『力を込めて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
僕は、拳にぐっと力を込めて思い切り叫んだ
「ふざけるのも大概にしろ!!!」
彼が何をしたいのか僕は理解ができなかった。
彼がこの界隈から目を覚ますにはこの方法しかないと思った。
だから、右頬に1発かましてやった。
「力を込めて」
私は力を込めて刃を振るった。
私達は国を守るため戦争をする決意をした。
だが、敵軍には私の好きな人がいた。
どうしよう、私はあの人を殺めることは出来ない。
と思い誰かが殺めるのを待った。
でも、私と好きな人は最後まで残った、
2人で見つめ合った、殺さなければならない。
その時好きな人は言った、
「いいよ。でもこれだけは言わせて、好きだよ。」
私は泣きながら、君に思いを伝え
力を込めて刃を振った。
力を込めて、伝えてみて。
何度も何度も、縁のある人はいつか
必ず受け取ってくれるから。
【力を込めて】
全身に力を込めて俺は精一杯叫ぶ。
俺は君が好きだと。
叫んでも叫んでもでも伝わらない。
その苦しさも、悲しさも人生の一興なのだろうか。
私の体は少しずつガタが来ている
肩をやって手術して
リハビリ途中で足を痛めた
肩をやる前までは
なんでも思い切り力を込めて
引っ張れたし踏ん張れた
自分の頭は信じられなかったが
自分の体は信じていた
ところが今はあまり強くひねると
ネジがバカになるこの椅子の足のように
引っ張りすぎるとポロリと外れるんじゃないかと思う
それと同時になんだか少し大事に扱ってやろうと
思うようになった
人生はどうやら限りがある
思っていたより早くそれはやって来るかもしれない
女子大生が二人公園でトレーニングしている
とても強くて逞しい
溌剌とした笑顔を見ながら
頑張れと静かに呟いた
#力を込めて
僕は天の邪鬼な人間だ。
やるなと言われるとやりたくなる、緊迫した時ほどそうなる。
友達はそれをよく知っているので、いざというときは反対のことを言う。
今、崖っぷちで足を滑らせて宙吊りになり、僕の手に掴まっている親友はこう叫んでいる。
「頼む!手を離してくれ!力を抜いてくれ!」
彼を助けるために、一緒に奮闘してくれている周りの人達は困惑顔だが、これで正解なのだ。
僕は掴んだ手に、一層力を込める。
貴方を思ってブレスレットを組もう
ラピス オブシディアン クリスタル
貴方に合いそうな石を選んで並べてみる
ころんと転がる石が光を受けて輝いている
喜んでくれるかな・・・
貴方の幸せと笑顔を願って
ブレスレットに組んでいく
月よ
どうかあの人に渡す勇気を私にください
「力を込めて」
力を込めて
(本稿を下書きとして保管)
2024.10.7 藍
◎力を込めて
大切にしていたい。
そんな執着が手元を狂わせる。
いつもなら直ぐに組み伏せてしまえるというのに、その手はただ空を切っていた。
ひらり。
すり抜けるあの子。
この手の中にあの子が収まった瞬間。
幸せが終わる。
この手は普段と同じように動き、花のような命を手折るだろう。
終わりたくなどない。
だのに、追いかけて捕まえてしまった。
両の手が正確に白く細い急所に掛かる。
もう少しでも力を込めればぽきりと折れてしまうだろう。
そんな命の瀬戸際で愛しい獲物ははにかんだ。
何を迷う。手に入るのだよ。
キミがずっと欲しがっていたものだろう。
今更怖気づいたなど言うまいな。
暗く、黒く。全てを飲み込むが如く。
光の立ち入りを拒む瞳の輝きが細められた。
惹かれる、引き込まれる。
月が宿ったその瞳から目を離せずに、指がその細首へと食い込んだ。
その月が欲しくて堪らなかったのだ。
ずっと昔から魅せられていたのだ。
瞳が閉じられる。
そこから流れ出た雫を口に含んだ。
猫のしぐさで一番何が好き?わたしは色々ありますが、毛繕いです。うちの猫、いつまでやるん?ってくらい長々と毛繕いしてはりましたわ。短毛なんですけどね。何故そこまで力入れるん?ってくらい同じ箇所をペロペロぺろぺろ、全身くまなく毛繕いして。よく疲れないよな〜って感心して見てました。
