『バカみたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
バカみたい
ほんとに、本当にバカみたい。なんであんたが死ぬの? どうして?
どうして私を助けたの? あんなに冷たくしていたのに。あんなに突き放したのに。
…私はあなたのことが嫌いだったはずなのに。あなたに対してこんなに気持ちがほだされるなんて、バカみたい。
こんな気持を私の中にとどめておくなんて無理よ。
私はゴメンなのよ。
だから、今から相当馬鹿なことをするわ。
「スゥ…」
バカみたい。本当に、バカみたい。私、本当にここから飛び降りるのよね?
ここは高層ビルの屋上だ。私はあいつが死んでしばらく経った後、ある噂を耳にした。
『あそこにある、ここらへんで一番大きなビルには時を戻せる神様が小さな神社に祀られている。そこで屋上から飛び降りれば、時を戻してくれる』
という噂だった。
もちろん最初は疑った。だってあそこに神社なんてものはなかったはずなんだから。でも、少しだけ気になって見に行った。
そしたら、本当にあったんだ。神社が、そこにあるはずのない神社が。
そこで完全な疑いから、半信半疑までランクが上がった。
でも、もう我慢が出来なかった。あいつが勝手にかばったくせして、私にとんでもない置き土産を遺していったんだ。あいつは本当にバカだ。
だから、もう楽になりたかったんだ。でも、私は死ぬ気なんてひとつもない。だから、ここから飛ぶのも死ぬためなんかじゃない。
覚悟を、決めるんだ。
…行ける、行くんだ。
頼んだよ、神様。
トンッ
私はふわりと飛ぶように、ビルから飛び降りた。
私は目が覚めるとあいつの横にいた。
日の位置や周りの様子を見るに、今は下校中のようだ。
ここなら、まだあの時までは時間があるな…。あれが起きた原因は私が横断歩道でカバンから小物を落としてしまったのが原因だった。
あの時はたまたまカバンを開けっぱなしにしてしまっていた。今回はきちんと閉めなければ。大丈夫だ、何も問題はない。あの横断歩道を渡りきればもう問題はないはずだから。
「…大丈夫? ぼーっとしているみたいだけど…。調子悪い?」
「ッ…。別に、なにもない」
「そう? ならいいけど」
どうやらかなりの時間考え込んでいたらしく、あいつから心配の声がかかった。
「そうだ、次に渡る交差点のことだが…。お前はなにがあっても気にせずに渡れ。いいな」
まあ、こんなことを言ってもあいつが言うとおりに動いてくれるとはあまり思わないが、一応言っておく。
「え? うん。でもなんで?」
「なんでもない。別に普通に渡ればいいだけのことだ」
「そ、そっか。わかったよ」
そこからしばらく沈黙が続いている。
ドッドッドッ
私は柄にもなく緊張していた。それはそうだろう。一人の命が私の手にかかっているのだから。
正直バカみたいだ。あいつを助けようとしていることも、あいつを助けようとしてあのビルから飛び降りたことも、実際に過去に戻っていることも。
でも、もうそんなことを考えていてもしょうがない。
…もう大通りに出てしまった。もう、横断歩道はすぐそこだった。
横断歩道までたどり着いた。今は赤信号だ。この信号が赤に変われば…。
ピッポ ピピポ ピッポ ピピポ
信号が青に変わった。二人で歩き出す。
大丈夫だ、もう半分は渡り終わった。あと、あと少しだ。よし、もうこのまま行けば無事に着ける…。
どてっ
後ろで誰かが転んでいる音が聞こえた。
思わず後ろを振り向く。そこには横断歩道でコケてしまい泣きじゃくっている子供。
そして横目に見えるのは、猛スピードで子供に向かってきているトラック。
「おい、お前は…」
私があいつを止める前にあいつは子供へと向かっていた。
あいつは子供の元へと向かい、そのまま私たちが先程までいた方に戻ろうとしている…が、トラックはもうすぐそこまで来ていた。
あいつのみだったら、きっと助かる。でも、子供を抱えながらは無理だ。
