『奇跡をもう一度』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
“奇跡は諦めないヤツの頭の上にしか降りてこない”
奇跡と聞くと、いつもこのセリフが浮かび上がる
いわゆる『奇跡』とは、
どんな事が起きても止まらず進む事、
そしてその先で微かな光を掴み取る事なのだろう
なかなか難しい注文だ
だからこそ『奇跡』は尊いものになる
それならもう一度を願うのは強欲なのか?
都合よく奇跡は起きるものでないし、
漫画やゲームのように起きなくても、
泣きながらでもボロボロになってでも進んでいけば、
もう一度別のかたちとして見つける事はできるはずだ
諦めなければ、どんな奴にも奇跡は起きる
しぶとく生きていくのが『奇跡への近道』だ
「エモネタ多い気がするこのアプリだけど、奇跡や運命なんかは、3月から数えてコレが初出よな」
まるで、何度も引いてSSRは揃った常設ガチャの、何故か1枚だけ出てこないSRのようだ。
某所在住物書きは過去投稿構分を辿り、今まで一度も「奇跡」が出題されていないことに言及する。
「俺としては『もう一度奇跡』なんざ例の『あと一度だけ』から始まる歌と、ソシャゲのリセマラよ。
必要SSR2枚抜き。確率約0.05%が2枚。ほぼ奇跡じゃん。……『奇跡をもう一枚』よな」
物書きはポツリ、呟いてスマホをいじる。
ところで去年は「無くなりそうな調味料を片付け目的で全投入したスープがバチクソ美味かった。再現の奇跡をもう一度」を書いた。 では今年は?
――――――
たまにお世話になってる漢方医さんから、自律神経と寒暖差疲労に効く薬を処方してもらって、
ついでに原因特定困難かつバチクソ酷い倦怠感で入院してるっていう本店の陰湿イヤガラセ常習犯、五夜十嵐の入院風景をチラ見した帰りの通路で、
偶然、別の入院部屋のドアが開いたとき、
チラリ目に入った光景から始まったハナシ。
3月から同じ支店で一緒に仕事してる付烏月さん、ツウキさんが、お見舞いのパイプ椅子に座って、
元気そうな黒髪長髪美女さんと笑って話をしてて、
付烏月さんに美女さんのことを聞いたら2人して
「生き別れの姉です/弟です」
と冗談を言われ、私が「いやいやウソでしょ」と反論してから、徐々に膨らんでったフィクション。
ちなみに正解は付烏月さんの前職のひと。
都内の私立図書館の館長さん。
奇跡的な偶然で、バチクソなんとなく受診したら、
これまた奇跡的に初期初期のガンが見つかって、
奇跡的に転移がどこにもみとめられてないと。
「軌跡をもう一度」。手術も成功したことだし、二度と再発しなければ良いね。そんな経緯らしい。
…――ふたりはこの病院で生まれ、館長さんの方がミスで取り違えられた。(※付烏月さんの冗談)
取り違いの事実に気付かないまま小学校に入学し、中学校を卒業して、奇跡的に、ふたりは一度同じ大学の同じゼミに入った。(※館長さんの悪ノリ)
当時は双方、何とも、少しも、いわゆる「双子の不思議な繋がり」なんて、感じなかったらしい。
大学を卒業して、お互い、別々の離れた進路へ。
館長さんは実家の私立図書館を。
付烏月さんは興味を活かし探偵に。(※多分虚偽)
館長さんの創作スキルが本領発揮して参りました。
「肉親」とすれ違う奇跡をもう一度。
付烏月さんが館長さんと再会したのは、館長さんの育ての親が「娘の本当の肉親を探してほしい」と付烏月さんに依頼してきたから。
