『キャンドル』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
キャンドルといえば書物、というイメージがある。また、その組み合わせが好きだ。
なのに実現しようとすると、危なくてできないというジレンマが悲しい。
それなら、キャンドルを模したLEDライトを使えばいいのでは、という声が聞こえてきそうだ。
LEDライトであれば、書を、ゆくゆくは家を燃やしてしまう恐れはない。炎のゆらめきを疑似体験することもできるだろう。
しかし、キャンドル型のライトだと、蝋が溶けていく様子を見ることができない。時間の経過を味わいながら読書をする、という楽しみ方はできないのが、唯一の欠点だ。
いつか、蝋が溶ける様子も再現してくれる、キャンドル型のライトが売り出されたらと、願わずにはいられない。
『キャンドル』
学校の教室より少し大きいくらいのイベントスペースにいた人たちが一晩でどこかに消えてしまったという。あとに残っていたのは燃えさしの大きなろうそくと、何本ものろうそくの燃え殻。催事の予定には百物語と銘打たれていた。
会場の照明とおどろおどろしいBGMが絞られて、主催者が最後のろうそくを吹き消したとき、ふと闇が濃くなった気がした。百物語とはいえ、どうせ何も起こらないのだからこれが終わったらバーカウンターで何を飲もうかを考えていた。しかし一向に会場は明るくならないし、バーカウンターの小さな明かりすら見つけられない。怪談に参加していた百人ほどのひとたちの息を潜めるような気配すらもいつの間にかなく、ただひとり闇に放り出されたような気になった。
「なにゆえ喚ぶ」
「は?」
気配もないところから獣の臭気と息遣いがして問いかけられ、思わず間の抜けた返事をしてしまった。闇に溶けたなにものかが苛立ちを纏ってそこにいる。
「なにゆえ煩わせるか」
問いに対しての答えは浮かばず、加えて正体不明のものに対する恐怖が喉元を締め付けた。
「……誰ひとりとして物も言えぬとは」
苛立ちが一層増したように感じたとき、自分の意識かぶつりと途切れた。
希薄になった意識が闇の中を彷徨っている。そこには百人ほどの同じような状態になったひとたちが漂っており、みんな助からなかったのだなとぼんやりと思った。みんながみんな未練のようなものを持っていたが、留まり続けるにはパンチの足りないものばかり。だんだんと密度が薄れていく。
酒が飲みたい。バーカウンターを思い描きながら抱えた未練を思っていたが、次第に何も考えられなくなっていった。
その性質上、金属やガラスと並列されることが多いのですが、決して冷ややかなものではなく、炎を携帯すると心得て下さい。
いいですか、直に持つのは危険ですよ。
そこの方、火傷すれば、生涯跡が残りますからね。
大丈夫じゃない、火災になれば、あなたの人生なんてすぐ消えますからね。くれぐれも倒さないように。
「先生、向こう岸が明るく見えます…」
あーもう、バケツ持って来てー‼
【キャンドル】
「食用油とかツナ缶の油とか利用したオイルキャンドルは、平常時に練習しとく方が、良いと思う」
キャンドル。キャンドルと来たか。某所在住物書きは首筋をガリガリ、天井を見上げため息を吐いた。
「麻紐より普通の自作ロウソクセットの芯使った方が安定した、とかさ。火が大きくなっちまった時に、テンパって水で消そうとしちゃダメとかさ……」
当時は俺の前髪の一部がチリチリアフロになっただけで、済んだけどさ。物書きは再度ため息を吐く。
「……火がデカくなったキャンドルの消火は、天ぷら油の時みたいに、窒息消火、試してみようぜ」
――――――
最近最近の都内某所。某アパートの一室の、部屋の主を藤森といい、花咲き風吹く雪国の出身。
その藤森の部屋には、茶葉を利用するジャパニーズアロマポット、別名「焙じ茶製造器」、
つまり、「茶香炉」という物がありました。
香炉の上に茶葉をのせ、茶葉の下にティーキャンドルを入れ、熱して焙じて出る香りは、
煎茶とも、抹茶とも違う、甘い、穏やかな香りで、
藤森の部屋に在るのは、実は2代目。
初代は藤森の後輩に、「欲しい」と言われて去年、お嫁かお婿に出され、そろそろ1年。