私は、気がついたら走り出していた。
ドゴッ! …ドサッ
二つの衝撃音があたりに響いた。
ああ、私は死ぬ気なんてものはなかったのに。
気がついたら、私は走り出していた。あいつの背中を突き放していた。気がついたら…、私はトラックに跳ねられていた。
あいつがこちらへ走って来ているのがわかる。大粒の涙をボロボロと流しながら。野次馬の一人が電話しているのが見えた。おそらく救急車を呼んでいるのだろう。
私は思っていたより冷静だった。
「…ほん、とう、に、バカ、み、たい」
「ねえ、なんで? なんで君が轢かれているの? ねえ、どうして? …死なないでよ」
あいつは轢かれて醜い様になっているだろう私を見つめてそういう。
弱々しく震えていた。
「お願いだ、から、お前、は、私み、たい、に、は、なる、なよ。い、き、てく、れ」
「ねえ、最期みたいなこと言うのやめてよ! 死なないでしょ? ねぇ、死なないでしょ?」
こんなことをいうのはバカバカしいとは思っていた。でも、言わずにはいられなかった。私が気づくよりももっと前から
「わた、しは、あん、た、が、すき、だった…み、たい、だ」
「…え?」
ああ、本当に柄じゃない。私がこんなことをするなんて。私が他人にこんな感情を抱くなんて。私が他人のためにこんなことをするなんて。
本当に、ほんっとうに…
バカみたいだ。
ほんとうに、君はお馬鹿な人だよ。…大丈夫、君は僕が助けるから。
片思いだった人を追いかけて
届かないから背伸びをして
本当の自分を隠して
接してた
嫌われたくなかったから
後からわかった
自分がその人に執着してたこと
バカみたいだと笑ってくれよ
背伸びまでして追いかけて
大好きだった人を失ってしまった私を
執着だって本当は気づいてたのに
気付かないふりして必死でしがみついてた私を
だいたい自分で自分のことを
『バカみたい』
って思ってることが多いかな。
それだけ浅はかな行動を
衝動的にとっている
ってことなんだろうけれども
その度に反省しつつも
一向に良くなる気配なし。
周りがいいひと過ぎて
支えてくれているから
私は私でも成り立っている。
なんて幸せ者のバカなんだ!
ある男子が、自分のことを度々見てるような気がして
それで少し気になってきて、
結果的に好きになってしまったことがある
実際には見てたわけじゃなかったのに
なんて自意識過剰なんだろう
バカみたいー!
でも誰かを好きになってたあの頃楽しかったな!
バカみたい
「バカみたい、また泣いてる」
彼女が子供の時、一度だけキスをしてあげた男の子がいた。
足が遅くて頭が悪くて貧乏な家の子で、いつもいじめられて泣いていた。ある時いじめられて怪我をしながらうずくまっているその男の子があまりに目に余ったので、彼女は涙で濡れるその頬にそっとキスをした。
驚いて涙が止まった男の子の明るいブラウンの瞳を、彼女は綺麗だと思った。
「ぼ、僕と付き合ってください!」
跪いて小さな花束を震える手で差し出す男の瞳は子供の頃と変わらない明るいブラウンだ。緊張を漂わせるその瞳に見つめられて彼女はため息をついた。
「バカみたい、アンタと付き合うわけないでしょ」
そう言われてがっくりと肩を落とす男に背を向け、彼女は歩き出した。
彼女は駆け出しのモデルであり、街の酒場で美声を披露する歌手であり、その美貌で何人もの男をパトロンに持つ娼婦だった。彼女は金と力のある男にしか振り返らない。それ故に金をかけて自分を磨くことも怠らない。金も力もない平凡な男の相手をしている暇はないのだ。
彼女は満たされていて幸福だった。
若く美しくスタイルも良い。彼女の為に金を出す男はいくらでも居た。特定の相手など必要ない、愛だの恋だのと時間を使うのはバカなことだと思っていた。
戦争が始まるまでは。
モデルの仕事は激減し、歌を披露していた酒場は休業となった。彼女を支援してくれた金のある男たちは国内から逃げていった。
