狼星

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テーマ:天国と地獄 #195

「てんごくとじこくはつながっているの」
急に娘が話し始めた話は、
私が話したことのない、
教えたこともない話だった。
「え?」
私は思わず聞き返してしまった。
娘はつみきをしながら話している。
「わるいひとはじこく、いいひとはてんごくにいくの」
私は口を噤んで娘の話に耳を傾ける。
「てんごくにはね、やさしいてんしさんがいるの。
 じこくにはね、こわーいあくまさんがいるの」
胎内記憶というやつなのか…。
でもお腹の中にいたときの話ではないみたい。
「まま」
私はボーッとして聞いていた。
娘に呼ばれるまでずっと。
私は夫に娘が話したことを話すと、
「何も教えてないなら胎内記憶じゃなくて、それよりも前の話なのかも。胎内記憶っていうのは言葉の意味通りお腹の中の記憶だから……」
それにしても、少し怖かった。
教えてないことだし、ちゃんと文になっていた。
いつもは単語しか話さない娘。
嬉しいような、少し怖いような。
今はもう大人になって、
その時のことは覚えていないらしいけど。
私はあの日のことを忘れられない。

5/27/2023, 12:23:08 PM