『やるせない気持ち』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
僕の友達
僕は、友達のおかげで学校生活が楽しい。
幼い頃から聴力を失った。これからは、補聴器と人工内耳をつける生活になった。普通の人とは違う特別な人間。それで地元の友達と仲良くなれるかとても不安だった。あるいは、怖かった。友だちと初めて会った時、僕は、「自分は他の人と違って耳が聞こえない人だから仲良くしてくれないだろう」と思ってた。しかし友達は、耳が聞こえる、聞こえない関係なく仲良くしてくれた。嬉しいと同時に驚いた。そこからずっとお話をしたり、たまには喧嘩をしたりした。小学校に入っても勉強をしたり、運動などをしたりした。たまには、後輩や先輩からいじめられた時があったが友達が、守ってくれた。これが永遠に続いて欲しいと願っていた。しかし小学校卒業式の日。僕は、聴覚支援学校に行くことになった。友達と離れ離れになるのは、少し悲しいと思い泣いた。ずっと泣いた。泣いても自分は変わらないと思い、切り替えた。数日後、聴覚支援学校の入学式、緊張しながらやった。聴覚支援学校は、手話を使いながらコミユニケーションをとるので、僕はまだ手話が分からなかった。先輩や同じ歳の生徒と話せなかった。幼い時よりも不安が大きくなった。しかし同じ歳の生徒から手話を教えてもらってくれた。心の中でホッとした。沢山練習してやっと手話ができるようになった。そして先輩達と沢山コミユニケーションをとれるようになった。中学生になると部活もあり大変になってくる。僕は陸上部に入った。同級生も自分と同じ陸上部に入った。でも僕は同級生とまだコミユニケーションはとれなかった。人見知りが激しい自分は、頑張って話しかけた。最初は、緊張で話す内容は少なかったが、少しずつ親しむようになり話す内容が増えて仲良くできた。最近は、勉強の内容が難しくなったり、部活の練習が厳しくなったりして学校に行きたくないという気持ちが大きくなった。心が折れそうになった時、友達が僕を笑わしてくれた。また面白い話をしてくれた。そのおかげで行きたくないという気持ちが行きたいという気持ちに変わった。それからずっと学校生活は楽しいと感じてる。
「やるせない気持ち」
やるせない気持ちになった時、私は髪を切りたくなる。
バッサリと軽くしたくなる。
多分、自分の気持ちを髪に預けてるんだと思う。
切り離すことで、気持ちは床に落ちていく。
そうすることで、気持ちを切り替えてるのかもしれない。
やるせなくなった時、私は髪を切る。
もう切る髪が無くなってしまいそうだ。
高校に入学して3ヶ月。
クラスの男子が転校した。
莫大な量の課題やあまりにハイペースな授業についていけず、精神がまいってしまったそうだ。
何にも気づいてやれなかった自分に、行動できなかった自分に腹が立って、やるせない気持ちになった。
"ここはそういう学校だから"
"彼にはあってなかったんだよ"
そう言ってしまえばそれまでだが、あまりに薄情すぎやしないか。
彼はとても真面目だった。
きっと全てを完璧にこなさなければいけない、と思っていたのだろう。
そして、迷惑をかけまいとぎりぎりになるまで誰にも相談しなかったのだと思う。
特別仲が良かったというわけではないが、
ある学校の行事で話すタイミングがあった。
5人ほどで最近の学校生活について他愛も無い会話をしていたのだが、ふとあいつが
"もう疲れちゃったな"
しんどさを隠すような笑顔と一緒にそうこぼしていた。
周りは、本当にそうだよなって、課題多すぎるよなって
そう言って流していたが僕は彼の言葉に少し違和感を感じていた。
でも、次の瞬間にはもういつもの彼に戻っていたので、気のせいかと考えるのをやめてしまった。
今思えば、きっとこの時にはもう彼は限界で、
この言葉は彼なりのSOSだったのかもしれない。
その次の日から彼は学校に来なくなった。
もし彼が同じ選択をとったとしても、
あの時声をかけていたら、彼の負担を少しでも取り除いてあげられるよう行動できていたら、少しは変わってたのかなと考えてしまう。今更何を思ってももう遅いが。
人間誰しも何かを抱えて生きていると僕は思う。
そんな中で僕ができることならその人に精一杯寄り添ってあげたいと思う。他の人に何を言われてもいいさ。
せめて自分の手の届く周りの人たちだけでも守れるようになりたい。
2度とこんなことにならないように。
ーやるせない気持ち
やるせない気持ち
私はA高校に通っているただの女子生徒の凪。私はいつも5人のグループでいつも一緒にお昼を食べたり、放課後遊んだり楽しく学校生活を送っている。いや、送っていた。
でも最近ね、"送る"が現在進行形から過去形になってる気がするの。1対4になってる気がするの。気のせいなのか分からないけど4人でどんどん会話が進み私だけワンテンポ遅れてるみたいなの。
(あー。また今日もだ)
また明日も明後日も続くのかな。
街へ行かないか?
