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何でまた急に?昔話よ?
あれはね、おばあちゃんが女学生だった頃、そう、今のあなたくらいね。

私、乳癌にかかってしまってね。
その時受けた手術のお陰で再発もなくてこの歳まで生きてこれたんだけど。
あの時は若かったし、癌に気付くのが遅くてね、片方の胸を切除するしかないってお医者さんに言われて。

セカンドオピニオン?ないわよそんなの。
絶望したわ。おっぱいをとっちゃうだなんて、もうお嫁さんにはなれないし、恋愛もしたことないのにってずっと泣いてたの。

そうしたら様子のおかしい私に、近所の若いお兄さんが「どうしたの?」って声をかけてくれてね。
顔見知りではあったんだけど、あまりよく知らない人だったのに、優しい顔を見たら涙が止まらなくて、思いきって全部、本当に全部話したの。勢いで一生のお願いもしたわけ。当時女の人から言うなんて本当にはしたないことをね。

そうしたら最初はびっくりしてたけど「僕でいいの?」って言ってくれてね。
何て言えばいいかしら?その初めて「した」のよ。
あらやだ、あー今のは聞かなかったことにして?
孫にする話じゃないわね。

そのあとすぐ手術を受けて。退院して家に戻ってしばらくしたら、その人が「胸の傷を見せてくれ」って言ってきたの。
泣いて嫌だって言ったら、服の上から私の無くなった方の胸に優しく手をふれて、突然「僕が大学を卒業したら結婚しよう」って言うのよ。
今度は私がびっくりしちゃってね。
「こんな体の私でいいの?」って聞いたら、抱きしめてくれて。どんな人かは初めての時に私を大事にしてくれたからよくわかったの。
あの時のおじいちゃんの力強さ、忘れられないのよ。きっと私がボケたとしても、あの時のことは忘れないと思う。

そう言って祖母は少し頬を染めて、仏壇の祖父の写真を見つめた。



お題「忘れられない、いつまでも」

5/10/2024, 4:50:25 AM