付烏月さんは依頼者の「娘」、完治寛解困難な病に冒されてた「双子の姉」と再会した。
ふたりが取り違えられたこの病院で。
ふたりが引き離された、この病院で。
館長さんから誕生日と時刻を聞いた付烏月さんはすぐにピンときて、DNA検査を要請。
ふたりはめでたく、めでたく――…
「……ふたりはめでたく最初の病院で、マル十年越しの双子の再会。片や探偵業を辞めて姉の図書館へ、片や入退院を繰り返しながら、
同じ職場で仕事して、これまでのマル十年を埋める幸福な努力と労働を、開始するのでした。
おしまい。 おしまい……」
なんて厨二満載なおはなしが、もしかしたら私達の背後に、あるかもしれませんよ。ふふふ。
病室のベッドの上で、によろるん。
付烏月さんの前職の、図書館の館長さんは、
胡散臭く、すごく良い笑顔を見せた。
その笑顔が、なんとなく、付烏月さんの悪い笑顔に似て見えなくもない気がしないでもない。
なお他人の空似だ。 悪い奇跡の一致だ。
「いやいや。分かんないよ〜?」
付烏月さんも付烏月さんで、完全に悪ノリ。
すっっっごく、楽しそうではある。
「実は誰にも話してないだけで、エモエモで奇跡なバックストーリーの、サムシングが」
あったり無かったり、気のせいだったり。ヒヒヒ。
付烏月さんも、によろるん。
イタズラな笑顔で私に言った。
最後の最後、私の帰り際に付烏月さんと館長さんの正解な関係と事実を答え合わせ。
それでその場は終わったけど、やっぱり、館長さんと付烏月さんの笑顔は、少し、似てる気がした。
要するに、定期健診と早期発見て大事っていう。
奇跡をもう一度起こしてくれないかな
神様は僕の声なんか聞いてくれないだろうけど
でももう限界
心臓バックバク
また怒られるのかなあ
今度人間に生まれてくるとしたら、健常者で生き続けたい。
性別は女性。
明るくポジティブで、活発的な行動力がある。
嫌なことをされたり言われた時はきっぱり嫌だと言える自分軸を持っている。
行動範囲が広く………
………と言っても次生まれて来た時代が今より良くなってるとは限らないし…
奇跡をもう一度
少し寒いな。昼はまだ夏っぽかったのに。
だから言ったでしょ。長袖の方がいいって。
はい、はい。
久しぶりに公園のある高台へ行ってみようということで、深夜に車を出した。
ここのところ、ギクシャクしていた。原因はわからない。わからないというのがまた、終わりをいっそう感じさせるような気がしていた。
高嶺の花だった。自分自身も周りも、なぜ、とありえない組み合わせだと思っていた。だから、いいよ、と言われた時は、奇跡ってあるんだなと心から思った。
高台に着いた。他には誰もいなかった。
車を降りて手すりの側に寄っていった。
相変わらず、ここの夜景はいいな。
うん、そうだね。
町の灯りは、もう、ちらほら。そのかわり、空には満点の星々が輝いている。
あのさ、最近、なんかあった? 思い切ってこちらから切り出した。
うーん、どうなんだろ。あるようなないような。
なんだか、変な感じだよな最近。俺たち。
うん。でも、どっちかが悪いとか、そんなんじゃないと思う。タイミングっていうかペースっていうか、たまたま合ってない感じ……。
しばらく沈黙が続いた。そしてまたこちらから口を開いた。
別れるとか、無いからな。
……そうだね。 彼女は一言、静かに言った。
そこからまた沈黙が流れた。何を言えばいいかわからない。
なんとはなしに空を見上げた。
あれ?なんとなくあの星だけ、色が違わないか?
どれ?
