば!」
「俺がどうし…た、…え!?」
「はあーっ…ほんと、鈍感なのはどっちなのよ。
…で?麗斗の好きな人っていうのは誰のことよ。」
「…綺音、が好き。」
「うん、知ってる。」
「は!?いつからだよ!」
「ふふっ、ふふふふ、まさかバレてないとでも思ってた
の?ほんと麗斗って面白いのね。」
「うるせえ!俺を馬鹿にしてんじゃねえ!」
ぽつん、ぽつん____
雨はもうあがっていた。
庭の葉に滴る水が柔らかい雨のようにぽつんと落ちる。
「ねえ、今日は帰らないの?」
「帰る理由なんて、もうねえだろ。」
ふと…
ぺトリコール
いつかの溜息が降る
溢れずいた言葉は
あの頃のまま
シトシトと甘い
綴り雨
『柔らかい雨』
「今日も可愛いね〜」
弧を描くように、水が葉や土の上に落ちる。
毎朝の習慣にもなっている、植物達に水をあげ、コーヒーの匂いがベランダにまで届いてくる。
葉につく水滴が、光を反射して少し眩しい。
生物を飼う余裕がなく、代わりに育て始めた植物達には愛着が湧き、毎朝話しかけている。
今ではすっかり、雨降らし職人だ。
部屋に置いている、観葉植物にも水を与え、優雅にモーニングタイムとしよう。
テレビを付け、チャンネルを適当に回し、気になるニュースをやっていた番組で止める。
コーヒーを1口すすると、少し目が冴えた気がした。
顔がびしょびしょだ。
ダラダラダラダラと水がひっきりなしに顔を滴っている。
霧のように細かく軽い雨粒たちは、少しの空気の動きで簡単に煽られて、斜めに吹き付ける。
霧吹きに吹かれたような柔らかな雨たちは、風に乗って雨具を躱し、巧みに、確実に、身体から体温を奪おうとしていた。
空気は冷たい。
降り頻る柔らかな雨の水が、止めどなく熱を吸っているからだろうか。
雨に降り込められたこの町は、ひんやりと死人のように冷たかった。
指先が冷たく悴んでいる。
空には、のっぺりとした濃い灰色の雲が居座っている。
傘をさした誰かが足早に通り過ぎていく。
私はレインコートの前を合わせて、身体をすくめて歩き続けた。
柔らかな雨は相変わらず、私の体温を奪っていた。
それでも私は足を止めなかった。止めたくなかった。
私は、青い影を探していた。
永遠の雨空に包まれた、陰気なこの町に落ちる、青い影を探していた。
王都に近いこの町はしかし、通行人や普通の人間が少なかった。
理由は一つ。
この、柔らかな雨のせいだ。
ある時を境に、この町には四六時中、柔らかな雨が降り続けるようになった。
呪いだ、と大人たちは、まだ子どもだった私たちにそう、語った。
この町はある時、町に殺された霊が呪いとして、降らせ、降り注ぐようになったのだと言う。
青い影は、そんな柔らかな雨のところにふっと現れると、風の噂で聞いた。
だから私は探さないわけにはいかなかった。
びしょ濡れになってでも、青い影を一眼見なくては、と思っている。
私には親がいない。
正確には、親が私たちを逃がしてくれたのだ。
かつてから、この町は迷信深い、排他的な町だった。
町の掟の一つに“ミソっ子”という制度があった。
これは子どもの際限ない虐めや暴力を制限するために、わざと仲間外れの子を決めて、無碍に扱い、幼い人間たちの残虐性の捌け口にするという、性悪説を意地悪く煮詰めて、悪意をたっぷりすり付けたような、そんな碌でもない決まりだった。
二人目の子だった私は、その“ミソっ子”にされるはずの子どもだったそうだ。
母親は、私が“ミソっ子”にされるのを嫌がった。
拒否し続けた。
そしてとうとう、私を、ひっそりと隣町の叔母にやることに決めた。
まだ、物心もついていない幼子を、女で一つで逃すという、無茶な計画だった。
しかし、結果として、私は隣町へ逃げ延びた。
母親を、他の子を犠牲にして、私は隣町の子になった。
町の決まりに背いた母は、見せしめに酷い目にあい、
私の同級生になるはずだった子たちの中から、私の代わりの“ミソっ子”が選ばれた。
そして、ある時、殺されないように管理されていたはずの“ミソっ子”が死んだ。
直ぐに、自ら命を絶ったと分かった。
そして、私の母は、その翌日に、ボロボロの精神と身体をとうとう壊し尽くして、動かなくなった。
柔らかな雨はその日から降り出した。
その雨の町中に、青い影がさすようになったのは、“ミソっ子”と母の形式ばかりの葬式が終わったあとだという。
私は、母を愚かだと思っている。
短絡的な我が身と我が子可愛さに、それまで疑問とすら思わなかった決まりに刹那的に抗って、他所まで巻き込んだ母を。
母のその、短絡的で愚かな選択によって、今、私はこうして、この町に帰ってきて、柔らかな雨の中を彷徨っているのだから。
私は、私の変わり身になった“ミソっ子”を愚かだと思っている。
自分が苦しみから逃れるために自分を殺害し、誰かに復讐を遂げるでもなく、ただ刹那的に逃げた子を。
そのために、この決まりと町に、死後も永遠に囚われ続けているのだから。
私の親族は、もはや誰もいない。
私がここから帰らなくても、悲しむ人はいない。
喜ぶ人はいても。
だから私はここに来た。
青い影に会いたかった。
話を聞いてみたかった。
青い影が、誰のものだったとしても。
私に強い感情を寄せている誰かの感情を向けて欲しかった。
それが、私が生きる意味だと思ったから。
柔らかな雨は、ずっと降り続いている。
体の末端が芯から冷えてくる。
関節も四肢も、すっかり悴んで、まるで死人のような町の空気に取り込まれてしまった気さえする。
それでいいのだ。
顔がむちゃくちゃに濡れている。
雨粒が私を責めたて、体温を奪っていく。
冷たい冷たい空気の中で、私は一歩を踏み出す。
柔らかな雨は、ひたすらに降り続いていた。