珍しく君が誘ってきたものだから二つ返事で着いてきたものの、二人だけという状況に心臓がばくばくしてる。
止まれ僕の心臓!いや、止まるな死ぬとか1人謎の問答をしていると少し余裕が生まれた。
そして余裕の生まれた僕は、折角の機会だから手を繋いでも良いのではないか?とか思ってしまい、
少し前を歩く君の手を握った。
その手は握り返される訳でもなく、一瞬君の肩が揺れた気がしたがその後はピクリとも動かなくなってしまった。
もしかしたら気持ち悪がられた?
そういえば僕、直接好きとは言われてない。
勝手にお互い好き合ってると思っていだがまさか、友情的に僕を好きだった、とかだとこの状況はまずい。
どうにかして誤魔化さなければ!と君の顔を恐る恐る覗き込むと反対の手で顔を隠しているけど耳まで真っ赤にしていたものだから、僕の先程まで感じていた焦りや不安ややるせない気持ちとか全部飛んでいった。
やるせない気持ち
・やるせない気持ち
通販サイトから荷物が届いた。中身は定期購入している猫の餌だった。
「すっかり忘れてたな……」
ダンボールから餌を取り出し、私はそれを彼女の前へと運ぶ。
出会った頃よりすっかり小柄になった彼女は、大好物の餌を前にしても鳴き声の1つさえあげてくれなかった。
「……あと数年はこの餌を買うつもりだったんだよ」
ザラザラした身体を撫でながら文句を言ってみる。それでも彼女は返事なんてしてくれなかった。
「これ……どうしようかな」
49日を過ぎた今、餌をあげる相手が居ない私は未開封の餌と小さな骨壷をボーッと眺めていた。
やるせない気持ち
(本稿を下書きとして保管)
2024.8.24 藍
《やるせない気持ち》
「うう…いちごが食べたい…。」
正午を知らせる鐘が鳴り響き、休憩時間に入った直後。
いつも通り本部の彼の執務室で闇の者として監視されながら過ごしている私は、今朝からのもやもやとした気持ちを吐き出した。
それというのも、昨日の夜に雑誌で見かけたいちご特集が心に突き刺さって、いちごが食べたくて仕方なくなってた。
なので、今朝の朝食は最後の一回分残されてたいちごジャムをトーストに塗ってわくわくしながら口に入れようとしたら。
手を滑らせてしまいました。
しかもテーブルの上ならまだしも、床の上に落ちちゃって。
その瞬間は、数時間たった今でもスローモーションで蘇る。
あれは、切なかったなぁ。
ジャムも切れてたし、しょうがないので今朝はチーズトーストに切り替えたんだけど、すっかりいちごを味わう気分でいたので今もそれを引きずってる。
「もう、口の中がいちごしか受け付けなくなってる…。」
もう本当にやるせない。
すると彼の机の方から、トントンと紙の束を揃えるリズミカルな音がした。
「無性に食べたいと思っていた物が食べられないのは、すっきりしませんよね。」
彼は揃え終わった書類を丁寧に机の上に置き、椅子に座ったまま軽く組んだ腕を頭上に上げて背中を伸ばしていた。
同意してもらえて心は慰められたけど、口は慰められない。頑固な味覚、辛い。
背中を伸ばし終えた彼が、椅子から立ち上がりながら私に声を掛けた。
「いちごジャムは帰りに買っていくとして、まずは食堂で昼ご飯を食べましょう。」
確かにここで腐っていても仕方がない。
私は頷いて、彼の後に着いて食堂に向かった。
今日は早めに入れたからか、昼とは言え食堂はまだ人もまばらだ。
それでも、メニューを張り出してる壁の前には兵士達の人垣が出来ている。
私は背が低めなので人垣の隙間から今日のメニューを見ようと首を伸ばすと、背の高さから先にメニューを読めた彼が私に教えてくれた。
「よかったですね。今日限定のデザートは、いちごパフェだそうですよ。」
え? 本当に?
