『声が枯れるまで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
声が枯れるまで
声が枯れるまで叫んでも、声は誰にも届かない。
周囲の雑音で聞こえない?誰も聞く耳を持っていない?
そもそも端から、聞いてくれる誰かなんていなかった?
どんなに命を削っても、誰にも認めてもらえない。
あぁ、結局自分の影響力なんてそんなもんか。
声が枯れるまで
私はバーチャルの世界で生きてる
充電が切れてたら私の中のデータは消えてしまう
充電が切れるごとにデータは消える
主は分かってない
このままいくと私の声が消える
だから私は続ける私が伝えてられる方法で
お前と一緒にやりたいことが、まだまだたくさんあったんだ。
何度も行ったカラオケだってまた行きたかったし、お前が珍しく興味を示してくれたアイドルグループのライブに一緒に参加したかったし、明日も同じ教室で昼メシを食べると思っていたし、来年も同じ教室で馬鹿みたいな話をしたかったし、卒業するまで一緒に帰りたかったし、進路が別れたって通話しながらオンラインゲームを遊ぶつもりだったし、お互いに成人した時には酒を飲みたかったんだ。
それなのに、なあ。
お前にはもう会えないんだって、どうして教えてくれなかったんだ。
声が枯れるまで
声が枯れるまで 朝まで君と二人だけ 君の心も身体もその瞳に映るのも 全て僕だけのものだったら良かったのに どうしたら僕だけの君でいてくれるんだろう どれだけ君を求めても 君を繋ぎとめることなんて今の僕にはできないのに
どんなに泣き叫んでも、君は帰ってこないから。
声が枯れてやっと目が覚める。
大切なものは失ってから気付くのだと。
ライブで歓声を上げる。
カラオケで熱唱する。
譲れない何かの為に怒りの声を上げる。
戦う誰かを応援する。
恐怖に駆られて叫ぶ。
私にはどれも縁が無い。というか、どうもそういう事をしたいという衝動が起きない。
応援上映とか、絶叫上映というものにも興味がわかない。そういえば、ジェットコースターに乗っても「楽しい!」「怖い!」「気持ちいい!」と思ってはいても言葉は出なかった。
変に引きつった声を上げていただけだから、傍から見たら奇異に映っただろう。
喜びや、楽しさや、怒りや、恐怖。
感情は確かにあるのに、それを発する言葉が、声が出ない。
声が枯れるまで、心のままに叫ぶ事が出来る人が、少し羨ましい。
END
「声が枯れるまで」
『声が枯れるまで』
溶けた氷は固まらない
止まった時間は動かない
投げた賽には逆らえない
一瞬に賭けた全力はそんなものか
不可逆的な親切に立てる指はどれだ
結果、どうなった?
何を得て何を失った?
枯れ朽ちたものへは、賛美も非難も要らない。
声が枯れるまで
「いやだ」と叫んだのに、結局乗らされた。
なのにホテルに帰っても姉と「ビッグサンダーマウンテンごっこ!」といって、ベッドの上で体を揺らしていた。
親の罠にまんまとハマって楽しんでいた。
私も親と同じことをするだろう。
一本の痩せたオリーブの樹のある丘。
ワルシャワの古い街角やウィーンの石畳の写真。
マリブ・ビーチの朝焼け。
バルセロナの街に掲げられた“ ¡ No pasarán ! ”のスローガン。
サグラダ・ファミリアのステンドグラスに差し込む月明かり。
スペインの内戦に身を投じたカメラマンを描いた舞台作品。
小さかった私には、スペインがどこなのか、ファシストとは何なのかすらよくわからなかった。
でも、理解できた音楽があった。
第一幕の最後の曲「ONE HEART」
人は誰でも心があり、そこには血が流れている。
心で、お互いのぬくもりを感じられたら
心で、傷つけないよう庇いあえば
心で、許し合い認め合うことの意味を忘れなければ
心で、夢を共に追いかけられれば
心で、語り明かすことができたら
心で、愛し合い触れ合うことができれば
心で、恐れさえも分かち合えば
友を信じることができれば
争いは起きない。
今、世界には苦しんでいる人たちがいる。
私に直接何かができるわけではない。