力を込めて
君の為に頑張りたい…そう心に誓って、今日を迎えた…
今迄、何かと言い訳し乍ら、投げ出してきた…潔くでは無く、ただの、現実逃避…運や、他人の所為にしていたけれど…
何時も、目立たないけれど、支えてくれた君が、教えてくれた…
最初から、出来る人なんていない…出来ることから、積み重ねて、他人と競うのではなく、自分との闘い…その為に、あなたを応援しているからね…
結果も、大事だけれど、何よりも、君へ捧げたいから…
今もどこかで歌を聴いてくれている君へ。
電波でどこでも歌が届く時代。
天国の君は何で歌を聴くの。
もし暇してるなら耳を澄ませて。
君に歌を届けるよ。
そんなの無理って笑わないで。
いつだって君のために歌ってるの。
誰よりも大きい声で。
誰よりも通る声で。
空だって突き抜ける声で歌うよ。
どうかどこかで聴いていて。
私の一番最初のファンへ。
題:力を込めて
放つ言葉に力を込めて
「ヤダーー!!もうやりたくないー!!学校が爆破されればいいのになぁ!!そしたらやらずに済むのになぁ!!」
「君は言霊、というものを知っているかね?」
進まない問題集に文句を言う僕を見かねてか、先生はそんな問を投げかけた。
「コトダマ、ですか?ビー玉の類似品か何かで?」
どうやら僕の推測は的をはずれていたようで、先生はリズミカルに指で机を叩く。この行動をとる時、先生はだいたい不機嫌だ。
「言に霊とかいて言霊だ。かつてより日本で信じられていたものでね。言葉を声として発することで、現実の自称に影響を与える、言葉が持つ力だ。良い言葉には良いことが、悪い言葉には悪いことが起こる。」
そして先生が長い前置きをするときは、大抵その後に文句が続く。
「それで、言いたいことは?」
「問題集が終わらないだの爆破すればいいのにだの言ってそれが影響する前に、さっさと手を動かせ。」
「先生だって原稿をためて編集さんに怒られてた癖に。」
子気味よく鳴り響く破裂音。嵐のような怒号と雷のような悲鳴。あまりの騒がしさに耳を塞ぐ。
「さて、君の願った通り学校が爆破されている事だが……どう思っているのかね?」
「先生がコトダマとか言ったから本当になったんじゃないですか。」
「ああ言えばこう言う。君が大人しく課題をこなしていればテロリストに襲撃されず済んだんだよ。」
「別にテロリストとかは言ってないです。といいますか、なんで先生がここにいるんですか?」
「ここにいる友人にある本を届けに来たんだよ。君に会うつもりは無かった。今頃はカフェにでも行って優雅に紅茶でも飲むつもりだったんだ。」
「紅茶とか言ってマスターに講談でもたかるつもりだったんでしょう。」
実に愚かな現実逃避。僕が望んだのはあくまでも事故的な爆破であり、人死も建物の損壊も望んでおらず、真の望みは学校の臨時休校だったのだが。
嫌だ嫌だと言いながら学校に行けば突如教室に入ってくる黒ずくめの男たち。そこから始まる爆発カーニバル。阿鼻叫喚の中逃げ出して鉢合わせたのは頼りない作家で家庭教師の先生だったというわけで。僕も先生も特殊な家の生まれだったり秘密部隊の潜入捜査官だったりもせず、平々凡々、か弱い男の子なのでどうしようも無い。警察の到着を待つばかりであった。
そうもしている間に、悲鳴は近づいてくる。酷い硝煙と血の匂いが鼻をつく。先生の顔色も酷いもので、ただでさえ青白い顔色が死体のようになっている。
「デリカシーというものが無いのか君は。この状況で死体という言葉を言うな殴るぞ。」
「相変わらずのお口が聞けるということは元気ですね!まああと数分後には死んでるかもしれませんが!」
「君にはまず道徳教育をした方がいいようだ。」
「ああ、本当に君があんなことを言わなければ良かったものを!」
「過ぎたことはしょうがないですよね!撤回も出来ないですし……ん?」
言霊とは、言葉を声にすることで言葉を現実にする、事象に干渉する力だ。良い言葉は良いことを、悪い言葉は悪いことを。
僕が爆破しろと悪い想像を言葉にしたからテロリストに占拠され、爆破テロに巻き込まれた。
それなら、この状況を打開する良い言葉を声にすればいいのではないか。