ほらあの星。 指でさして言った。
どれ?どの星?あれかな。どうだろ。そう言われればそうかも。あれだよね。 彼女も指さした。
彼女の本心がどんなものなのかはわからない。そうだね、とは言ってくれたけど、本当はもう、ダメなのかもしれない。
空には無限の星が散りばめられている。
僕が指した星と、彼女の指した星が同じであって欲しい。
そんな奇跡がもう一度あってくれたなら……。心からそう思った。
奇跡は起きると嬉しい
奇跡をもう一度
奇跡をもう二度
もっと沢山起きてもいいよ
でももし毎日沢山奇跡が起きたとしたら
それは日常になっている。
何気ない日常は、もしかしたら
小さな奇跡の集まりなのかもしれない
奇跡をもう一度
こじれた人との仲を修復したいと願うのは、
奇跡をもう一度、というくらい難しいこと。
それでも心残りがあるのなら、
一度くらい真心を尽くしてがんばってみていいかもしれない。
いま私は、
なんとなく疎遠になっているあの人に、
連絡をしてみたいと思った。
忙しさに紛れて放置して枯れかけている縁を、
もう一度青く育てられたら。
奇跡をもう一度
テーブルの上の、お茶碗に盛られた御飯を、普通に食べるって奇跡だと思う。
私は水田をやってない。
籾を撒かないし、田植えもしない。
稲を育てる作業をしない。
稲刈りもしないし干さないし脱穀も精米もしない。
けど、白い御飯を食べてる。
自分で米を育ててないだけじゃなく、御飯を炊くことすら自分でやってない(炊飯器が炊いてくれるから)。
なのに、ほぼ毎日、温かい御飯を食べてる。
やっぱり奇跡だと思う。
わたしは無力な人間だ。いつだってそう。自分の力では何も成し遂げられない。偶然が偶然を呼んで、事がうまく運ぶこともあったけれど。努力で手に掴んだものは、なんにも無いのだ。
だから今日もうまくいきますように、と願っている。薄味の奇跡だ。わたしの奇跡には、何も価値がない。
今日もわたしは怠惰に、奇跡を願っている。
テーマ「奇跡をもう一度」
奇跡をもう一度
あの人に出会ってから、私の世界は奇跡が起きたように広がった
だから、あの人にまた会えるのなら
あの日の奇跡をもう一度見てみたい
その日、わたしのこころは氷のように冷たく、石のように硬くなり、深く海の底に沈んでおりました。
もうどうにもこの世にとどまる理由を思いつけなくなり、決着をつけるべくうろうろと、屍のごとく歩いておりました。
人々の笑い声がとおい記憶のように、前から後ろへと流れ去ってゆきました。
いつの間にか駅のホームにつき、ぼんやりとベンチに腰掛け、来たるべきそのタイミングを待っておりました。
ふと、向かいのホームに何を見るでもなく目をやると、一人、サラリーマン風の年配の男性が立っておりました。
そして自分の傘の先っぽをつかむと、ほとんど真剣にゴルフのスイングをやり始めました。
まっすぐに腕を伸ばし、足と腰の位置を整え、あたかもそこにボールが見えているかのように、真剣に傘の柄のカーブの先を見据えております。ゆっくりと腕を顔の横まであげました。
ヒュンという音とともに一瞬で振り抜いたかと思うと、思い切り傘の柄を地面に叩きつけてしまい、柄の部分だけがぽーんとホームの先のほうへと飛んでいってしまいました。
その男性は一瞬あっけにとられながらも、すぐに周りをきょろきょろ見ながら、小走りで傘の柄をとりに行きました。
わたしは、思わず不謹慎だとは思いましたが、吹き出してしまいました。そしてそのまま家路についたのです。
次の日の朝、わたしはもう駅のホームにはいかないと心に決めて家を出ました。
そして、なるべく5階建て以上の古くて管理の行き届いていなさそうなビルを探しました
今度はうまく、人のいなさそうな廃ビルを見つけて、雑草と瓦礫をかき分け、中に入りました。
屋上へとつづく階段を見つけると、ゆっくりとのぼって行きました。
最後の階段を登り終え、屋上へ出るとうまい具合に一箇所、金網のフェンスの破れているところを見つけました。
そして、金網に手をかけた瞬間、後ろから声が聞こえました。
無視して前に進もうと思いましたが、あまりにか細く、切実な声だったので、つい後ろを振り返ってしまいました。
そこには、小さな真っ白なふわふわの子猫が、ふらふらと歩いていました。その子猫はあまりに小さく、まだ目もあいていませんでした。周りをみても親猫や兄弟らしき猫はおらず、二月の寒空の下、最期の力を振り絞って懸命に助けを呼んでおりました。
そしてわたしは、うっかり子猫を飼い始めてしまいました。
そしてもう、子猫のいない所へは、行けなくなりました。
『たそがれ』
