『どうすればいいの?』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
落ち着けば
分かるのに
必死だと見失う
簡単なことなのに
分からなくなる
面白いね
“どうすればいいの?”
その答えは常に自分の中にある──
(2023.11.21/どうすればいいの?)
お題 どうすればいいの?
今朝から大慌てで支度する。朝飯食べる余裕が無い。
そんな日に限って忘れ物。携帯忘れてライブ会場へ着く。
今時のチケットはスマホにダウンロードが主流だ。そのよりにもよって大事なスマホを家に置き去りしていたなんて。
いったい私はどうすればいいの?
「その日のお題見て、『どうしろってよコレ』ってやつだったら、ひとまず2択だわ。散歩とか家事とかして頭をリセットするか、諦めて寝るか」
夏物片付けて、冬物出して、そしたら今日の最高気温が最高気温で。どうすればいいの。
某所在住物書きはスマホで週間天気を確認しながら、氷入りの清涼飲料を口に含んだ。
もう、良いだろう。もう夏服は大丈夫だろう。
それでも来月夏日が来たら、どうしよう、開き直ろう。
「次回のお題はどうなるだろうねぇ……」
ひとまず、今回のお題はこれで終了。
次の配信は、約2時間半後である。
――――――
早朝の某国騒動、完全に寝ぼけた目で首相官邸のSNS投稿を見たせいで、
「内閣官房長官声明を発出」を
「内閣官房長官 を発射」と空見してしまった件、どうすれば良いのでしょう。放っておきましょう。
そんなこんなの物書きの、以下は苦し紛れで童話風なおはなしです。
最近最近の都内某所。深い森にいつか昔の東京を残す、不思議な不思議な狐の稲荷神社がありまして、
敷地内の一軒家には、人間に化ける妙技を持つ本物の化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その内末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、稲荷のご利益豊かなお餅を、ぺったん週に1〜2回作って売って、絶賛修行中。
今年になって、ようやくひとりだけ、人間のお得意様ができました。
さて。
今日のコンコン子狐は、この暖かい小春日和だか小夏日和だかな昼下がり、
モミジとイチョウの落ち葉の布団で、ふかふかコンコン、お昼寝しようとしたのですが、
敷地で落ち葉を集めていたら、悪い参拝者が捨てた、カプセルトイがカプセルごと、ひとつ落ちておりました。
ダブったのでしょう。あるいは、目当ての物でなかったのでしょう。
丸くて赤くて透明な、おなじみのカプセルの中には、
キラキラ、レジン素材かアクリル素材か、日光反射して輝く星型のチャームが入っておりました。
ご紹介が遅れました。
この子狐、キラキラ光るものが大好きなのです。
「キラキラだ!」
コンコン子狐、カプセルの中身が欲しくて欲しくて、それはもう欲しくてたまりません!
「おほしさまだ!」
ガチャをやったことがない子狐、カプセルの開け方を知らぬのです。
狐のするどい牙でカジカジ、一生懸命噛みますが、割れもしなければヒビも入らず、
結果、あごが、疲れてしまいました。
「なんで、なんで?」
自慢の前足で、小ちゃな爪で、タシタシタシ。引っ掻いてもみるのですが、
カプセルはツルツル、滑るばかり。
「割れない。なんで?どうすればいいの?」
牙で噛んでも、爪で掻いても、びくともしないガチャのカプセル。
『人間が作ったのだから、人間なら開けられる』
コンコン子狐、いっちょまえに考え、閃きまして、
「おとくいさんに、持っていこう」
夜、たったひとりのお得意様のアパートへ、カプセル持ってエマージェンシーな要請にゆきました……
――「これの中身を、取ってほしい?」
不思議な稲荷神社のご近所、某アパートの一室。
コンコン子狐唯一のお得意様、名前を藤森といいますが、明日のお仕事の準備を黙々ぼっちでしていたら、
コンコン子狐やって来まして、カプセル差し出し「どうすればいいの?」です。
「私しか、頼れなかったのか」
「ととさん、かかさん、お仕事だもん。おじーじとおばーば、参拝者さんのごきとー、ご祈祷だもん」
「『仕事』、」
「ととさん、病院で、かんぽーい。かかさんはお茶っ葉屋さん。ちゃんとのーぜー、してるよ」
「狐が、納税……」
狐が喋っているだけでも随分だが、どうやら妙な物語の世界に迷い込んでしまったらしい。
藤森ため息吐きまして、でも子狐があんまり一生懸命お願いするので、
歯型に爪痕クッキリなカプセルを、一応除菌シートで拭いてから、勿論この子狐がエキノコックスも狂犬病も対策済みなのは知っていましたが、
パカリ、それを開いてやりましたとさ。
おしまい、おしまい。
どうすればいいの?