彼女が何年も努力してようやく作り上げた、金に恵まれ人に求められる生活は、たった数ヶ月の間に崩れ去っていた。
彼女は貯金はほとんどしておらず、自らを美しく魅せるために収入の殆どを費やしていた為に国外に逃れる事もできず途方に暮れた。
(バカみたい…私は結局何も持ってなかったんだ)
自暴自棄になりかけていたある日、あの男はまた彼女に声をかけた。
「あの、これが最後かもしれません…どうか受け取って下さい」
手の中には以前よりも小さな花束があった。この混乱の中、よく手に入れたものだと彼女は初めて男に感心した。
「…バカみたい、あなたのお母さんにあげたら?」
小さな町だ。噂もすぐに耳に入る。一人息子であるこの男が出兵することになり悲しみのあまりに寝込んだという話も。
彼女の言葉に小さな花束を持つ男の腕がだらりと落ちる。その哀れな姿に眉を寄せ、ため息をついて彼女は男の頬にキスをした。
「帰ってきたら私の顔が隠れるくらい大きな花束を持ってきて、そしたら受け取ってあげる」
男は耳まで赤くし、明るいブラウンの瞳を輝かせると満面の笑顔で大きく頷いたのだった。
「僕と付き合ってください」
「今さらこんなしわくちゃのおばあちゃんに」
彼女の顔が隠れるほど大きな花束を差し出したのは、穏やかな瞳の老人だった。その瞳の色は子供の頃から変わらない、綺麗な明るいブラウンだ。
老人は杖で体を支えながら、跪いて満面の笑顔を五十年連れ添った妻へ向けた。
「俺たちの結婚記念日だからね」
「…バカみたい」
そう言いながら、彼女は笑顔で彼の頬にキスをした。
バカみたい
とある人物が最後に発した言葉だった。
誰に向けた言葉ではない。
虚空を見つめる眼は、嘆きと絶望で塗りかためられていた。
だから、誰も慰めの言葉をかけることはなく、視線を僅かに下へと向け、その「うらみ」の言霊を背負っていた。
時代に生き、移ろい行く世に信念や尊厳を殺された人物の言葉は、ありきたりながらも重く、残酷なものであった。
バカみたい
バカみたい
本当にバカみたい
『バカみたい』
「別れた方がいいと思う」
薄暗い車の中で言い放たれた刃が、ひどく深く突き刺さったのは覚えてる。
後はただただ子供のように泣きじゃくり、困らせていたことだけ。
仕事が忙しく、ドタキャンや短時間のデート。
自分本意なあなたに愛されているのか不安になるばかりだった。
そして、その不安は見事に当たる。
もう私の所に二度と戻らない想いを知り、
「もう連絡しないし、連絡しないで。」
最後まで仕事を言い訳にするあなたに半ば呆れながら、それでも愛しい想いを残したまま…
私たちは静かにスマホから互いの存在を消した。
それから半年。
街で貴方に会った。
小柄で可愛らしい女性と小さな小さな赤ちゃん。
「いつも主人が……」
女性がそう口にした瞬間、全てを察した。
いや、始めからわかっていた。それでも何処かで信じていた。
始めから、あの人は私に、想いが無かったのだと。
「バカみたい」
中睦まじい家族と離れてから、ポツリと呟く。
バカみたいに恋をしていた。
それが一方通行だったとしても、私はバカみたいにまっすぐにただ1人を想っていたんだ。
そんな自分を誇らしく思いたい。
俺さ、お前のことが初めて好きになった人で良かったって思ってる。
お互い、両思いだって分かった時は、すんごいはしゃいだっけ。
それから色々あって、一緒にバカみたいに笑って、バカみたいに泣いて。
それでも、お前と色んな思い出作れて、サイコーだった。
ありがとう、そして、これからもよろしく。
〜バカみたい〜
『バカみたい』
積み上げられた荷物の影に身をひそめ、小さく息をつく。
そうして彼は、ようやく見つけた風雨をしのげる宿を失ったことを確信した。
囲まれている。数は四人、いや五人だろうか。
手元にある武器は、弾が五発入ったリボルバーに、鈍く光るナイフが一本。
味方なんているはずもない。
さぁどうする?