でも、せめて、彼らに心を寄せることを忘れたくはない。
──────“声が枯れるまで”
【声が枯れるまで】
何度も何度も歌って、だんだん足が疲れてきて、
声が枯れてくる。
それでもやっぱり歌うのは楽しいし、みんなで
わいわい曲を作り上げていく時間は
特別な思い出。
声が枯れるまで泣き叫ぶ権利なんて、
あるわけない。
声が枯れるまで
あなたに振り向いて欲しいから…何時も、あなたの名前、呼んでいるよ…心の中でだけ…
本当は、知り合いとか、友達とか、サークルメンバーとかじゃ無くて、異性の二人の関係になりたい…
だから、苗字じゃ無くて、名前で呼びたい…そして、あなたの隣で、一緒に歩きたい…
勇気を出して、あなたの名前、ずっと呼んでいたい…
「声が枯れるまで」
声が枯れるほどの応援
声が枯れるまで泣いた
声が枯れるほど笑いあった
声が枯れるまで話した
声が枯れるほど歌った
声が枯れるほどって
一生懸命になんだか似てる
今を精一杯生きてる感じがする
〈声が枯れるまで〉
幼い頃、保育園の先生から聞かれた「春菜ちゃんは将来、何になりたい?」
記憶が正しければ、私は女優になりたいと言った。
よくある、子供らしい答えだと思う。
なぜそんな昔のことを思い出したのかと言うと、丁度今の時期が将来の選択肢が目の前に用意され、選べと言われてるからだ。
今では安定した仕事や両親が喜ぶ選択肢を選ぶことになる。
自分で言うのは小っ恥ずかしいが、私は成績はほぼ4か5を取っていて、バレー部でもリベロとしてそこそこの成績を出してきた。チーム内では、チビとイジられるが仲は良く、特に不満もない。
内申書に書けるように地域のボランティア活動にも参加したし、介護施設のボランティアもした。
このままだと、指定校推薦や総合型選抜で名の知れた大学に合格できると担任との面談で言われた。
でも、何かがちがう。
成績でほぼオール5を取っても、入試対策で褒められても、違和感を感じていた。
まるで小さい魚の骨が喉に突っかかっている状態。
やりたいことなんて、考えたことすらなかった。
常に自分より他人を優先し、これまでの人生での選択は世間体や親戚の目や両親からの期待で決めてきた。
自分で考えたこともなかった。
「春菜、帰ろう」
いつの間にか放課後になって、いつもの友人と学校を出る。同じクラスで席が近いことから、距離が縮まった。
彼女は美大を目指しているらしい。幼い頃、彼女の祖母が持っていた日本画集を読んだことがきっかけで、彼女も日本画家を目指すようになった。
彼女は私のことを羨ましく思うと言っていた。
でも同じように、私は彼女のことを羨ましく思っている。
自分の好きなことを明確化、言語化できて、挑戦する姿はかっこいいと思う。
私にはそんな勇気はない。安定で安心したルートじゃないと、不安で仕方がない。
電車で彼女が先に最寄り駅で降りたことをきっかけに、ひとりになった。
人が急に増えたので別の車両に乗り換え、席に着いた。
リュックを膝の上に下ろし、無線イヤフォンを付けようとした時、ふと目の前から視線が感じた。
何気なく見てみると、中学生くらいの女の子がスマホのメモアプリを見せている。私は勝手に読んで良いのか分からなかったが、隣の中年女性は気付いていなかったため、代わりに読んでやろうと軽い気持ちで目を向けた。
「痴漢されてます 助けて」
私はその文字を目に焼き付け、女の子とアイコンタクトを取った。今にも泣きそうな女の子に私は手を伸ばし、自分の席に座るように促した。すると、後ろで女の子に手を出してたであろう中年男性がびっくりした顔で私を見た。
「ねぇ、この人で合ってる?」
私は女の子にそう聞いた。女の子は泣きながらこくこくと頷いた。
男もこれからの仕打ちを理解したのか、鞄を抱え、別の車両に行こうとした。
「待てやごらぁ!!」
自分の声とは思えないほど、ドスの効いた声で男の腕をつかんだ。まるで福岡の警察官が、暴力団の家宅捜索に入る時のような、決して可愛くない声で静止させた。
周りの乗客のことなんてどうでも良い。