「果物を特産としてる国から仕入れる事が出来たみたいですね。季節柄量は無いので今日のみの限定のようですが、タイミングがよかったじゃないですか。」
「はい! やった、これでいちごが食べられる!」
ふあぁ。本当、最高のタイミング!
私は昨日からのいちごの味覚を満足させられると思うと、気分が最高潮になって頬が緩んだ。
しかも、パフェ。そのままのいちごもだけど、アイスやクリームと組み合わさったいちごのソースや果肉を想像しただけで、もう幸せになれる。
メニューを見ていた彼が私に顔を向け、くつくつと笑い出した。
「先程までの意気消沈ぶりが嘘のようですね。」
だって、ねぇ。
「昨日からのいちごの味覚が満たされますからね。当然ですよ。」
なんて話をしていると、メニューを見に集まっていた兵士達の視線がこちらに集まる。
確かに彼は、あまり人前で声を上げて笑ったりしない。
真面目な彼はいつも表情はあまり崩さず、誰かと話す時も表情を和らげたり微笑みはするけれど、声を上げて笑うのは珍しいかな。
でも最近は、私が何かやらかすとこうして笑われたりする事が増えたから、私は結構慣れている。
まずはやらかすなって話ですね、ごめんなさい。
まあそれはともかく、集まった慣れぬ視線にむずむずした気持ちを抑えていると、メニューに夢中になっている兵士の声が聞こえてきた。
「お! 今日は3日煮込んだカレーだってよ!
しかも量が1.2倍のサービスだと!」
…はあぁ!?
3日煮込んだカレー! そんなの美味しいに決まってるじゃない!
「もうご飯はカレー、デザートはいちごの味覚に固まっちゃった…。」
でも、1.2倍は…少し量が多いかな。パフェと合わせて食べ切れるかどうか…。
ぽかんと口を開けながら考え込んでしまった私の横で、彼が私を見続けまだくつくつと笑っている。
もう、笑いを噛み殺してるレベルで。
「本当に…くくっ…忙しい人ですね…。」
うう。なんか、悔しい。
よし、決めた。
「カレーとパフェ、食べます! 今日の夕飯は軽めで抑えます!」
ここは私の味覚を信じる!
お残しだけは絶対にしません。頼んだからには、食べ切ってみせます。
お腹と…カロリーの事は食べ終わってから考えよう。
私は、腰の両脇で拳を握りしめた。
決意の表明、というものです。
いよいよ自分のお腹に手を当て口元に拳を添えて身体を震わせている彼は、そんな私を見て一言。
「今日の午後休憩には、軽いトレーニングを入れた方がよさそうですね。」
その瞬間、私の思考は完全にストップして、両脇の拳を緩めて脇腹を突付いた。
そんな私を見て身体を震わせ続けている彼は、もちろん軍人としての基礎訓練も欠かしていないので脇腹に余計な肉などない。
そんな私達の様子をまだ見ている兵士達からは、ざわざわひそひそという声も聞こえ始める。
それは珍しいでしょうね! 彼がここまで笑いを堪えてるとか!
