狭い部屋
ずっと、閉じ込められていたんです。
わたし以外は誰もいない空間。空っぽの箱みたいなところに。
わたしのかたちが折れ曲がって、ぐちゃぐちゃになって境目も見えない、ただわたしという存在だけがそこにある。
もともとのかたちはよく覚えていないけれど、箱の唯一開くところがずっと気になっていた、ような。
いつから? ええと、初めから、でしょうか。
たまに箱が開くときは、ただなにかが投げ捨てられて。...ええ。捨てられていたの、あの子たち。
わたしのなかにいるあの子たち、この何も無い世界で唯一の「わたしでないもの」。
わたしでは、なかったもの。
あの子たちがわたしと混ざりあっても、あの子たちのことはわたしには分からなかった。
わたし以外のだれかとお話できるなんて、これが夢というものなのかしら。
いつだってあなたたちはわたしの世界を眺めるばっかりで、誰もお相手して下さらなくて。
だから、ほんとうに嬉しいの。
こうして、外の世界に触れられたこと。わたしでないものとお話できること。ずっと、あなたたちとお話をして、触れ合ってみたかったの。
あなたたちはいろいろな色でできているけれど、中をひらけばみんな、おんなじ色なのね。
わたしも、あなたたちみたいになりたいわ。
そうすれば、もっといっしょになれるでしょう。
6/4/2023, 10:55:52 AM