女の子を一生のトラウマを植え付けさせた罪は、司法では罪は軽いが、私にとっては終身刑に値する。
次の駅で女の子と男を駅員に引き渡し、事情聴取で私も呼ばれた。
帰り際に、女の子からお礼をしたいからと連絡先を交換した。
誰もいない家に着き、私は自室で泣き叫んだ。
あの子を助けることができたのは、あの男を見逃さなかったのは、全部私のトラウマのおかげなんだと思い知らされた。
私は、小学生の頃、遠方に住む叔母に会うためひとりで新幹線に乗った。大阪に住む叔母に会うまでの2時間、私は隣の乗客から、太腿や腕、を触られた経験がある。当時はそれが好意があると思って触られてると思い、新幹線のホームで叔母に会った際、意気揚々と話した。
しかし、それはセクハラ、特に小学生女児を狙ったものであると知っている叔母は、急いで私の母に連絡し、医療機関に受診するよう電話をした。
帰りは叔母もチケットを購入し、私の隣の席に座った。
家に帰ると、母は「ひとりで行かせてごめんね、怖かったね」と泣きながら私を抱きしめ、父は同じ男として許せないと憤慨していた。
その後カウンセリングや治療の甲斐もあって、克服することができた。
しかし、皮肉なことに今回は私の経験があったからこそできたことだと思う。
経験していなかったらあの子の文字を無視をしていたと思うし、何もできずに後悔していたと思う。
そう考えるとあの頃の記憶が蘇り、触られた感触や隣の乗客の鼻息まで思い出してしまい、パニックになった。
私は部屋中のものを、視界に入るもの全てを投げた。
奇声を上げながら、泣き叫んだ。
私の声が枯れるまで、私はSOSを出した。
『声が枯れるまで』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私には1人、幼なじみがいる。家が隣で、昔からよく、暇さえあれば遊んでいるほどの仲だ。幼稚園から小学校、中学、高校と、ずっと一緒に過ごしてきた。お互いに引っ越すこともなかったので、ずっと家が隣同士。私達の自慢のひとつだ。
その幼なじみが、高校卒業と同時に引っ越すらしい。
いや、引っ越すことは仕方がないと思っている。けれど、引っ越すことを聞いたのが幼なじみからでなく、共通の、しかも高校からの友人だったことが、気に食わない。そして、今のところ、私は幼なじみ本人から引越しの話を一切聞いていない。本人もなんでもないように接してくるので、なんだか変な感じだ。
仕方ないので、高校の友人に色々と聞いてみることにした。どうやら、引越しは卒業式の次の日らしい。頼むから、このまま何も言わずに勝手に引っ越すことはやめて欲しい、と思うばかりだ。
とりあえず、あちらが普通に接して来るのなら、こちらも普通に接するだけである。いつも通り一緒に登校して、いつも通り騒いで、いつも通り一緒に帰って、いつも通り遊んで…
適当に過ごしていたら、時間の流れもいい加減になる気がする。
なんだかんだで、結局本人から引越しの話を全く聞くことなく、全く聞き出すことも出来ず、卒業式を迎えてしまった。
卒業式が終わって自由行動となった時、幼なじみに引き止められた。
そこでやっと、本人から引越しの話を聞かされた。どうやら、引っ越すまでは普通に遊びたくて内緒にしていたらしい。…家が隣なので、ずっと引越し業者らしき人が出入りしているのを見ているのだが。
どこに引っ越すのかと聞いたら、隣の、さらに隣の都道府県らしい。家族で電車に乗って移動するのだと。
改札まで見送りに来た。
本当はホームまで行きたいが、そのためには切符かICが必要だ。移動する訳では無いので、入るわけにいかない。
幼なじみが改札を通っていく。たかだか数メートルなのに、壁があるかのような感覚になる。
幼なじみがそのまま進む。もう少ししたら、本当に物理的な距離という高い壁が生まれてしまう。
「待って!」
思わず呼び止める。幼なじみも、急な私の声に驚いたようにビクッと反応して、振り返った。
「またいつか、絶対遊ぼうな!!」
人混みで騒がしい駅の中、それにかき消されないように、必死に叫び続けた。