現実は、厳しい。
私はまた心を襲った凄まじいやるせなさを紛らわそうと、大きく肩を落として溜め息を吐いた。
「やるせない気持ち」
トポポポポ…流れていく。流されていく。さまざまな液体が。
カシャカシャ…カッカッカッ。
一方、ビニール袋に溜まっていくのは、いろんな要素が混じり合ったべったりもったりとしたなにか。
ああ…これは軽井沢旅行でおみやげに買ったアボカド入りのタルタルソース…あんまり美味しいから、もったいぶってとっておいたんだっけ…。
…こっちは、いつもポン酢だからたまにはと思って買ったゴマだれ…結局1度しか使わなかったなあ……。
はっ…!こ、これはお中元でもらった野菜ジュースの残りじゃん…まだ残ってたんかこれ…体にはいいかもしれんけど、味はイマイチだったんだよなあ……。
賞味期限が切れた冷蔵庫の肥やしたちを、さまざまな思い出を脳裏に蘇らせながら、罪悪感混じりのやるせない気持ちで流していく。
ごめんなさいごめんなさい。
正解はないのに、
正解を探している間、
ずーーっと持てしまう
不快感
今はもう
このままで終わってしまうことが見えている
自然消滅という
やるせなさが
僕の心にわだかまる
何かできることはないかと
空元気は虚空を彷徨う
僕はどこまでも
好きだった
けどそれは
独り相撲で終わりを告げる
寂しさが
込み上げて
僕は仕事に集中する様にして
だけど心は
上の空だった
何とかならないか
でも今更
僕らが付き合いだしたのは
ちょうど二年も前のことだったろうか
だんだんと心の距離が離れて行ったのは
付き合い
一年経って少しして
彼女が僕に相談しないで転職してからだった
彼女はもう別の人に見える
どうにも出来ない
何とかならないかな と
感じていた
心の溝が埋まることはなかった
僕は一人で
近々
歩き出すのだ
「別れよ」
「えっ何で...?」
「じゃあね」
彼氏と別れてしまった急だったし信じられなかった
何がいけなかったんだろうか
音楽を聞いたって、推しのライブに行ったって
思い出してしまうあぁこれがやるせない気持ちなのかな
1週間後元彼は肺炎で亡くなった
題名「やるせない気持ち」
水泳部といっても、泳ぐだけじゃないんだなぁ。
体験入部でランニングをさせられた私は思い知った。
小学生時代は帰宅部で部活動経験のない私は、ついていくのがやっと。だが体を動かすこと自体は好きだし、プールも楽しい。
ただ、例の先輩が私を特別視していることも明らかになった。
他の新入生には特に口出ししないのに、私にだけは厳しい口調であれこれ指示を出してくるのだ。
筋トレのサポートや泳ぎについてはともかく、掃除とか雑用のやり方にまで。挨拶の声が小さいとも言われた。他の子と同じくらいの大きさだったと思うんだけど。
いじめというほどではないが、明らかに目の敵にされている。
私は先生に何と報告しようか悩んだ。ワンチャン、私のためを思って厳しくしてくれている可能性もあるからだ。
だが、そんな私の淡い期待は、すぐに覆されることとなる。
部室に忘れ物をした私が走って戻ると、すぐに帰らず駄弁っていた先輩方の声が聞こえてきた。なんとなく立ち止まって会話に耳を澄ます。
「お前やけに気にかけるじゃん、岡野のこと」
突然自分の名前が出てドキリとした。
「別に、んなことねぇけど」
例の先輩の声だ。
「いやいや、絶対気にかけてる。もしかして好み?」
「ちげーよ!」
「怪しいな〜。あの子けっこう可愛い顔してるしな」
「だからムカつくんだよ。ライバルとして」
「ライバル?? お前のが断然速いだろ」
「いや、泳ぎじゃない。まぁ、今度話すよ」
そろそろ帰ろうぜ、という声が聞こえたので慌てて身を隠した。先輩方の姿が見えなくなってから部室の戸を開く。
私が先輩のライバルとは、どういうことなのだろう。水泳とは無関係なライバル。まったく心当たりがない。
でもひとつわかった。あの人私と同類なんだな、恋愛においては。
私は忘れ物を引っ掴むと急いで家路についた。
体験入部期間終了後、私は水泳部と弓道部に入部届を提出した。ちょうど練習日がズレていて助かった。例の先輩も、私が掛け持ちすることは気にしない様子だった。
入部後最初の部活動。水泳部はまず各々の実力を見たいということで、タイム測定から始まった。先輩は相変わらず私にだけ「遅いぞ岡野! ちゃんとやれ!」などと声掛けしてきた。
ただ泳ぐだけならまだしも、先輩からの圧にメンタルを削られクタクタになる私。同じ1年の部員からも心配される始末だ。なぜ私だけ怒られるのかみんなに訊かれたが、それはこっちが訊きたい。
新人のタイム測定が終わり、先輩たちの番になった。スピードだけなら並べる1年生もいたが、フォームが断然美しい。自分たちも1年頑張ればああなれるのかな、と羨望の眼差しで見つめる後輩たち。
私もそのひとりだったが、最後に大会出場メンバーが泳ぐことになって、あまりにも格が違うことにビビらされた。どうしたらあんなに速くなれるんだ。本当に人間か?