こうすればいいよと案を出したところで即却下だろう。
まあ、いいよ。無駄案出した手間で済んで。
どうしたいのか聞いて、余程の破綻が無ければ
それがいいねと背中を押すのがいいと思う。
どうすればよかったの?
これこれ。聞かれたところでどうしようもない。
答えたところでどうしようもない。
恐らく失敗したことに対し、良案を出すのは確実に悪手。
私でもきっとそうしたよがいいのかな。
それともあなたは悪くないよがいいのかな。
うーん。親しい人いないんだから
そもそもこの手の会話になる予定はないな。
この位相手が甘えてくるような関係性が出来たら考えよう。
聞くはいっときの恥
声に出せるか
仕舞い込むか
その差は甚大
聞かぬは一生の恥
※どうすれば良いの?
【 どうすればいいの? 】
それはいつも、突然やってくる。
自分の意思とは無関係に、たくさんの思いを込められて、
最後を色んな形で迎えることになる。
ほんの一分ほどで体は完全に満たされ、ふわりと浮く。
軽い体はキライじゃないが、終わりの始まりだ。
子どもたちに投げ回されたり、紐で連れ回されたり。
時には一瞬で破裂させられて。
それが存在意義だと言われればそれまでだが、
単体では儚い存在なのを、憂うこともある。
玩具として、長く子どもたちに遊んでもらいたい一方で、
思いの丈を詰めて消えゆくのも一興。
はてさて、風船としての正解はどれだろうか?
『どうすればいいの?』
「どうすればいいの?」
子供の頃、私がそう尋ねるとお祖母ちゃんは決まって、
「まずは自分で考えてみようね。」と言った。
両親が共働きで、私は物心のつかない頃から近所に住む父方のお祖母ちゃんの家に預けられていた。
ちょっと知恵のいるおもちゃも。
余り理解出来ていない宿題も。
聞いてもすぐに教えてくれる事はなかった。
まずは自分で考えてみて。
自分でやってみて。
それでも分からなかったら教えてくれたり、一緒に考えてくれた。
そのおかげか、私はどうしたらいいんだろう…?と悩んだり、選択したりする時にまずは自分で考えて、行動する様になった。
これが勉強にはとても役立って、学生時代は上位の成績をキープ出来たし、希望の大学にも進学出来た。
そして就職も決まって、社会人としても順調な人生だった…そう、順調なはずだった。
日々仕事に追われ、朝から晩まで働いていたある日、急にプツンと糸が切れたかの様に私の体は重くなり、仕事へ行けなくなった。
頑張ろうと思っても頑張れない。
どうやら心が疲れてしまったらしい。
私は仕事を辞め、現在無職。
家に居ると肩身が狭く、お祖母ちゃんの家に居候中だ。
毎日、ただただ縁側に座って空をボーっと眺めている。
どうすれば良かったんだろう?
これで良かったの?
これから先私はまた働けるのか…。
このまま何もせずに生きていていいの?
限りなくある時間が私を落ち込ませる日々。
「どうすればいいんだろう…。」
独り言の様に縁側で呟けば、背後で物音がして、お祖母ちゃんがそこに居た事に気づく。
しまった!
『考えなさい。』って言われる…!