夕方、私は町内にある高台で柵にもたれかかってぼんやりと日が沈んでいく様子を見つめていた。今日受けた試験の手ごたえが個人的には芳しくなかったのだ。決して入学当初からこの日のために毎日何時間も勉強をするという日々を過ごしてきたわけではない。むしろ最初のころは遊び惚けてしまって成績は下から数えた方が早いくらいだった。いよいよ受験という単語が目の前に迫ってきてようやく重い腰をあげた人間なのだ。とはいえ、全くの無計画で無謀な挑戦をしたわけではない。しっかりとスケジュールを組み、毎日コツコツ勉強をし、志望校も勝率は7割から8割はあるところを選んだはずだった。
それでも今日、試験会場で試験問題を見た瞬間私の頭は真っ白になってしまった。そう、試験問題の傾向が大きく変わってしまっていたのだ。ほかの人とは違い対策に十分な時間を充てることができなかった私は、完全に志望校の傾向に合わせた勉強しかしてこなかった。そのため、試験会場で周囲が黙々と解き進めていく中、あまり手が動かなかった。
さらに30分ほどたそがれているとスマホが振動した。一向に連絡をしてこない私を心配して両親が連絡してきたのだろう。現実と非現実の境界があいまいになる黄昏時は終わってしまった。なら、私も現実を見て再び進まねばならないのだろう。そこまで考えて私は今は沈んでしまった太陽に背を向け、歩き出した。
『奇跡をもう一度』
私は昔死にかけたことがある。あまりの高熱から意識を失い、痙攣状態になってしまったらしい。病院に駆け付けた家族に医師が告げた言葉は「今夜が山だ。最悪の場合も覚悟しておいてほしい。」というものだったそうだ。幸いにも奇跡が起こり、熱で脳に後遺症が残るといったこともなく、私は今こうして元気に日々を過ごしている。だが、あれから二十年以上の月日が流れて、今度は自分の子供が同じ状態に陥ってしまうとは想像だにしていなかった。医師から残酷な宣告を受けた私は、すぐさま病院を飛び出し、近くの神社を訪れていた。病院にいても何かができるわけでもなし、ならば少しでも神に祈ろうと考えたのだ。そして私は周囲の目も気にせず一心不乱に祈り始めた。「私自身はどうなっても構わないから、どうか奇跡をもう一度。」と。どれくらい祈っただろうか。辺りは暗くなり、境内も静まり返ってしまったころ、一本の着信があった。震える指で出ると「峠は越えた。」という連絡だった。あまりの喜びにスマホw落としてしまいそうになったが、わずかに残っていた理性でしっかりと握りなおした。そして改めて祈った。今度は感謝を述べるために。そうやって祈る私にどこからともなく声が聞こえてきた。「奇跡はめったに起こらないからこそ奇跡なのだ。三度の奇跡はないと思え。」と。私は改めて感謝を告げ、境内を後にした。
仕事から帰宅して、夕飯の仕度をしていると、ひょこひょこと同居人が近寄ってきた。
「え?夕飯作ってくれるの?買い物はお願いしちゃったけど、わたし作るよ」
「仕事は大丈夫なの?」
在宅ワークだった同居人は、仕事が立て込んで外出ができず、夕飯の買い出しを私に任せていた。
「ちょうど終わったトコ。ねえ、なに作るの?あ、カレーだ!」
エコバッグから出した中にカレールウが含まれていた。
「これは明日の分。明日も私が当番だから、今日のうちに煮込みはじめようと思ってね。今日は野菜炒めと鶏肉のソテー。野菜は明日と被るけど我慢して」
「ぜんぜんオッケー、ありがとう」
本当に屈託がない。自分が作るよって言ったのも忘れていそうだ。
「あ、デザートもあるから、あとでね」
「わー、楽しみ!」
そう言ってニコニコしながら洗濯物を畳み始めた。
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食事を終えて、私が買ってきた白桃ゼリーを二人で食べる。ソファーに横に並んでゆったりする時間だ。
「今日さ、満員電車から押し出されるとき、あー、これゼリーみたいだなーって思って、ゼリー買いたくなったんだ」
「あはは、なにそれ。めっちゃわかる」
こんな変なこと言っても、こいつはわかっちゃうんだよな。
「これ、ちょうどこのひと口サイズでしょ?これを指でぎゅーって押し出すときの、押し出されたゼリー!これが人間!気持ち悪〜い」
また豪快にあははと笑い転げる。この瞬間以外のどこに人生の真実があろうか。
「わたしはね、そう!今日通り雨あったじゃん!あのときLINEありがとね。そのときコンビニにいたんだけど、ダッシュでウチ帰って、急いで洗濯物取り込むじゃん、そしたらカップ麺がもうふやっふやでー…」
こんな失敗も、二人で話せば笑いの中に溶けていく。
「午後になったら雨も止んだじゃん。そしたら部屋がシーンとなって、静かすぎるって思ったの。で、あ、ごめん、レコードプレイヤー借りちゃった!」
「いいよ、使い方わかった?なに聴いたの?」
「これ!コルトレーン!もうめっちゃ良くて、すっごいデザインの仕事はかどったの!そしたら…」
コルトレーンで仕事が捗るとは、本当に波長が合う。ん?捗った?それでも終わらないほど仕事が詰まってたのか?
