つちかべ

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野営地を抜け出して草原に寝転ぶ。
吹き抜ける風が心地よくて、思わず目を閉じた。
頬を撫でる草は、過緊張した身体を解してくれている様だった。
視覚が遮断された事で風をより近くに感じ、不意に初めて飛行機に乗った時の事を思い出した。
軍用機の整備をしていた近所のジジイが「これは男同士の秘密だ」と言って試験飛行と称して乗せてくれた風だ。
春の終わり、初夏の匂い。
この場には無い青葉の香りが鼻腔に蘇る。
今は飛行機に乗ることはできないが、いつか…戦争が終われば疎開したあのジジイと嫁を乗せて澄んだ空を翔けていきたい。
そんな事を考えながら、暫しの休息に身を委ねた。
K.M

5/4/2023, 5:15:56 PM