厳しい言葉が飛んでくると構えていた私に、
「人は毎日どうしたらいいのかという選択を知らず知らずの内に何万回としているって話があってね。」とお祖母ちゃんが優しく声を発する。
「えっ?」
「今、瑞穂が生きてるって事はその選択で最善を選んできたからだよ。だから今こうしてここにいるのも、いっぱい頭と心と体を使って最善の選択をした証し。ゆっくり休んでから、また一緒に考えればいい。大丈夫よ。」
お祖母ちゃんは静かにそう言って、縁側に座る私の横に腰掛ける。
「うん…。」
ああ、そうか、これで良かったんだ…。
私の為に私は最善を選択した。
心にジンワリとお祖母ちゃんの言葉が沁みて、目の前が涙で歪む。
いつまでも泣き止まない私の隣で、お祖母ちゃんはいつまでも私の背中を撫でてくれていた。
🍴『二人のコック』
憎しみが
愛の貴重なスパイスなら
それが少々足りなかった
二人のコックの調理には
で
こくのある
ポタージュにはならず
二十五年かかって
澄んだコンソメスープになりました
でも嘯(うそぶ)きましょう
おいしいコンソメのほうが
はるかに難しい
そのつくりかたに関してはと
茨木のり子✨
🩷🍴🩷🍴🩷🍴🩷🍴🩷🍴🩷
シカが轢かれて死んだら可哀想だなんだと煩く喚くのに、
人が轢かれたら「めいわく、違う場所で死ね」と吐き捨てる。
競走馬が骨折して安楽死になったら競馬廃止を訴えるのに
仕事で人が死んでも、自己責任で片付ける。
餓死確定のクマを駆除すれば、「お前らがエサになればいい」なんて言った愚か者も出た。コイツを餌にすればいいのにね。
四六時中触っているソイツで、ちょっとは調べたらいいのに。
それはゲーム機でもカメラでも無いんだから。
テーマ「どうすればいいの?」
「持ってて」だって。
黒く汚れて何かわからないチェーンのついた人形みたいなもの。
これなに、って聞いたら「確かクマ」だって。
あんたがクマが好きだったなんて聞いたことない。
ていうかクマに見えない。汚れて縮んでセミかと思った。きったないの。
捨ててやろうって思った。本当に捨てるのは悪いから「間違えて捨てちゃった」とか適当に嘘をついてあんたがどんな顔をするのか見てやろうと思った。
本気で怒られてもいいと思った。あんたの感情を底から揺さぶれたらこっちの勝ちってどこかで考えてた。つまんないこと。ばかみたいなこと。
どっちもしないうちにあんたはいなくなった。
捨てられない黒くて汚いクマ。
クマが好きなんて聞いたことないあんたから預かったこれ、ねぇ。
誰からもらったの?
どうしたらいいの?こんなもの。
2023/11/21 どうすればいいの?
【どうすればいいの?】
冷蔵庫の中を確認して首を捻る。さて今日の夕飯は鶏の唐揚げと鰤の照り焼きのどちらにしようか。君へ希望を尋ねる前に、愛用のトランプを手に取った。
どっちがいい? どうすればいい? そういう問いかけは君に対しては禁句だ。普段から数多の他人の人生を背負った判断をさんざんにさせられている君は、家の中でだけは思考を容易に放棄する。何も考えたくない、全部任せるなんて言われた最初こそ、いやじゃあ私はどうすればいいのと困り果てたものだけれど、これが君なりの甘えなのだと気がついてからは、この面倒くささすら愛おしいのだから、これはもう末期症状というものだろう。
引いたトランプのカードはハートの5――赤のマークだから、夕飯のメニューは鶏の唐揚げに決定だ。
「夕飯、鶏の唐揚げにするけど良いよね」
カードをひらひらと振りながら尋ねれば、ぼんやりとテレビの画面を眺めたまま君は「うん」と小さく頷く。ふかふかのクッションを抱きかかえた君は年齢よりもずっと幼く見えて、こんな姿を見せてもらえる特権を噛み締めながら、私はエプロンをかぶった。
どうすればいいの?
あなたのことを想えば想うほど、私の心は迷子になってしまう
迷子になってしまった心はどうすればいいの?
「貴女がいなくなって、僕は」
大きな魔法の書庫に1人。悲しみや虚無感に満ちている男がいた。
大切な、大事な宝物。2人の経験は、とうとううつくしい思い出に昇華してしまった。
「私達のキャンドルは、火だけを残して去っていってしまった。キャンドルを失った火は、ただ1人。ふらふらと漂うだけ」
「ねぇ、聞いていますか?」
名前を呼び、彼女がいつも座っていた椅子の背もたれに手をついて、語りかける。
何時間も、何時間も。