背筋を這い上がる悪寒、命を賭することを強制される緊張感、そして、高揚。
命を晒す瞬間の鮮烈な快感を思い出し、彼は身体を小さく震わせる。
「バカみたいだ」
自嘲の笑みと共に、長い呼吸をひとつ。高揚感を飼い慣らし、彼は戦場へと躍り出た。
バカみたい
なのはワタシの方だ。
たくさんもらったのに、してくれてたのに
ちゃんとみないと
振り向いてもらえるなんて思ってないのに、
髪の毛サラサラにしようとか、
肌の状態保とうとか良くしようとか。
コンプレックス治そうとしたり、
これしたらかわいいと思ってもらえるかなとか。
結局あとから来る傷を深くしてるだけなのに、
こんなに頑張るなんてバカみたいだよね。
だけどみんなやめられないのが現実。
#バカみたい
バカみたい。
あなたが開けることはない扉が
開くたびに
あなたじゃないかと
振り返る。
あなたのこと
もう好きじゃないはずなのに
メッセージがくるたび
ドキドキしてる。
バカだよね。
あなたのことだけで
頭がいっぱいに
なったり。
あなたに会えるかもと
いつもは通らない道を
遠回りして
帰ったり。
ほんとバカみたい。
他の人のことを好きになっても
私は結局
あなたが
好きなんだ。
どこに行っても
結局
あなたのいる場所へ
戻るんだ。
買っていた鳥が
自分で
大好きな飼い主のもとへ
帰ってくるように。
-バタン。
母さんが怒って家を出ていった。
いつものことだ。姉ちゃんと言い争いになり、賢い姉ちゃんに言いくるめられ、母さんの立場がなくなり、家を出ていく。
出ていくと言っても、朝になったら普通に仕事へ行くし、気が向いたら帰ってくる。
僕は知っている、数年前から父さんが2駅先にアパートを借り、秘密基地を作っていることを。
だから、今日もそこへ行き、父さんと2人で過ごしているのだろう。
夫婦のあり方として素敵だとは思うが、子どもの僕からしたら仲間に入れてくれとも思う。
静かになったリビングへ行くと、ケロッとした姉ちゃんがクッキーを頬張っていた。
「あんたも食べぇ。」
姉ちゃんがクッキーを差し出してくれる。
差し出してくれるどころか、顎に手を添え、咀嚼まで促してくれる。やりすぎではなかろうか。
「もうちょい母さんに優しくしてあげてよ。」
「なんでよぉ、子どもが永遠に子どもで入れる相手は親しかいないのに。」
「姉ちゃん、変わったよ。」
「変わらずにいられるもんですか。」
「そうじゃなくて、幼くなったよ。」
「そりゃあ、進化も退化もできるように備わってるんだろうよ、人間には。」
そういうものなのかと、僕は考えるのをやめた。
姉ちゃんは、すくっと僕の前まで立ち上がり、額を指で押す。
「これでは立ち上がれるまい。」
僕は立とうとするが、その通り、立ち上がることはできない。
姉ちゃんは、僕に抱きつくように座り、背中をさすってきた。
「希望の国のエクソダス、私は憧れるよ。」
そうだね、僕もいつか自分の居場所がほしいもんだ。
何をしても怒られない、自分だけが知っている世界。
いつか姉ちゃんと、子どものように、バカみたい、純粋に生きてみたいとさえ思う。
なにか足りないわけではなく、いつも満足しないということは、これほどまでに辛いことなのかと思い、グッと姉ちゃんを抱きしめてみる。
いつも心が枯渇していると表現できるのは、もう少し後になってからだった。
散々他人に教えてたのにあんたできてないじゃん
バカみたい
#バカみたい
【バカみたい】
ずっとずっと、忠犬みたいに
貴方の事を待っていた
帰って来ないこと位分かってるのに
なんだか 僕 バカみたい
私は今日もたくさんバカみたいなことをした。