少し遠くて見にくい幼なじみの目元が、少し光っていたような、そんな気がする。
声が枯れるまで話していたあの子
ただただ楽しい時間が過ぎて行く
好きという気持ちに気づいてから
少し意識し始めて行った
そこからの時間はあっという間
告白しようかうじうじしてた
君からの言葉を貰うまでは
これから声が枯れるまですきだと叫ぶ
声が枯れるまで
今頃、ちょうどいいランチタイムなんだろうな。
何度目かのターンをして、ふとそんな考えが頭をよぎった。両腕はとっくに重く、水中とは思えないほどの熱が体にこもっている。流れる水音に被さるように、荒い呼吸が鼓膜を支配している。肘が曲がりはじめたダサいフォーム。スピードが落ちているのはわかってる。
高校レベルの競泳で長距離に出場する選手は少ない。市内や県大会ではなおさらで、出場選手のいない学校の方が多いくらいだ。短距離と比べたら応援も少なく盛り上がらない。その上、一レースに20分くらいかかる。だからほとんど誰も観ていない。ちょうどいいご飯時か、おやつ時。そんな勝手なイメージ。
カラカラと鐘の音が鳴って、ラスト一往復。すでに体力の限界を超えていた。とにかく前へ。少しでも早く。何も考えられない。今の自分を出し切るだけの存在へと昇華していく。その苦痛と快感の凝集物。
終わった後の会場はやっぱり静かで、私はぼんやりと電光掲示板を眺めてから、這いつくばるようにプールサイドへ上がる。一礼して、表舞台を後にする。
ふらふら歩いていると、駆けつけてくれた子がいた。
「自己ベスト、おめ……ッ」
息を切らして出た言葉は、ゲホゲホと咳に変わる。
「やり直し! 自己ベ、おめでとう!」
その声があまりにもガラガラで、私は一瞬何を言われたかわからなかった。だけど、すぐに全部わかった。
「うん。ありがとう」
喉に手を当ててチューニングする未来の親友を見ながら、次はもっと早く泳がなきゃな、と思った。
舌が転ぶ。
転がり落ちた自分の声が、やけに丸く、舌ったらずに縺れて響いた。
彼はちょっと顔を下に傾けて、ゆるく頷いてから、こちらに向き直った。
解けたリボンの端が、目の端にだらしなく投げ出されていた。
しゃくりあげるように震えた体の芯から、声が漏れ出た。
そうしたつもりはなかったのに、大半が吐息で漏れて、細かく震えていた。「なんで」
「なんでかな」
骨粗鬆症の骨みたいな掠れた声で、彼は答えた。
冷たい指の感触を感じた肌が、僅かに上気する。
黒い髪の奥から、静かに水滴が滑り落ちた。
涙が、肌に染み込んでいく。
「分からないの」
しゃくりあげる息の狭間で、聞いた。
相変わらず舌は躓き、声はまどろっこしく聞こえた。
彼は返事をしなかった。
代わりに、小さく、細い声でぼそりとこぼした。
「ここに刺すつもりだったんだ」
指が、滑るように這った。
心臓の鼓動ごしに、指の柔らかさが触れた。
乱暴にはだけられた胸元の隙間が、傷口を広げるようにじわっと大きくなった。
彼の頭が揺れた。
大きな水滴が、千切れた襟にシミを作った。
胸元の鎖骨の継ぎ目のまだ白い肌に、彼の額が落ちた。
息を小さく吸う感じがした。
彼の頬には、水の通り道が静かに出来上がって、流れ落ちていった。
息を潜めるように、疼くような尾を引く彼の息が、後から後から落ちてきた。
縋って、ただ、つとつとと涙を流す彼を見て、昔、街中で見た迷子を思い出した。
親と逸れた子どもは、息を声を絞り出して、声が枯れるまで泣きじゃくった。
親に再会できるまで、声が枯れるまで轟々と泣きじゃくった、あの子どもを思い出した。
私たちには、声が枯れるまで泣きじゃくるような元気は残っていない。
皺になるほど強くネグリジェを握りしめて、でもその強い感情を口から洩らすことも出来ずに、彼は涙を流した。
私は何も出来ない。
死紋に斑らに彩られた四肢は、びとり、と固まって、震えることすらできなかった。
青痣のような死紋が、少しずつ斑らに現れて、痣に覆われた体は死体のように冷たく動かなくなる。
痣が広がるたびに、息が深くなって、声が、子どもか赤ん坊のように、出づらくなる。