やがて、語りかけた後、彼は地面に膝をつき、椅子に額をつけて涙をこぼしなが、大きな声で泣き叫ぶ。
「私を独りで置いていって。どうしろというんですか。貴方のいない、この広い世界で独りで生きろというのですか」
あぁ、涙が止まらない。止まっても、またすぐにほろほろと流れてくる。
料理を作る気にもならない。彼女がいた時は、あんなにも料理を作る時間が楽しいものだったのに。食卓を囲む人も、たった独りで食べる料理など、味もしない。
あぁ、何をやってもつまらない。
あの時に戻れないと知った今、自分はどうやって生きていければいいのだろうか。
【どうすればいいの?】
父親が大のジャイアンツファンだった俺は、小さい頃から野球が大好きだった。大学でも野球部に所属し、パワーヒッターとしてチームメイトからも信頼されていた。
2年下の志摩谷は、俺が打撃練習のときには必ずバッティングピッチャーを買って出てくれた。お互い呼吸が合うのか、練習のパートナーとして彼は最適だった。
ところが、今シーズン最初の練習でアクシデントが起きた。運悪く、志摩谷の投球が脇腹に当たってしまった。
その後の診断で、肋骨にヒビが入っていることがわかった。この事実をそのまま伝えたら、おそらく彼はボールをぶつけた自分自身を責めるだろう。そう思った俺は、監督だけに怪我の報告をして、他のメンバーには言わないでほしいと伝えた。
ところが、シーズン最終戦を終えた後のミーティングで監督が口を滑らせた。
「いや〜、皆本当によく頑張ってくれた。特に神原はあの怪我の中…」
「しまった」という表情で、監督が一瞬こちらを見たが、何事もなかったかのように「今日もいい試合だった。来シーズンも頑張ろう!」と自身の挨拶を締め括った。
他のやつが「何で言ってくれなかったんだよ〜、水くさいなぁ〜、もぉ」と戯れてくる中、志摩谷だけは離れた場所で明らかに不機嫌な顔をしていた。そして、チームメイトがあらかた帰って俺と志摩谷の2人きりになったところで、彼は怒りを爆発させた。
「どうして教えてくれなかったんですか、そんな大事なことを‼︎」
目に涙を滲ませながら、志摩谷は俺を責めた。後輩の僕じゃ言っても頼りにならないと思ったのか、なぜ信頼してくれなかったのか、と次々たたみかけるように言葉を浴びせ続けた。
「黙ってないで何とか言ったらどうなんですか⁈」
一気にそこまで言うと、彼は一旦呼吸を整えるように深呼吸を始めた。俺はそのタイミングで、彼に話し始めた。
「…あのな、志摩谷。俺はお前と違って、そう次々にポンポンと言葉が出てくるタチじゃないんだ。今からちゃんと説明するから、少し時間をくれないか」
俺は、水を一杯飲んで気持ちを落ち着けた後、言葉を続けた。
「怪我のことを言わなかったのは、皆を信頼していなかったわけじゃない。大事な試合を控えたタイミングで、余計な心配をかけたくなかったし、変に遠慮されるのも嫌だったんだ。特にお前は、あのときの練習パートナーだったから責任を感じて自分を責めてしまうんじゃないかと思って言えなかった。でも、結果的にはお前を傷つけてしまったな。すまない」
志摩谷は黙って俺の話を聞いていた。
まだ、怒りは収まってはいないだろう。
「なぁ、志摩谷。いったいどうしたら、俺のことを許してもらえるのか、教えてほしい」
すると、あれほど勢いよくまくしたてていた彼が小声でボソボソと答えた。
「…して…ほしい…です」
「え? 今、何て言った?」
すると、志摩谷は声のボリュームを一気に上げた。
「だからっ‼︎ 友達になってほしいって言ったんですっ! 友達だったらお互い何事も隠さず言えるだろうし、相手に何かあったらすぐ飛んでいけるしっ!」
いつの間にから、彼の顔は真っ赤になっていた。2コ上の先輩に提案するには、彼なりにも勇気がいったことだろう。それだけ、彼は本気で俺のことを心配してくれていたのだ。
「うん、わかった。じゃ、友達になろう。これからは、何かあったら遠慮なくお前に知らせるし、お前から知らせがあればいつでも飛んでいく」
そして、両手を差し出し彼に握手を求めた。彼は素直に両手を出して力強く俺の手を握った。そのタイミングで俺は彼の名を呼んだ
「これからもよろしくな、和也」
一瞬「えっ」という表情を浮かべた志摩谷和也は、すぐに握っていた手を振り払った。
「いくらなんでも、急に距離詰めすぎです‼︎」
そう言って、その場から走り去ってしまった。
ったく、だったらどうすりゃいいんだよ?