六年一組になってから私は担任のM下先生に鍛え上げられたせいで何をしても恥ずかしさも微塵も感じないのだ。
でも、もうその先生はいない。なぜなら私がもう小学校を卒業してしまったからだ。
悲しかった苦しかった。このままあの楽しいクラスのまま中学生になりたかった。
でも、別れはいつかやってくる。大切な人ともいつかは別れる時が来る。
それは仕方がないことでもあり、私自身が大切な一歩を踏み出すための大切な経験でもある。
私の担任M下先生は言った「悲しくて泣くのではなく、楽しいから泣け!」とこれは何を意味するのかと言うと悲しくて下を向いていても前には進めないのだから楽しいことを考えて乗り越えようよと言ったのだと私は思う。当然、私は卒業式で泣いた。でも、悲しいのが半分感謝が半分だった。
私が言いたいのは皆さん人生楽しんでいますか?
楽しんでいなくても楽しもうとする努力をしていますか?
楽しむ努力をするだけで人生は変わります。
どうかこの文章を読んでいる人が幸せでありますように私は願います。
―海想の日常―
朝起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べて、青雲に外に連れ出される。僕にとってよくある日常の一コマだ。だけど
「海想の好きそうな紅茶を貰ったんだ。おやつのときに入れて飲んでみようねえ」
「ほら、これ。前に欲しがっていたカード。今回パックを買ったらたまたま当たったんだ。僕は使わないから、海想に貰ってほしい」
「海想!スタバの新作が出たんだ、一緒に飲みに行こう。あの二人はこの前勝手に海に行ったから今回はお預けだ。二人でこっそり楽しんじゃおう」
中学生になって部活もそこそこにやっている僕の暇さえ見つければ、青雲も蒼原さんも竹凛にいもこうして僕にかまってくる。僕はそんな3人を見て小さくため息をついた。
「みんな、僕のこと大好きすぎやしませんか」
それはけして過信ではなく、素直に思ったこと。本当は嬉しいけれど、なんだか恥ずかしくてつい強い言葉に隠してしまう。だけど3人ともそう言うと嬉しそうな顔を綻ばせるものだからなんとなく居心地悪く顎を手に載せながら目を逸らす。そんな僕の行動一つすら楽しそうに笑っている。
―僕だって3人のこと、ちゃんと大切に思っていますから
いつも思っているけど、まだ口から出たことのない言葉。きっと3人には伝わっている。だけど、いつかちゃんと言葉で伝えたい。きっと3人はとても嬉しそうな顔を見せてくれるだろう。だけど今はまだないしょ。
ああ、バカみたいに楽しい日常を過ごしている。
# バカみたい
「バカみたい」
どこかから聞こえてきたその声に、ぴくりと瞼が痙攣した。遠巻きにさざめく人の群れ。こちらを見ているのが如実にわかる、その気味の悪い視線。
誰のことを言っているのか。そんなのはわかりきっていた。明らかに、目の前の彼女のことを言っている。
彼女は、先程からショーウィンドウに齧り付いて歓声を上げていた。ガラスの中で繊細なデザインのドレスが煌びやかに輝いている。隣のアクセサリーにも目移りするようで、心底楽しそうに覗き込んでいた。無理もない。彼女にとっては初めての街だ。見たことのない品物を見て興奮するのは当たり前だろう。
そうとも知らずに、通行人は失笑を漏らす。大方、とんだ田舎者とでも思われているのだろう。それか“黒まがいの人間もどき”が騒いでいる、と鬱陶しがられているのだろうか。
あまり長居すると面倒なことになりそうだ、と他人事のように思った。ここは彼女の生まれ故郷よりは人種に寛容な街のようだが、それでも“黒まがい”への白眼視は変わらない。多少騒いだくらいで疎ましがられて、あらぬ罪で投獄されてもおかしくない。