初代は藤森に、何年も香りを届けておりました。
初代は藤森を、何年も見守り続けておりました。
――初代の茶香炉が藤森と出会ったのは、藤森が初めて東京に来た、13〜4年前の春。
茶香炉は春の屋外イベント、稲荷の茶葉屋の小さな露店で、香りをぷかぷか、吹いていました。
「茶香炉の良い香りがします。あそこの店だ」
その香りに釣られて、ふわふわ露店にやって来たのが、まさしく今の「藤森」でした。
地下鉄の乗り方も知らない、うぶでバンビな藤森は、たまたま近くに居た宇曽野という男に、自分のアパートの近くまで連れてってもらっている最中。
香りに釣られて、露店に来ました。
「『チャコーロ』?」
「お茶の露店なんて、私の故郷では見たことがない。本店はどこだろう?どの産地と品種かな」
「こら待て。待……ステイ!」
疑うことを知らない目だ。
東京の生き方、歩き方を知らぬ声だ。
ゆらり、ゆらり。茶香炉がキャンドルの火を揺らしていると、藤森に買われ、箱に入れられました。
――初代の茶香炉は、藤森の初恋も見届けました。
それは藤森が東京の時間と、人の動きと、その他田舎と都会の違いに揉まれて、擦られて、
まだ、東京の歩き方を習得できていなかった頃。
つまり心がすさんで、人間嫌いと人間不信を併発して、捻くれておった頃でした。
「あのね。誰にも頼ろうとしないから、壊れるまで独りで頑張っちゃうんだよ」
香りをぷかぷか、茶香炉が吹いておりますと、
ピンポンピンポン、「藤森」のアパートに、藤森の同僚が、まかないを届けに来ました。
「『たすけて』って、言ってみたら」
ぬるり、ぬるり。同僚は心魂の奥底に潜り込む毒のような声で、抑揚で、藤森に言いました。
「仕事に穴を開けてしまったことと、まかないを届けてくれたことには、礼を言うし謝罪もする」
静かに威嚇する狼のように、あるいは手負いの獣のように、藤森、同僚に言いました。
「私に、これ以上構うな。出ていってくれ」
ああ、あの同僚は、気を許してはいけないタイプの人間だな。ゆらり、ゆらり。
茶香炉はキャンドルの火を揺らし、分析しておりましたが、藤森に警告が届くことはありませんでした。
――初代の茶香炉は、藤森の失恋も見届けました。
それは藤森が上記同僚の「この人が欲しい!」という策略で、つまり所有欲の薬毒によって、
捻くれた人間嫌いが、だいぶ癒えてきた頃。
藤森が同僚を「自分の心魂を癒やしてくれた恩人」と、本気で思っていた頃。
「驚いた。まさか、日本茶が好きだったなんて」
香りをぷかぷか、茶香炉が吹いておりますと、
藤森が上記同僚を部屋に招いて、温かくて優しい味のお茶を、タパパトポポ。振る舞いました。
「意外か? 嫌い、だったか?」
人を少し信じられるようになってきた藤森にとって、同僚はいまや、初恋のひと。自分の人間嫌いと人間不信を治してくれた、大事なひと。
このひとのためなら、何を捧げてもいい。
本気で、思って「しまっていた」のでした。
「全然?逆に僕、緑茶、大好きだよ」
「加元」と名乗ったこの同僚のトゲに、茶香炉は気付いていました。加元は「好き」と言っておきながら、心の底では真逆のことを、考えておったのでした。
『ウソでしょ?解釈違いなんだけど』
ああ。これは、傷が深くなるな。ゆらりゆらり。
キャンドルの火を揺らしながら、当時の茶香炉、数ヶ月後の藤森の失恋を、人間嫌いと人間不信の再発を、この頃既に、見越しておったのでした。
――それから時が経過して、失恋から続くトラブルも解決して、心の傷もだいぶ癒えた藤森です。
茶香炉は藤森の部屋から離れましたが、相変わらず、ゆらり、ゆらり。キャンドルの火を、揺らしておったのでした。 おしまい、おしまい。
キャンドル
断りもなく冬がやってきた。家に入ると僕は真っ先にエアコンのスイッチを押し、彼女はコートを着たままヤカンに火を入れた。
着替えをする間に湯が沸いた。部屋はまだ寒い。淹れたてのコーヒーが白い湯気を上げた。
テーブルの上には、買ってきたショートケーキが皿に盛られていた。赤いイチゴが燭台のキャンドルに照らされて、艶やかに輝いている。