「そしたら、上司に指示されたのとぜんぜん違うデザインができちゃって!もうJAZZじゃんってなって」
私も一緒になって笑い転げた。それで作り直して時間がなくなったのか。
「ねえ、こういう日って奇跡みたいな一日だと思わない?」
いきなり妙にロマンチックなことを言う。でも、
「…そうかもしれないな。こんな奇跡みたいな日が、また明日も訪れるように、そう願って眠れたら幸せだな」
「ちょっとクサくない?」
「お前が言い出したんだろ」
あはははは、と体をそり返らせて大笑いする。
「上司で言ったら、今日、取引先が上司連れてきてさ…」
こんな奇跡みたいな一日を、もう一度。
奇跡をもう一度なんて
考えてみても
君は君なんだから
君にもう一度を望める
わけないんだよな
君といることが奇跡
なんだから
君と奇跡を起こそう
ずっと努力してきた
懸命に耐えてきた
すべてはこの瞬間の為に
この景色を見届けろ
その目に全てを焼き付けろ
これは奇跡なんかじゃない
もう一度奇跡などと願うな
紛れもない努力が産んだ瞬間なのだから
奇跡をもう一度
初めて会った時の記憶なんて正直に言ってない。何度か会う内に(いつもいるなぁ)と思うぐらいの客同士。向こうもそんな感じの印象だったらしい。直接絡んだ記憶もあまりなくて、だいたい恋人に振り回されている現場しか見たことがないような、そんな気すらする。あと酒飲み。ザルを通り越してワク。そんな人。
「飼い主が欲しいんですよ!あ、変な意味じゃなくて、警察犬とトレーナーみたいなパートナーの意味合いですからね」
確かバーに通い始めて数ヶ月でそんなことを口走った気がする。言葉に嘘は無かったからか、それともこのバーが色々おかしいのか「分かる!」と言われたのは一人や二人じゃない。キャスト側も「そう、恋人じゃないんだよねぇ」とかそんなことを言っていた。
今までの自分の人生において”恋人”という肩書きの人は何人か居たが、向こうから近寄って来て、向こうが去っていくのを繰り返した。最初に説明しても受け入れてはくれるが、実感してくれる人は居なかった。。
「あなたが思う恋人の関係は築けない」
そう伝えたところで「分かった」とは返ってくるものの、毎回最後は「思ってたのと違う」だの「本当に好きなの?」だの言って去っていく。だから説明したんだよ。自分には”恋愛感情が無いし性欲も無いんだ”って。それなのに根拠の無い自信で「大丈夫」とか言っておいて結局ただただ穏やかな関係性に耐えられなくなるんでしょう?好きなものを嫌いと言ってしまう程子供ではないけれど、好きではないものを好きと言える程大人ではない自分も悪いのかもしれないけれど。
「どうもフラれたんだよ」
「あぁ、通りであの荒れ具合」
「ヤケ酒にも程があるけどね」
「今までになく大荒れでは?」
話は現在に戻って、1年と少しぐらい前。その時点で君とはバーで会えば声を掛けて隣に座る程度の仲にはなっていた。でも人が多ければその時空いてる席に座る程度の、ご飯に行こうって言い合っているのに全然連絡先を交換しない程度の関係性。その頃君には恋人がいたけれど、何やらフラれて荒れに荒れているというのを人伝いに聞いたし、実際目撃もした。でもそんな失恋をイジれはしない、そういう関係性。