中でも別格だったのが、あの先輩だった。聞けば水泳界ではかなりの有名人らしい。泳ぐというより羽ばたくようなバタフライ。新人だけでなく2、3年生までもが思わず嘆息を漏らした。
ますますわからない。あんなに凄い人が、なぜ私を注視するのか。本来なら眼中にない存在だろうに。
「おい岡野」
泳ぎ終わった後、彼は私の前を横切りざまに囁いた。
「片付け終わったら俺のとこに来い。特別練習だ」
私はもはや天を仰ぐことしかできなかった。
みんなが解散した後、私は言われたとおり先輩の元へ馳せ参じた。着替えるなと言われていたために下は水着、上はTシャツである。
同じ格好をした先輩が私を見て立ち上がった。
「よし、逃げずに来たな」
「……何をするんですか?」
「勝負だ、岡野。先生を賭けて」
「先生?」
顧問の水谷先生のことだろうか。別に贔屓された覚えはないが、何かこの先輩には気に触る部分があったのだろう。
「あの、水谷先生なら先輩のほうが気に入られてるかと」
「水谷じゃねえよ、とぼけんな。ヨリ先生だ」
「ヨリ、せんせい……」
まさか、この人。
「高遠頼広。お前の家庭教師だろう」
ああ、この人が、先生が言っていたもうひとりの教え子。
最悪だ。
「あなたも好きなんですね、先生のこと」
「お前より前からな。後から出て来て横取りは許さん。勝負だ」
「ちょっと待ってください! 私が泳ぎで先輩に勝てるわけないじゃないですか!」
それはあまりに理不尽すぎる。
「安心しろ、お前にも勝ち目のあるルールにしてやる。来い」
先輩は足元に置いてあったバケツを掴むと、プールへと歩いていった。
プールサイドに立ち、バケツの中身をぶちまける。緑色の細長い物体が水の底に沈んだ。
「何やってるんですか?」
「今撒いたのは細かくカットされたホースだ。全部で50本ある。1本につき1点として、2人で潜って、より多くのホースを拾って得点を稼いだほうの勝ちだ」
「でもそれだと、やっぱり水に慣れてる先輩のほうが有利では」
「俺はお前がスタートした10秒後から始める。加えて、ホースの中には赤いテープが巻いてあるのが5本ある。お前が拾った場合のみ、5点分としてカウントしてやる」
「な、なるほど」
先輩が25本集める間に、私はテープ付ホース5本+普通のホース1本を拾えれば勝ちということか。
「じゃあ、準備はいいな」
「……はい」
「よーい……スタート!!」
水中に顔を沈め、プール全体を見渡す。とにかく最初の10秒で赤いテープを拾わねば。
しかし赤テープ付ホースはいい感じに散らばっていて、10秒間では2本拾うのがやっとだった。息も限界だ。
私が息継ぎのため浮上するのと引き換えに、先輩は潜水を開始した。
慣れた動きで次々とホースを拾っていくのがわかる。
やばい、この調子じゃ10本分のハンデなんてすぐ埋められてしまう!
