よどみ

Open App

「ごめんね」


「あんた、朝昼置いておくから食べてなさいね」

 きいい、ばたん。一軒家のドアが閉まって、カチャカチャと鍵の音。自室のベッドに寝転がった朝七時、至って健康な私はブランケットの中で丸まっていた。
 学校に行けない。出席率がどんどん減り、このあいだついに六割になった。息継ぎみたいに学校に行けば、担任や養護教諭に留年の話をされる。「大丈夫?」という言葉はもはや辞書どおりの意味なんてなく、取ってつけたような都合のいい言葉として発されていた。世界が私を拒んでいる、みたい。起き上がることすらできないのにお腹は空く。本当は消えてしまいたいのに。例えば食べずにいればいい、みたいなことを思っても実行できないのは、私の弱さなんだろうか。世にはそれを容易く実行する人間もいるわけで、その様な些細な比較が私の身体すべてをチクチク刺していた。
 親の人肌すらなくなったリビングで、スーパーで値切られたサンドイッチを飲み込む。一口噛んで、咀嚼を何回か、そしてすぐお茶で胃に落とす。繰り返し。手にあったひとつのハムサンドを三十分近く掛けて食べきると、もう癖になった鎮痛剤を飲み込む。偏頭痛というより眠気に近いそれは吹き飛ばされることがなく、食品特有の口臭をせぬよう息を抑えながら、そっとベッドに滑り込んだ。

5/29/2024, 10:25:51 AM