「私の話し方が悪かったんだろうが、言霊は絶対に起こるものじゃないぞ。どちらかと言えば信仰と心の持ちようによるもので」
「とは言っても何を言えばいいんですかね。テロリストみんなすっころべとか?」
「話を聞け。まあ、それだと無力化出来ないだろう。すっ転んで気絶とかにしておけ。気休めにしかならないだろうが。」
たとえ気休めだろうと、頼りたくなるのが人の性。言わない言葉より言う言葉。1回奇跡を起こせたんだから、もう一度起こったっておかしくはないだろう。
どうか、この言葉が本当になるようにと祈りながら。放つ言葉に力を込める。
「テロリストがみんなすっ転んで気絶して警察にそのまま捕まりますように!」
柏手1つと共に放たれた言葉は、大きな打撃音と共に学校中へ響き渡った。
しんと静まり返った校舎には、確かな人の息遣いが木霊している。
先生はハンカチで口を覆いながら、教室の扉を開けた。
「嘘だろ。君超能力者か何かか?」
後を追うように外を除けば、重装備のテロリストが、地面に突っ伏していた。
とどめを刺すように、サイレンが近づいてくる。
「僕、超能力者かも知れないです。」
言霊が強すぎる生徒と巻き込まれる家庭教師の話。
力を込めて
無気力な僕は
毎日をただやり過ごすだけ
一生懸命に生きる人を横目に
交番の前を通るように、なんとなく目を伏せる
耐えていれば 我慢さえしていれば
過ぎ去ってくれるのだと信じて
なにもなし得ない自分とか
いつの間にか有名になった誰かとか
そんなものに負い目を感じては
耐えて 我慢して 息を殺す
そうしてやり過ごす
僕のポケットの中の右手には
力が込もって 指先が白く色を変えていた
【力を込めて】
朝、体が怠くて起き上がるのが辛い
だけど、行かないと
一日でも休んだら辞めさせられる
そんな思いでなんとか支度を済ませ家を出る
そうして、一歩、一歩、足を前に出すことだけを考えて仕事へ向かう
あの頃の自分は、だいぶどうかしていたんだと思う
でも、あのギリギリな日々がなければ
ポッキリと折れて倒れこんでいたと思う
溺れて、沈んで終わぬように
たとえボロボロになっても
無我夢中で手を伸ばした
だから、岸に手が届いた
だから、今がある
愛して欲しいと感じるならば、愛される努力しろ…この言葉はよく聞く言葉だが実際そうなのだろうか?
愛して欲しいから努力しても相手がその気持ちがなければ愛してくれないでしょう?
人間てそうでしょう自分が見えている方じゃなければ嫌自分が嫌なところばかり見ようとしない相手に抱いてる嫌という感情はどう頑張っても消せないものです
「力を込めて」
瓶の蓋を開けた。スプーンで一匙、苺ジャムを掬う。
紅茶に溶かし、ごくんと一口。はあ、朝から幸せ。
霞んだ雲のもっと上にいるあなたへ。
私は想いと力を込めて叫んだ。
届いてるといいな。
とか思ったり思わなかったり…
力を込めて
共依存に陥る女は馬鹿だと思っていた。
男で人生を狂わされるなんで1番滑稽な人生だと信じて疑わなかった。
そして私は、今、まさしくその滑稽な人生の真っ只中にいる。
東京都新宿区上落合。
どうしても落合に住みたかったのは、歩道が広いから。
ついでに車道も広い。歩道も、人が通る道と自転車が通る道に分かれていて、自転車や車の通りのストレスを感じることがない。歩行者だけ避ければ良い。
道路から感じる区の財力、さすが新宿区。
私は落合駅徒歩3分の好立地マンションの6階にいる。
1人布団にくるまりながら、天井を睨んでいる。
気に入っているおしゃれな窓辺からは、綺麗な空が広がっていて、窓辺に置いた頑丈なモンステラが殺風景な部屋を彩っていた。
つい数ヶ月前までは、ずいぶん賑やかな部屋だった。
6年近く連れ添った、作家志望の男がいたからだ。
そいつは、いかにもクズそうな男だった。
タレ目の優しそうな瞳と、すぐそばの泣きぼくろが、女の警告を煽る。小柄で華奢な、色白の中性的な男だった。
そして、見た目から予想できるような、優しい性格だった。
言って欲しい言葉をよく理解し、
知識も豊富、
受け止める許容量。
この6畳の空間で幸せを満たしてくれるには、飽和状態だった。