私は焦って再び潜ったが、赤いテープはもう見当たらなかった。先輩に拾われてしまったらしい。仕方がない、普通のホースをなるべくたくさん拾わなければ。
私は夢中でホースを拾ったが、先輩はより効率的に集めていく。焦るばかりで息が持たない私とは裏腹に、先輩は長く潜ってもまったく疲れを見せない。
結果として、私は20点、先輩38点。私は大敗を喫した。
「これでわかったか、先生に相応しいのは俺だ」
「……っ、いいえわかりません。先生は私のような生徒を持って幸せだと言ってくれました!」
「ちっ、お子様が。いいか、長く息を止めていられるってことは、長くキスできるってことだ。そっちのほうが先生を満足させられるに決まってんだろ」
私は突然出てきた「キス」という単語に動揺した。顔が火照っているのを感じる。
「フン、この程度の話で赤面するとか本当にガキだな」
「せ、先生は淫らなタイプじゃないし、以前好みを訊いたら、私みたいな清純派がタイプだと言ってました!(大嘘)」
「なっ!?」
今度は先輩が動揺する番だ。へへ、ざまあみろ。
「と、とにかく大人の先生の相手は、お前みたいなガキには務まらない! 他の家庭教師に代えてもらえ!」
「嫌です! 先生は渡しません!」
「くっ、負けたくせに生意気な。先生の家にまで行きやがって」
「家? ああ、それで私の顔を知っていたんですね」
「そうだ。美術館で偶然すれ違った時に聞こえちまった」
「ふふん、私と先生はおうちデートをする仲なのです」
「で、でーと!? 勉強会とかじゃなかったのか!」
「あの日は勉強してません。1日中先生と熱い時間を過ごしました(オセロに熱中してた)」
先輩は私の発言にワナワナと唇を震わせた。が、すぐに取り繕って切り返す。
「ふ、ふん……ホラ吹いたって無駄だぜ。あの徳のある人が未成年に手を出すワケがない。1日子どもの面倒を見ただけ。ただのベビーシッターだ」
「ぐぬ……」
「……まぁいい。先生の収入のためだ、教え子でいることは認めよう。ただし負けた代償として、先生の家に行くのは禁止だ。いいな」
「……いつか、リベンジしますから」
「受けて立つ。俺の名は嗣永颯人、欲しいものはすべて手に入れる男だ。覚えておけ」
先輩はそう言って用具室へ入っていった。ホースを片付けるんだろう。
一方私は思いもよらないライバル登場に、どうにも表現し難い気持ちを抱たまま、更衣室のドアを開けた。
テーマ「やるせない気持ち」
僕の遣る瀬無い心情を知りたいのですか?
照れますね。まぁいいですよ。
しかし条件があります。日本にいる僕という人間を探してみてください。そしたら語りましょう。
〝やるせない気持ち〟
悲しいニュースとか暗いニュースを見ると、なんか「なんで全員が幸せになれないんだろうな」という何とも無謀なことを考えてしまう。
こんなん理想論というか綺麗事でしかないのに。
「全員幸せになれたらいいのに」と思いつつ私は特に何か行動に移してる訳でもないし、他人事だから無責任なこと言えるんだろうなという感じもするけど。
それに多分この漠然とした考えは自分の幸せの上に成り立つんだろうなと言うか。きっと気分が落ち込んでる時はこんなこと思わないはず。何が言いたいかっていうと私もわからん。
今日のお題。やるせない気持ち。
…このお題を見てインスピレーションが湧かねえ…やるせないってこういうことか
『やるせない気持ち』
見ていることしかできないことがたくさんある。駅の隅に段ボールを敷いて眠る人を見たとき。小さなこどもが親に暴言を浴びせられているのを見たとき。道に横たわって動かない猫を車が避けて通るのを見たとき。世界に目を向ければそれこそ果てのないぐらい。
さまざまなものを見て胸にわだかまりを自覚するのは、自分ではどうしようもないことだからなのか、それとも自分がいつかはあれをする、またはされる可能性があるからなのか。答えは出ない。ただやるせない。
「やるせない、遣る瀬無い。去年は『自分の名字のルーツになっている花が、一部の無思慮のせいで悪役認定されてる人の気持ち』みたいなネタ書いた」
去年も難産だったお題だわな。某所在住物書きは今年も相変わらず、この難題にため息を吐いた。
言葉の意味を辿れば、「渡れる(川や海等の)浅瀬が無い」が文字通りの意味と思われる今回のお題。
転じてどうしようも無いこと、思いを晴らす術が無いこと、気持ちに余裕が無いことを言うようだ。
「転売ヤーへの恨みでも書くか? やだよ俺、日曜の真っ昼間からそんなモンと向き合いたかねぇよ」
ある意味、今のこのどうしようも無い状況こそ、「やるせない気持ち」とも言えるか。
再度ため息――で、今回の物語のネタは?