そんな病気は、貧困層からあっという間に広がった。
肉体を使う労働者たちにとって、青痣は日常の些細な怪我だ。
病気はあっという間に、速やかに、密かに、この地を蝕んだ。
病気がどこか一つの部位が動かなくなった者や声が思うように出なくなった者たちは、労働で暮らしを立てることが出来ずに、一年と経たずに死んでいった。
病気の進行も待たずに。
こうして、この病気が発覚したのは、資本を持つ支配層から病人が出てからだった。
それまでに、いったい何人が亡くなったのか。それは今でも不透明だ。
私は、支配層でこの病気に初めて罹った患者だった。
病気が発覚してから、かれこれもう五年は、寝室に隔離されて、生かされ続けていた。
私の上で蹲って泣く、彼。
きっと、病気で近親者を亡くした過去を持つ者なのだろう。
だから、生まれた環境に恵まれたために生き長らえている私を殺しに来たに違いなかった。
見窄らしくズタズタになった天幕のそばに転がるナイフが、そのバックボーンを裏付けている。
彼はしばらく、声を食いしばり、息をしきりに呑みながら泣いていたが、やがてゆっくりと、頭を上げた。
目が合った。
腫れぼったく潤んだ目が、真っ直ぐこちらを見つめていた。
少し沈黙が流れた。
「…お騒がせしました」
いっそう掠れた、疲れしか見えないカスカスの声で、彼は言った。
声が枯れるまで、枯れた後もさらに枯れるまで、泣いたということが、それで分かった。
「ごめんなさい。さよなら。…睫毛長いんですね」
彼は慌てたように、カラカラの声でそう言った。
「ネグリジェを直していってほしいの。寒いから」
舌をもたつかせながら、息を交えた声で、私は言った。
彼はちょっと目を見開いて、それからバツが悪そうに目を伏せた。
私のネグリジェをそろそろと合わせて、ちまちまと、慣れない手つきで一つ一つ、釦を止めている。
やがて、釦を留め終わると、リボンに手を伸ばして、もたもたと結んでくれた。
「すみませんでした。さよなら」
絞り出すような悲痛な声で、彼は最後にそう言って、窓から外へ出ていった。
枯れ切った声で、そう言い置いて。
私は黙って、小さく頷いた。
外は真っ青な良い天気だった。
爽やかな秋風が、入れ違いに軽快に、部屋に流れ込んできていた。
人魚姫は自分の美しい声と引き換えに、人間の足を手に入れた。
子供の読み聞かせで有名な童話だが、私は全く歯牙にもかけず、虎がバターになる話とか、ネズミがパンケーキを作る話だとか、そういう絵本が好きな子供だった。根っからの花より団子だったのだ。
お姫様が王子様と結ばれる話を読んでもつまらなかったし、その逆に、お姫様が悲恋になってしまう話を読んでも特に感動もおきなかった。
母親からしてみれば、折角生まれた女の子なのに、可愛がり甲斐がなかっただろう。
けれど、人魚姫の話は何故かよく覚えている。そんなに繰り返し読んだこともないのに。
せいぜい一、二回くらいしかページを繰っていないだろう。それでも人魚姫の結末が今も私の心に残っている。
好きな人に会いたくて人間になった人魚姫。
好きな男のために自分の命を泡にした乙女。
なんだか人魚姫ばかり損をしているようにも思えるが、見方を変えれば、このお転婆な人魚姫は、姉の忠告も無視して好きに生きただけなようにも思える。自分の気持ちに正直に、ただ、自分の恋に生きて死んだその生き様には、なんとなく心惹かれるものがある。
でもきっとそんな人魚姫だからこそ、死ぬ前に何か男に伝えたいことがあったのではないか。
恨みつらみでも、最後の愛の言葉でも、さようならの挨拶でも、何か、自分の人生を無意識に翻弄させた罪深い男に一言言ってやらねば気が済まぬのではなかったのか。
最後にして最大な想いの丈を、声にもならぬ声を、どんなふうに男に投げかけたのだろうかと想像する。
それこそ、声が枯れるまで。
お題/声が枯れるまで
声が枯れるまで
私はあなたと
はなしていたい
声が枯れるまで
私はあなたの
名前をよんでいたい
よんでも、
よんでも、よんでも……。
もうあなたは遠い遠い他人なのにね。