男のように力をつけよと教育された私はコロっと心を掴まれた。
私は落合のこの6畳のお城で、お姫様にでもなったかのように有頂天になっていた。
そしてこの落合のお姫様を維持するために、かかった金は膨大であった。
なんせ、その泣きぼくろの王子様は働かないのである。
端的に言えばヒモである。
だが別角度で言えば、作家志望の夢追い彼氏、という部分でもあった。
ただ、こんな美男子、こんな理解者、もう現れないんだから。と、何度も自分に言い聞かせ、読んで字の如く身を粉にして働いた。
働いて得られたものは、落合の賃貸と、働かない王子様。当時は結構それで満足していた。
ところが、無自覚に過度な稼動を続けていると人間も壊れるもので、そんな生活を数年続けたのちに私は限界に達した。40度近い熱が下がらないのである。
のちに、精神科で診断を受け、仕事を辞めた。
仕事を辞めたら、泣きぼくろの王子様は、突如大都会に消えていった。
そして私は、冒頭の職も男も金も失った、哀れな女になったのである。
シンデレラの魔法が解けた時もこんな感じだったのだろうか。いや、シンデレラは灰を被りながらめげず腐らずチャンスを掴んだ女だ。魔法が解けた後も決してこんな惨めな女にならない。どちらかというと、古事記のイザナミノミコトよろしく、黄泉の国で死者の形相で追いかけている方が近い。落合のこの部屋は、いつから黄泉の国になったのか。そして私の黄泉の国にまで、追いかけてくれる人はいなかった。
私は半裸で布団にくるまっていた。
やっとのことで入った風呂を出て、髪も乾かさず、泣き過ぎて嘔吐したのち、力尽きて布団にくるまった。
結構本気で私が1番世の中で惨めじゃない?と、友人にLINEを送ろうとしたところで辞めた。
本気で惨めな時は自分で惨めと言えない。
泣きぼくろ王子は、先月の私の誕生日に一通の手紙を送ってくれた。いい歳して、手紙だけで有頂天になっていた私は、ちょっと哀れで笑えない一線にいる。
手紙には、言い訳がましい罪悪感が述べられていた。
そして最後の文章に一つこう書かれてあった。
「こんなこと言うときっと怒るだろうけど、君が一番女の子だと思う。」
他人の恋愛模様、それは愚の真骨頂である。これは母がよく私に言っていた。私も中学生の多感な時期によく同級生を馬鹿にしたものだ。
だが、私の脳からは報酬分泌がドバドバと溢れ出していた。
泣きぼくろ王子は、ホストの星で生まれたんだろうか。
才能がある。
かく言う私もホストにのめり込む才能がある。
なるほど、こういう人の心のデコとボコを埋めるビジネスなのか。稼げる理由がわかる。
過度な厳しい教育の元、
男のように育てられた私は、
女性としての性自認が出来なくて、
酷くそれに悩んでいた。
性別が宙に浮いてるようで、
同性の女の子としか付き合ったことがなかった。
もちろん、彼女たちのことも好きだったが、
心にぽっかり空いた穴のようなものが埋まらなかった。
確かにそこにあるのに、自分で確認できていないような感覚。
泣きぼくろ王子は、私に一つ、女としての性別を与えてくれたように感じていた。
私はその手紙を見て、何度か嬉しくて泣いたのである。
私はその手紙を、力を込めて、破いた。
自分の中にある最大の力で破き続けた。
細かく破いたのち、ゴミ袋に勢いよく捨てた。
あのまるっこい女の子のような文字はもう2度と読めない。
でも、読めてなくていい。
私はあの手紙がなくても、女だ。
あの男がいなくても女なのだ。
誰になんと言われても、私は女だ。
涙とゲロと鼻水で汚れた顔を拭いた。
鏡の前にいる自分を見つめ、
貧相な胸に下着をつける。
カメリア5番のリップを出して
私は唇に色を乗せた。
白い陶器の破片が、剣呑な音を立てて転がった。
半分に割れた花瓶の口から、透明な水が粘性を持って、とろとろと流れ出ていた。
薄桃色に色づいた花の蕾が、水に滴りながら、くたりと凋んで落ちていた。
やっちまった。
無惨に水に浸かった、凋んだ花の蕾を見て、そう思う。
瓶の隙間から、ドクドクと液体が滲み出て、広げた手紙にゆっくりと染み込み続けていた。