――――――
最近最近のおはなし。都内某所での一幕。
静かな小さい書店で、ひとりの雪国出身者が、近所の稲荷神社の子供とその友達の手を引き、スイーツ本の棚を目指している。雪の人は名前を藤森といった。
「昨日たべたお菓子、おいしかったの」
コンコン。稲荷神社の子が言う。
「作ってあげたいけど、おとなの本は、難しい漢字ばっかりだから分からないよ」
ポンポコ。神社の子の友達が(彼は和菓子屋の子であった。ともかくその子が)言う。
間に挟まれている藤森はつまり彼等の翻訳家。
目当ての菓子のレシピが書かれた本を探し、それを購入して、材料と分量と作り方を子供にも分かるよう解読するために呼ばれた。
自室に難しい本を収蔵する藤森は、神社の子と和菓子屋の子に「本に詳しい人」と認識されていたのだ。
私にも用事があったのだが。藤森は胸中で抗議。
誠実でお人好しで根が優しい藤森は、ご近所さんのコンコンポンポコからの要請を断れなかった。
仕方がない。どうしようもない。
「やるせない気持ち」とはこのことかもしれない。
とてとてとて、とてとてとて。
おてて繋いで料理本コーナーに到着した御一行。
「よぉし!さがせー!」
「新しいお菓子だ。やさしい甘さだけどお肉の味もするってことは、きっと伝統菓子じゃないよ」
子供たちは、片や宝物を探すように、片や手がかりを探すように、それぞれ棚から本を引っこ抜く。
藤森は書店の奥、医療や脳科学等々のコーナーに己の友人を見つけた――菓子作りが趣味の付烏月だ。
『同じ書店に居る。ちょっと助けてくれないか』
スマホでメッセージを送ると、数秒してきょろきょろ周囲を見渡した付烏月と目が合った。
『肉の味がして砂糖不使用、子狐でも食べられる甘い菓子を探している。付烏月さん、心当たりは?』
ここでネタばらし。非現実的で非科学的だが、稲荷神社の子と和菓子屋の子は化け子狐と化け子狸。
人に化ける妙技を持つ一族の末裔なのだ。
神社の子狐は「昨日」、メタいハナシをすると前回投稿分で、それはそれは美味な「菓子」を堪能した。
和菓子の見た目をしたそれの素晴らしさを子狸に共有したところ、「作ってやりたいが肉入り和菓子を知らぬ」、「自分の知らない創作和菓子に違いない」と力説。真相を突き止めるべく、藤森を呼び出した。
『子狐でも食べられて、甘くて、お肉?』
床に座ってお菓子の本を見るコンコンとポンポコを尻目に、藤森のスマホに返信が届く。
これが美味そう、それが美しいと、目を輝かせている子供2名は幸福の真っ只中だ。
『ペット用のお菓子じゃない?』
それならお前の居るそこじゃなくて、隣の棚だよ。
付烏月は藤森を見ながら、つんつんつん。
右隣へ移動するように、人差し指で示した。
藤森は情報の礼に頭を下げ、小さく右手を振る。
そりゃペット用スイーツなら肉を使うだろうなと。
「お肉をお菓子に使うなんて、おもしろい」
「おいしかった。すごく、すごくおいしかった」
「それの作り方をおぼえれば、僕も、いいシュギョーになる。ぜったい見つけたい」
「しさくひん、たべる!作るときは呼んでっ」
コンコンコン、ぽんぽこぽん。
藤森と付烏月のやり取りも知らず、稲荷神社の子供と和菓子屋の子供は「肉を使った和菓子っぽいスイーツ」を探すべく、大きな本のページをめくる。
(事実を教えてやるべきだろうか)
彼等の感動を壊さず情報を伝える手段が無い、方法を知らない、どうしようもない。
かりかりかり。やるせない気持ちの遣り場に困った藤森は、唇をキュっと結んで、首筋を掻いた。
結果として30分ほど粘ったものの、案の定、神社の子と和菓子屋の子は、目当てのレシピが掲載された文献を見つけられなかった。
藤森はこっそり「それっぽい書籍」を購入したが、彼等に公開すべきか否か、数時間悩み続けたとさ。
『やるせない気持ち』
悲しいとか辛いとか
行き場のない、紛らわすことのできない気持ち。
あまりメディアに触れないのは
他人の辛さに共鳴してしまうから
子どもの頃、想像力(空想力)が豊か過ぎると言われ
大人になってから、ネガティブなほうだけ
その想いが加速する
そして、勝手に辛くなったり
息苦しいとか
悲しみの涙を流したり
けれど、もしかして
わたしが誰かために涙を流すように
私のやるせなさを引き受けて
一緒に辛くなってくれる誰かが
どこかにいるのかも知れない
そう思うと少し救われる
せっかく海へ来たのだから、シーグラスでも探してみようか。それは、綺麗な物だけど、誰かがやるせない気持ちで飲んだくれて置いていた感情と瓶の作品、なんてこともある。まぁ、不法投棄はいかんのだがな。