それでも、僕は彼女から離れなかった。もう行こう、と言うこともせずに、ただはしゃぐ彼女の隣にいた。誰に何を言われようと、あともう少しだけ、彼女の邪魔はしないでおこうと思った。
これは私が中学生の時、先生に恋をした話です。
先生に恋をするなんてバカみたい。そう思う人も居て当然だと思います。なんなら初めは私もそう思っていました。先生に恋をするなんて漫画やドラマの中だけの話だって。ですがそんな私が先生を好きになりました。
出会いは中学二年生の始業式。もう、一目惚れだったと思います。先生は新人教師で私よりも11歳上の人でした。初めはかっこいいと思っているだけでしたが、どんだけ忙しくても自分より生徒を優先する優しいところ、無茶をしすぎてしまうところ、ドジで可愛いところ、昼休みバスケをしている所、なんでも笑顔でこなす所…先生を知っていく度にどんどん好きになっていました。いけないことだと分かっていましたが、ある日友達とのノリで先生とLINEを交換することになりました。それから私は毎日LINEをしました。何があっても会話が途切れないように、沢山考えて返信しました。ここまで読んでまだバカみたい。夢見てんのかって思う人もいますよね。でも現実におきたのです。私の実体験、先生に恋をした話を元にこれから色々なお題を入れて毎日書きます!興味があったらお気に入り登録お願いします!
ひとつ、晒された首元から束をさらった。
艶々とした髪だ。広葉樹をくぐり抜けた強い陽に照らされているから、反射してキラキラしている。
これが深夜になると夜空に溶けて散らばるのがたまらない。
自分、夜行性なので。夜に紛れるのが、好きなので。
「センパイ、三つ編みほどけてる」
返事はない。木漏れ日が器用に目元を避けて安眠を与えていた。すやすや、ふわふわ、眠りこけているこの人が、情けない顔をしたのを思い出す。
呪われた薬品を被ったとか、曰く付きの骨董品を触っただとか。曖昧な噂を人伝に聞いて、「そんなバカみたいなことある?ま、あんたなら大丈夫でしょ」ってからかいに来たはずだった。
いっとき喋れないだけでなんて顔してるんすか、と笑い飛ばせたらよかったのに。
額に落ちた一本をどけてやる。するとセンパイは微かに眉根を寄せた。
「聞こえてるんすか?」
瞼は上がらない。
あのとき、この人が「何も言わない方がお似合いだろうよ」と、書き記して見せなければよかったのに。
手のひらからこぼれるまま、三つ編みを辿った。根元のほうはまだ形を保っていたけど、毛先は混ざって境目もない。パラパラと戻る先を知らない毛髪は直さないと不格好だ。
直してやってもいい。けど、それならば頼まれたい。
センパイがやれと言うから三つ編みが得意になったんだ。
意味も生き方も知らなかったけど、センパイの言葉でここまでついてきたんだ。
ただ寄り集まっても烏合の衆。独りになればみんな同じだと言ったのはあんたでしょ。
「早く起きてくださいよ」
あんたでもバカみたいなこと考えるんすねェ、って精一杯笑ってやる。
それから今夜は夜食を食べに出よう。美味しいもので腹を満たし、苦しいすべてが闇に溶けて、消えて、ただの一人になって。
あんたを縛るなにもかもがなくなってしまえ。
「いま起きねェと、昼飯なくなりますよ!」
いよいよ、手を出して体を揺すった。すると先ほどよりも眉間に皺が寄り、まつ毛が震える。唸るような声はなくとも、その口が小さく煩いと呟いた気がして、意気込んだ。
さあ、目を開けて。がんじがらめの夢想より、俺とくらい現実と理想を見てよ、センパイ。