「この曲、好きなんだよね」彼女が小さな声で言った。彼女が選んだ宇多田ヒカルの『Prisoner Of Love』がスピーカーから静かに流れる。宇多田の声を追いかけるように、彼女は指先でコーヒーカップの縁をなぞった。
「わかる。この曲、なんとなく囚われているような感覚がある。Prisonerだし」
囚われている?口に出した言葉に心が引っ掛かった。何に?僕は、心の底では何かに囚われている、と思っているのだろうか。
彼女を見た。静かな表情。彼女も何かに囚われているのだろうか。
次に、僕が選んだ曲、ユーミンの『埠頭を渡る風』が流れると、彼女が少し笑った。
「なんだか、少し遠くに行っちゃうような曲だね」
「そうかも。でも、風に乗っていくような自由な感じもある」
「そうかもね。ねえ、知ってる?宇多田ヒカルもユーミンも1/fゆらぎの声なんだよ」
「1/fって?」
「簡単に言うとね、癒しのリズム。波の音とか木漏れ日の揺れとかあるでしょ。自然のリズム。ちなみにこのキャンドルの炎も1/fゆらぎ」
「へえ。そうなんだ」
彼女が炎を見つめた。力があるような、そうではないような。心は映さない瞳だった。
もしかしたら、彼女も僕に、同じように思ったかもしれない。
ショートケーキの苺を先に食べるか、最後に食べるかみたいに、僕たちの答えも時々ずれる。でもそのずれが、キャンドルの光のように揺らぎながら、僕たちを繋ぎ止めているようにも思えた。
キッチンからの甘い香り
ヤめてね、と母さん
ンふふ だってすごくいい匂い
ドントイート‼️えぇー美味しそうなのに
ルビーみたいなアンゼリカ乗ったケーキ
手作りケーキが得意な母さんの特製
ロウソクは歳の数にするか
年齢の数字にするか
そろそろ歳の数ではケーキが手狭
お供のお茶はわたしが支度
#キャンドル
クリスマスの夜に僕がいなくても寂しくないように
と言って彼が私にプレゼントしてくれたのは
モスグリーンのキャンドルだった。
深緑といえば私が好きな色。
なぜなら、彼がいつも身につけるモスグリーンの
星型のピアスの色だから。
あのピアスを見るたび揺れるたび
私は彼の優しさの象徴がキラキラしてるように
心が落ち着き、また前向きになれる。
暗闇の中でぼうっと炎が揺らぐ
僕はただそれを見ている
何時間くらい経っただろう。
ふと我に帰って時計を見てみると
2時間と少し過ぎていた。
こう時間を忘れて考えてしまうのは
明日の仕事のことだ
今日、大きな自分らしくないミスを犯してしまった。
故に明日行くのが少し恐ろしく思えてしまったのだ
明日取引先に謝らなければならない。
その事実だけが心に重く引っかかっている
だが、キャンドルの炎を見ていると
なんと言うか、少しばかり
虚無の時間ができる
考えることは考えるのだが、
瞬間では忘れることもできる
どうせ謝りに行く事実は変わらない。
もう少しの間、キャンドルを見て
現実から離れてみようと思う。
11/20
豆豆腐
キャンドル
お洒落な部屋で生活したいと言っていたら、ある日友人がキャンドルをひとつプレゼントしてくれた、と君が目の前で嬉しそうに話す。わずかに嫉妬心が孕んだのを悟られないように、自然な笑顔を拵えつつ、そうなんだ、と相槌を打った。
彼はその新しい刺激の一部始終をこちらに伝えようと懸命にボギャブラリーを駆使する。どのように受け取ったのか、どこに飾ったのか、いつ使ったのか、香りはどうだったか、次はどうしようかとか。しかしその全ては自分にとってはそれほど重要な情報ではない。君が嬉しいことだけは伝わった。でも、その笑顔を与えられたのは自分ではない。その事実が、安易に話題に乗ることを阻む。
聞いてる?と君は話の途中で窺う。聞いてるよ、と取り繕って答えた。些細な変化すらも伝わってしまう自分達の距離感を今だけは恨めしく思った。
「お前の部屋にあるの見てちょっと憧れてたんだよな〜」
「へ?」
今になって良さがわかった気がするわ〜とさっとスマホの画面で時間を確認して立ち上がり、さらっと爆弾を仕掛けてさっさと姿を消していった。
残されたのは暗澹たる思考をぶった斬られて、少しのいい気分だけ。なんて奴だろうか。
2024/11/20
キャンドル
