『優越感、劣等感』
俺はあいつより運動ができる。
俺はあの人よりも勉強ができる。
俺は、生まれつき器用な方でなんでもできる方だった。だから他の人と比べてはいつも優越感に浸り、快感を覚えていた。なんでもできるからこそ性格は悪く、捻くれ者だった。が、性格の悪さなんてものは自分では気づくことができず、俺は今までもこれからも劣等感なんか感じずに生涯を終えるのだと信じていた。
ある夏休みの朝、両親共に仕事へ出掛けて行った数時間後に目が覚めた俺は母親の作った(であろう)冷め切って不味くなった味噌汁を飲みながらニュースを見ていた。いつもとの異変に気がついたのはそのときだった。ニュース番組に出ているアナウンサー達の滑舌が普段の何倍も悪く、何も聞き取れなかったのだ。おかしいと思い、XなどのSNSを見てみてが俺と同じ感情を抱いている人は誰1人としていなかったのだ。
確かにいつも起こしに来る母親が今日はいつまで寝てても起こしに来なかった。やっと諦めたのか、と思っていたけど、どうやら違うらしい。
俺はやっと気がついた。どうやら「優越感」と「劣等感」の基準が反対になっているようだ。できる者が「優越感」を感じる世界から、できない者が「優越感」を感じる世界、つまり、「できないものが偉い」という価値観の世界になってしまったということだ。だから今日は朝起きなくても「朝起きなくてえらいね」と謎の言葉を親にかけられたということか。
なら、なんでもできてしまう俺は、この世界では下等な存在だということか。
あぁ、なんでもできることで困る日が来るとは。このまま俺は劣等感だけ抱えて死ぬことになるのかなぁ!
7/13/2024, 12:15:52 PM