ため息をつきながらも、あの少々不器用な後輩と友好的な関係になるためにはどうしたものかと既に考えを巡らせていた。お互いが名前呼びになり、ひとつ屋根の下で暮らすようになるのはもうちょっと後のことだ。
今日はお互い、四限で講義が終わるから、図書館の前で待ち合わせる約束だった。終了時間は一緒でも、取ってる講義は違うから、図書館から講義室が遠い郡司は急いで待ち合わせ場所に向かっていた。
ようやく待ち合わせ場所に着いたとき、そこに目当ての人物はいなかった。本が好きな彼女のことだ。先に着いたから、約束の時間まで図書館の中で時間を潰しているのだろうと当たりをつけて、郡司は図書館の入口をくぐる。
図書館の入口には、まるで駅の改札口のような機械が設置されている。ICチップが内臓されている学生証を通して、中に入ることができる。学生証がない者も、用途によっては図書館を利用できるが、その手続きは複雑だ。
一階は、比較的軽く読めるもの――主要出版社の新書であったり、学術文庫であったりがたくさん配架されている。二階以降は専門書が多くなってくるので、郡司はあまり利用しないが、一階部分の本は時折借りて読んでいる。
入って右手側奥に調べもの用のテーブルと椅子が置いてある。太い柱に隠れているため、パッと見たときに、あまり視界に入ってこない。そのため擬似的な独りの空間を作ることができる場所だ。彼女はこういうところによくいる。
郡司は当たりをつけていた場所に向かった。後ろの方からそっと覗くと――やはりいた。何やらこの図書館にはそぐわない料理本を広げているように見える。
後ろから回り込んで、彼女の真横に立つと、郡司は彼女の肩をとんとんと叩いた。驚いたらしい彼女が体を強張らせて、弾かれるように郡司の方へと顔を向けた。彼女は自分の肩を叩いたのが郡司だとわかるや否や、ほっとしたように表情を緩めて笑顔になった。
「……何だ、高千穂くんかあ。びっくりしちゃった」
そう言った彼女は、自分の腕時計を見て、あっと声を上げた。
「とっくに時間過ぎてたんだね。待たせちゃってごめんなさい」
「俺が来たのはさっきだから。俺こそ待たせてごめんな」
しゅんと肩を落とす彼女に、郡司は笑って言った。それより、と彼は続ける。
「それより、月読サン、何読んでんの? それ、レシピ本っぽいけど」
彼女はその瞬間、広げていた料理本をぱたんと閉じて、目にも留まらぬ早業で鞄の中に仕舞った。ちらりと郡司を見やる顔が見る見るうちに赤くなっていく。
郡司は困惑して首を傾げた。
「……今度のバレンタインデーに何か作れたらいいなって……」
顔色を朱に染めた彼女は、そう言うとはにかんだ。彼女のその照れた微笑みが、郡司の心を撃ち抜いて、彼はしばらく何も言えなかった。
22日目
「お母さん、どうすればいいの?」
久しぶりに聞いた母の声はそれだった。
学校でいじめられてから家にひきこもって1年が経とうとしている。
学校に行けるはずもなく、一日中部屋にひきこもっている。
部屋の外に出る時はお風呂に行く時と、トイレに行く時、それ以外は部屋で過ごしている。
最初は心配してくれていた母も次第に私を遠ざけるようになった。
母は、私のために悩みを聞いて、理解してくれて、そばにいてくれる。そう思っていた。
でも、そんな期待はすぐに裏切られた。
「いじめられる方にも原因があるのよ。あなたが何かしたんじゃない?」
私が相談した時、母の口から出た一言目はこれだった。
あー。もう期待するのはやめよう。誰かに相談するのもやめよう。
私は初めて人間不信になった。
もう、誰を信じればいいのか、この先、誰を信じられるのか。
もう私には分からない。
あたしが聞きたいよ
一緒にいるのが楽しくて
笑みがこぼれる毎日で
無言で隣同士本を読む
ふとした瞬間の息遣い
微かに聞こえた
声を殺しての笑い
一緒に出かけて
充実した日を過ごして
それでも さよならの時間は
毎日やってきて
さよならを言わずに
過ごせたらどれだけいいのか
傷付くのは怖いけど
もう わからないぐらいになっちゃった
あたしが聞きたい
ねぇ……
理不尽に笑われる世界に笑い返す君に
嘲りに態度で示す君に
憧れて 目指して 隣に並びたくて
それでも、迷う。今迷っている
私は強くない 弱くて弱くてなんにもない
それでも前を向かなければいけない
そんな時…
#どうすればいいの?
私にあなたは眩しすぎたの
思い出くらいが丁度いいのって
強がらなければ今も一緒にいられたのかな
どうすればいいの?
「どうすればいいの?」
口をついた言葉が、私が思っているよりもずっと単純だったことに少しだけ笑ってしまった。大学生にもなって、本当に子供っぽい恋愛だと思う。
好きという気持ちを伝えられないまま、彼は他の人と付き合い始めた。
でも仕方ないじゃないか。怖いのだから。もしもフラれたら、なんて考えない方がおかしい。それなら今のまま仲良くしていたいと思って何が悪いんだ。
それに、結局私ではなかったんだ。
肩の力が抜けた気がした。もう失恋を恐れる事もないのだから。このまま忘れるだけだ。
でも、どうしてこんなに悲しいのだろう。諦めはついたのに。
「……どうすればいいの?」
誰か涙の止め方を教えてくれ。