小さい頃から、私は虐められてきた。
私の記憶は、30分しか持たない。
小1の時、飲酒運転で運転していたトラックに、跳ね飛ばされて、そうなった。
何ヶ月にも渡る病院での検査を経て、どうやらもうこの子の脳みその記憶は改善しないと、脳外科の医者に言われた。
とてもおばあちゃん先生で、「いつか医学の発展でなんとか」と慰めてくれた。
母親は、病院についてこなかった。
私が跳ね飛ばされてから、母は酒に逃げるしかない人になったから。
父は、唇を噛み締めながら、おばあちゃん先生の聴診器をずっと睨んでいた。
そうでもしないと、この世界の理不尽に、飲み込まれる感じがしたんだと思う。
おばあちゃん先生に飴をもらって、病院を出た。
甘ったるい飴。
あのおばあちゃん先生は、甘ったるい綺麗ごとしか言わなかった。
いつか医療が発展すればなんて、私の青春は、その医療が遅れれば、いくらでも潰されるんだ____
父は無理やり私から飴を奪い取って、地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられた飴はひしゃげて、ありでさえも食べたくはならないだろうなと、次の30分で消えていく記憶のなか、うっすら思った。
わたしは記憶が持たないのを揶揄われるのを、傍観していた。
そもそもいじめられた記憶も30分もたない。
こんなことあったかも程度。 辛いけど。
幸い、小学校も中学校も、主席だった。
トラックで轢かれたとき、脳みその仕組みが変わったのか、大人の教師がわからない問題もわかるようになった。
授業は30分全力で暗記して、テストは30分で終わらせるようにした。
もっとも、授業は5分あれば理解できた。
テストは15分テキトーに埋めて、あとは日本書紀を読むとか読書してた。
いつも、自分に起こった出来事をメモする。
じゃないと、わたしの過去もいまも未来も、なくなる。そんな気がした。
高校生になって、自分の過去が怖くなった。
なぜ、私なんだろう。
神様ってやつがいるなら、なぜ私がトラックに轢かれる人間に選ばれたんだろう。
なんで、お母さんは、アルコール依存症になって、生活保護のお金を安いカップ酒に変えるんだろう。毎日。
なんで、お父さんは、わたしが中学の夏休みに、いなくなっちゃったんだろう。
お父さんは、生活に耐えられなくなって、ホームレスになったらしい。
やがて、私は、今ではなく、過去に生きることになった。
ずっと昔の映画とか、ドラマしか見ない。
今の映像を見るのが、怖い。
今の自分の周りが、耐えられないほど辛いから。
そのうち、私も、お母さんの酒を飲み始めた。
毎回吐いた。その分飲んだ。
ある日、ずっと昔の映画の、俳優のセリフが、胸に刺さった。
お前の未来は、過去の中にないだろ?
明日だって、過去にはないよ。
明日は、明日のお前が作るもんだろ?
元カレが忘れられない女に説教するセリフだった。
私は、それを聞いて、酒で伸びてる母をダルクに連れて行き、父を探すことにした。
母はたぶん酒をやめられないだろうし、父はもう死んでるかもしれない。
でも、諦めて生きていくことは、結局、自分の明日を毎日殺すことなんだと、今は思う。
父の居所を探す地図を片手に、私は家を飛び出す。
誰も知らない、私すら知らない、私だけの、クソみたいなサイコーの明日に向かって。
題材 ハッピーエンド 個人的には9回裏まで主人公が諦めてないなら全部ハッピーエンドだと思う。 個人的に。
3/29/2026, 12:30:08 PM