千年桜のお話を知ってる?
むかーし、昔、此処に村があった頃に、ある大きな枯れない桜の樹があったんだ。その桜は年中咲いていてね、桜の下にたまーに現れる真っ白の鹿がいたんだ。
そこの村では、その鹿を神の使いに違いないって言って、お鹿様と呼んで、何年も、何百年ももその樹と鹿を奉っていたんだよ。けども、それにお鹿様が反応することはなかったんだ。ある一人を除いたらね。
毎日毎日参拝に来る男の子。お鹿様に、今日あったこと、楽しかったことを沢山話しかけてくる男の子。その子が来たときだけ、お鹿様は顔を上げて反応してたんだよ。はじめのうちは無反応だったけどね。
けどね、ある日、流行り病が村を襲ったんだ。ぱた、ばた、ばたりと、人が死んでいったよ。村の人々は、お鹿様の樹に毎日毎日頭を下げて、病が収まることを祈ったんだ。けど、病は収まらなかった
そうしたらね、村の大人達は生贄が必要だと言って、お鹿様に毎日話しかけていって、気に入られてるであろう、男の子を殺して生贄にしちゃったんだ。桜の樹の下に嫌がる男の子を埋めて、男の子の声が聞こえなくなっても、助けてください、どうか、どうか………ってね。
縋って、縋って………結局、大人も死んじゃった。だぁれも、誰も居なくなっちゃったんだ。
お鹿様はね、ずっと、悲しんでいたんだよ。病は神には直せないんだ。けど、ぽろ、ぽろ、ぽろと、涙を流して「嗚呼、結局私だけだ。これなら一人のが、良かった。ひとりでいたかった」そう嘆き、嘆き、暫く経ったら、何処かへ去ってしまったんだ。
支えをなくした千年桜はもう、花を咲かせなくなってしまった。
けどね、今でも、年に一度だけ、綺麗に、綺麗に、桜が咲くんだ。桃色ではなく色の濃い桜がね。
7/31/2024, 10:33:50 AM