力一杯叩きつけたペンから折れたペン先が、滲んでゆく手紙の上を力なく転がっていた。
この生活での唯一の楽しみを、綺麗なものを、破壊してしまった。
そんな後悔がじわじわと湧き上がっていた。
怒りに任せて、こんなことするんじゃなかった。
頭は、理性は、そう考えているのに、拳の力は抜けなかった。
爪がゆっくり掌の肉に食い込んでいる。
ここは壁の中。
国境を分ける分厚い壁の、監視塔だ。
俺はここで、もう五年も勤務している。
昔の戦争の名残で、この国には至る所に鉄条網の張り巡らされた壁が残っている。
戦争が終わった今、この壁を越えることは禁じられている。越える理由がないし、戦争を止めるための条件の一つが、「互いの交流を禁じる」というものだったからだ。
壁を越えたら重罪。
捕まえて、直ちに政府に引き渡される。
壁の向こうに何があるのか、それは今生きている国民たちの誰も知らない。
だが、そんな状態でも、壁を越えようとする物好きは存在する。
政府の目をくぐり、壁に穴をあけ、壁の外へ出ようとする。
そこで、壁を見張る必要が出てきた。
政府は、壁の中に居住スペースを作り、住み込みの監視塔にして、人を置いて、壁を見張らせることにした。
俺は、まさしくその、壁の見張り役を命じられていた。
壁を越えようとした奴らを検挙し、政府に送りつけることを、もう五年も続けていた。
壁の中の見張り人は、苦行だ。
任期の間は、スケジュールが分刻みで決められていて、人と会えない。
できるのは手紙でのやり取りだけ。
監視という任務を問題なくやり遂げるための措置だという。
壁に向かう奴らにどんな事情があったとしても、同情することなく、突き出せるように、任務遂行時の人間性を極限まで削いでくれているのだ。
ありがたいこった。
そういう任務だったから、この仕事は懲罰扱いとなっていた。
俺も懲罰で来た。
家族をバカにした将校を殴っちまったからだ。
規則によれば、俺は二年間で壁の中から出られるはずだった。はずだったのだ。
だが、現実はそうはならなかった。
国の中で内部分裂が激化し、国の崩壊を恐れたお偉方は、国民の注意の矛先を、国外へ向けたがった。
そうして、壁の外を警戒するクソみたいな『国境強化期間』なるものが作り出された。
俺の恩赦は延び、壁内での生活の規制の締め付けは、蟒蛇のとぐろ並みに厳しくなった。
今しがた届いた手紙には、今月のスケジュールが書かれていた。
日増しにエスカレートしていく規制に、我慢ならず、俺は政府に返信を書いていた。
俺は家族に会いたかった。
友人と話したかった。映画も見たかった。
力を込めて、そんなことを書いた。
壁の中の生活の辛さ、大切な人に会えない苦しみ、自分の性格から人間性が抜けていく恐怖…
力を込めて、そんなことを書いた。
書いていた。
力を込めすぎたのか、バキンッと音を立て、ペン先が折れた。
このペンは、家族からのプレゼントだった。
その途端、何かが切れてしまった。
俺は、将校を殴ったあの時のように、腕にありったけの力を込めて、机の上を薙ぎ払っていた。
陶器の花瓶が割れ、グラスが転がった。
…そして、俺は、襲いくる後悔と、それを飲み込まんと湧き上がる怒りの中で、拳を握りしめて、自分が作り出したこの惨状を見ていた。
自分で破壊した、自分の人間らしい生活の痕跡を睨みつけていた。
俺は帰りたかった。
壁の中から脱出したかった。
花瓶の水が、じわじわと壁の床に吸い込まれていく。
殴り書いた手紙のインクが、じゅわじゅわとふやけていく。
壁なんて壊れてしまえば…
監視センサーが赤く光っていた。
壁に向かう奴がまた、現れたらしい。
通報ボタンを押さなくては。
俺は、のろのろと腕を掲げた。
でも、その腕は糸が切れたように、だらん、と自分の太ももの側面に垂れ下がった。
俺はなんなのだろう。
何のためにここにいるのだろう。
ぐちゃぐちゃになった机の向こう、しみったれたいつもの壁があった。
鳴り響く監視センサーの通知音。
ぐちゃぐちゃに乱れた机。
いつも通りに無機質でしみったれた壁。
監視できなくなった監視員はどうなるのだろう、俺の頭は、ぼんやり、そんなことを考えていた。