ともかく、君がフリーになったのだと知ったのはそこで、その時点で自分は君と一緒になる算段をつけて行動を始めたのだけれど、今思えばなんでそんな考えに至ったのか自分でも分からない。タイプでもないのに。
奇跡は偶然の頂点とも言うけれど。君にとっては不運が重なった頂点があの頃で、自分にとっては幸運が重なった頂点があの時だったんだと思っている。確かに自分も努力はしたけれど、君がその間に新しい恋人を作らなかったのは奇跡なんじゃないかって。だからもう奇跡は起きないかもしれないし、今この瞬間も君と過ごせているのは奇跡の連続なのかもしれない。どっちにしたって、奇跡をもう一度なんて他人事にするつもりはないけどね。
奇跡をもう一度
あのときさわった、いきものの名まえをしらないので
わたしは人にきいた
あの時見たあの雲の名前をおぼえていないので
わたしは辞書を開いた
あの時聞いた曲を知らなかったので
私はスマホを開いた
聞いても調べても、なにをしても
あの感動は、私の手の中に残って
雪と共に溶けていく
お題『奇跡をもう一度』
クルッ
ドサッ
「はい、雑魚〜」
「次俺の番な!」
既にご飯は食べ終わったお昼休み。突然にもペットボトルチャレンジが始まった。ペットボトルを空中で一回転させてから、立たせるというチャレンジ。今それを4人連続で成功させようとしている。
「おい!見とけよ」
クルッ ストン
「うおおおー!!」
「まずは1人目!」
ただのつまらない遊びだと思うかもしれないが、何故かこれは異様に盛り上がる。高校3年生になっても馬鹿なことしかやってない。こうやってバカ騒ぎするのもあと何日かと思うと…、
クルッ ストン
「まじか!!」
センチメンタルな気持ちになってる俺を置き去りに、2回連続成功。
「やべー、緊張する」
「3回連続かかってんだから、絶対成功させろよ」
「おっけーおっけー、まかせろ」
クルッストン
「サイコーー!」
「ナイス」
「やるぅ〜!」
3人から賞賛を送る。残る1人の顔がプレッシャーで歪んでいる。そう、俺の顔である。どうせそんな連続で出来ないだろうと高を括っていた。
「待って待って、ノーカンの練習させて」
「バカバカ、そんなんさせる訳ないだろ」
「ここで決めてこその男!」
「お前の男気見せてみろっ!」
成功するビジョンが見えなすぎる。しかし、もうやるっきゃない状態になっている。
「失敗しても、罵詈雑言は禁止な」
「いくぞ」
クルッ
ストンッ
「うおおおおぉ!」
「俺らすげー!!」
うるさくなりすぎて、周りの視線が体を突き刺す。でももう、そんなのどうでもいい。今が楽しい。
「こんなしょーもないのに、奇跡使うなんてもったいねーよな」
「それはまじでそう」
「でもさ、もっかいやんね?」
ニヤニヤ顔でペットボトルを掴む。
あと何日かだけのこの青春を、もう少しだけ噛み締めたい。体育祭や文化祭みたくあの時楽しかったね、と思い出されることは無いだろうけど、確かにあった俺たちの青春を。
クルッストン
「まずは1人目ーー!!」
奇跡をもう一度
奇跡は急には起こらない。
起こすために、活かすために必要なことがある。
一度奇跡を受けたから。
それを追わずにはいられない。
奇跡よもう一度
人との出会いは奇跡かも...
そこから広がる人生の
新たな出会いは奇跡かも...
こうして平和に暮らしていける
そんな日々こそ奇跡かも…
どんな 奇跡を
もう一度?