キャンドルってろうそくのことだよなと思いながら文字を打ってたら予測変換のところにろうそくの絵文字が出てきてふふってなった。
一応キャンドルとろうそくが一緒か調べようと思ってたけど調べる必要はなさそうだ。
しかしキャンドルか。キャンドルってケーキに刺さってる印象しかないけどほかに使い道あるのかね。
昔だったら夜に明かりを灯すために使ってたんだろうけど電気のある現代で明かりとしてキャンドルを使うのはムード作り以外にないわな。
それにしても一昨日くらいからか急に寒くなったな。今日も電気毛布が活躍してる。本格的に冬に備える必要がある。
なので今日は冬用の服を買いにいこう。上着、アウターが必要だ。昨日夜勤いくときに冬用のアウターを持ってないことに気付いた。
今まで服というものに無頓着だったから気付かなかったけど俺の持っているアウターは秋用と真冬用しかないということに昨日の通勤中に突然気付いた。
今の季節は秋用では寒くて真冬用では大げさすぎる。冬用のアウターが必要だ。なので今日買いにいくことに決めた。
暗がりの中、不安そうに上目遣いでおれを見る少女。嵐で遭難し記憶喪失の彼女は、自分の名前も歳もわからないようだ。童顔の少女だと思う彼女は、おれが大柄なだけで、実は大人なのかもしれない。浜辺で倒れていたのは彼女だけだったから、もう何も知りようがない。
「大丈夫だ。」
おれは彼女の小さい頭をなでる。手の中で、彼女が動くのがわかる。
「待ってろ、今灯りをつける。」
おれはキャンドルを取り出して、火をつけた。
パッと暗闇の中に彼女の顔が浮かび上がる。
「これは?」
不思議そうにキャンドルを指す彼女。初めてなのか、記憶がないのかわからない。
「キャンドル。」
「ふーん。」
彼女はそのキャンドルをまじまじと見つめる。
「青くてきれいだね。」
彼女と出会って3日。初めて彼女の笑顔を見た。
「今日は何があった?」
「何も?」
彼女は何故か楽しそうだ。昨日まで無表情だったのが嘘のようだ。
そういえば、このキャンドルは今日たまたま浜辺で拾ったものだ。そのせいか、少し海の香りがする。
「何か思い出したのか?」
「ううん。でも、懐かしい匂いがした。」
「そうか。」
なんだかおれも嬉しくなった。
キノワシのお鼻。
しわしわのお肌。
アニメパープルのテント。
そこに
宇宙のほしのいろをすべてまぜたような
ひかりのいろの水晶。
きっと
これだけで脳みそが
ぐるぐるまぜまぜと、
あなたの絵本をつくりはじめる。
お題はろうそく。
物語にロウソクが登場してもいいし
ロウソクの灯りを見つめると
物思いにふけってしまう
そのこころの比喩表現として
物語を書くのも すてき
「アロマキャンドルは好きになれない」
透明のパッケージから出さなくても甘ったるい匂いを放っているアロマキャンドル。
私の誕生日に彼女がくれたもの。
くどい程の甘い香り。
だけどきっと、好きな人は好きな香りなのだろう。
そう、私の元カレとかね。
私には甘すぎる薔薇のような香りは、彼女そのもの。
私には似合わない。
一生、身に纏うことはない。
彼女が私にプレゼントしてくれたものは、何ひとつ私の趣味に合わなかった。
それなのに、男の趣味は同じだったのね。
見抜けなかった私がバカだった。それだけ。
好みの男を手に入れるためならどんな手段でも使うなんて、そんな人が現実にいるとは思わなかった。
狙った男を手に入れるため、その男の彼女と友達になるなんて、正気の沙汰とは思えない。
彼女がいつも纏っていた甘さしかない香り。
それによく似ている、ピンクのアロマキャンドル。
絶対に使わない。
でも、棄ててしまうのもなんだか悔しい。
物に罪はないとはいうけど、私は一生、アロマキャンドルは好きになれない。
────キャンドル
『キャンドル』
黒くて広々とした部屋の中にある、無数のキャンドル達。ぼんやりと灯る人々の寿命が、キャンドルの長さで明確にされている。そんな部屋で、黒いローブを身につけた男性が、笑顔でキャンドル達を見つめていた。そんな彼は、死神である。
「やっぱり、ここにいた」
キャンドルを見つめる男性の後ろから、同じ黒いローブを着た別の男性が声をかけてきた。そんな彼も、死神だ。
