紺青茜

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 ひとしきりかきなぐった後に、ギシリと背もたれに体を預けて細く息を吐く。息を吐き切り、無意識に呼吸が吸い込む動作に変った時、漸く自分は今まで息を止めていたのだと気がついた。
 いけない。集中するといつもこうだ。そういえばコップの中身はとうに空だし、トイレにも行きたい気がしてきた。

「立つの、面倒臭いなあ…。」

 ふと窓の外に目を向ける。雨だ。春の、ぴしりと寒い空気が少しだけ弛むような。春の、雨だ。机に向かう時には降っていなかった筈が、いつの間にか降りだしたらしい。
 手を伸ばし、寒さを覚悟して少しだけ窓を開けると、案の定冷たい風がそろりと頬を撫でていく。窓越しでは届かなかった、細やかな雨の音が耳に心地よい。甘くて爽やかな、沈丁花の香りが部屋の中を洗った気がした。…と、同時に。

「トイレ、トイレ…。」

 重い腰をなんとか持ち上げ、窓を閉めると再び部屋の中に静寂が訪れる。空になったマグカップ を手に、机を離れた。
 用を足し、戻った時のマグカップにはなみなみのコーヒー。友人から「それはコーヒーの香りの牛乳だ」と揶揄された、ミルクたっぷり(過ぎる)インスタントコーヒーではあるが。

 背もたれの高さに不満のある椅子を引き、マグカップ に口をつけながらPCに向かい直す。
 先程まで書いていた文章に目を通し、残りも今日中に執筆しなければ。大丈夫、今日はかなり調子が良い。つい先程まで息も忘れるくらいに夢中で、順調に進んだ。この分ならすぐに書き終えられるだろう。

「いやいやいや…なんだこりゃ。…なんだこりゃ!?自分、全然駄目じゃん!なんだこりゃ…!何書いてんの!?全然駄目!全然駄目だよ!?なんでこれが良いと思ったの自分!?」



 伝えたい事は、今日も一筋縄ではいかない。

2/12/2024, 3:27:49 PM