「その声は……んふふ、やっぱり先輩だー」
「んふふ、じゃないだろう。そろそろ仕事じゃないのか?」
「ひとっ飛びすれば間に合いますよー」
そう言って、後輩となる死神はキャンドルから目を離さなかった。先輩の死神は、ため息をついた。
「お前という奴は、本当にマイペースだな……」
「えへへー。ありがとうございますー」
「褒めてねぇんだよ、おい」
「あっ。先輩、見てください。このキャンドル、今、僕が担当している方のなんですー」
後輩が指をさしたキャンドルに先輩が目を向けると、それはキャンドルと言うにはあまりにも短過ぎるもので。ミリ単位のキャンドルに、赤い火がゆらりゆらりと弱く灯っている。
「そろそろなのか」
「はいー。もうすぐなんですよー」
「……お前、本当に間に合うのか」
「なるよーになりますー」
のんきなのか、ポジティブなのか――後輩は眩しい笑顔で言った。先輩の呆れが表情からうっすらと見える。
「……先輩。人間の寿命って、儚いですよね。もし、今ここで僕がこの火を消しちゃえば、すぐにすーっと死んじゃいますもんね」
さっきまで明るく話していたのが嘘のように、急に後輩は静かで真面目なトーンで言った。それに応え、先輩も真面目になる。
「……あぁ。だから、この部屋のキャンドルの火を消す事はご法度。もしやったのが分かれば、お前も消されるぞ」
「んふふ。先輩、安心してください。消しませんよー。だって、人間含め、どんなものでも、命は尊い存在ですからー」
手を広げ、教祖のように話す後輩。その姿を見て、先輩は微笑んだ。
「……お前が連れてくる人間、誰もが晴れやかな笑顔で天界に行くんだよな。その秘訣、聞きたいもんだ」
「へっ? やだなぁ、先輩。僕はなーんにもしてないですよー。普段通り、仕事をしてるだけですからー」
「その普段が知りたいんだ、皆は。死にたくなくて暴れ狂う奴だっているのに、お前がやるとそれがない」
「えへへー。先輩から褒められちゃったー。その褒め言葉を胸に、僕はそろそろ行きますねー」
ふにゃりと笑いながら、後輩は部屋を出ていく。その様子を見守ってからも、先輩は部屋でキャンドルを見ていた。
「……あんな言葉も眩しい死神を見たら、そりゃ晴れやかだよな」
先輩はそう呟いて、後輩が担当している人間のキャンドルを見る。ミリ単位のキャンドルはゆっくりと溶けて、全てが液になり――弱かった灯火も、泡沫のようにフッと消えたのだった。
テーマ キャンドル
キャンドルのともしびを
君と見ていたい
君の瞳に映る炎を
見ていたい
あたたかい炎の色が
二人を照らして
暖まろる
「お誕生日おめでとうー!」
そんな声とともに、ケーキの「キャンドル」の火を吹き消す。
今日は11歳の誕生日。
最近は寒くなってきたけれど、大好きなチョコケーキを食べると少し元気が出る気がする。
11月20日産まれの私の、産まれた月と同じ年齢になる日。
暖かい電気の灯りとチョコケーキに元気づけられて、1年頑張れるようにと願った。
ゆらゆらして
初恋みたいに
切ない灯り
燃え尽きるまで
付き合ってね
キャンドル
#キャンドル
街のあちこちで見かける、秋のキャンドル。
公園で、ご近所の庭で、郵便局の入口で。
全力で走ったのに間に合わなかったバスの、停留所のベンチにへなへなと腰を下ろしたら、傍に咲いた真っ赤なケイトウが、炎を揺らして笑っていた。
「キャンドル」
久しぶりに灯す
くどいほど甘い香り
微かに揺らめく心に
蜃気楼がうつった
キャンドルの灯りと、蛍光灯の明りでは、何が違うのだろうか。私が部屋を初めて賃貸で借りたとき、室内で真っ先に決めたのは、「温かみのある照明にすること」であった。
それは白く光った蛍光灯ではなく、白熱灯のことであるが、その温かみのあるキャンドルの灯りのような色あいは、全てを明るみにさらすのではなく、何かを内包して、そっと肯定してくれる。空間によって人は安心を得たり、反対に不安にもなると思うが、温かい色あいの灯りの下、安らいだり、ほっとして眠くなるような人は、私以外にもいるのではないかと思う。
どんなところにいても、どんな生活でも、その灯りのように、火の温かさのように。