人は見かけによらぬ、とはよく言ったものである。
彼女は「人の汚いところなんて知りませんわ」といったように振る舞うものだから、さぞ自然に、当たり前のように守られてきたに違いないと僕は思い込んでいた。
「誰が助けてあげたと思っているの」
植物園で当番の水やり(彼女に押し付けられた)をしながら不満垂れる僕の邪魔をするように話し続ける。
「蝶よ花よ、ね。大事にされてきたのは確かね。私自身も私が一等大切にしているわ」
この花と違ってこの世でたった一人だもの、と微笑む。薔薇と喧嘩した彼のちいさな王子さまと出会ったのが彼女ではなく、うわばみでよかった、なんて考える。
「でも、可愛らしい蝶や花のままじゃ子どもの手でも潰せるわ」
遠目で見たときに感じた、あの陽だまりのような気配はない。食虫植物や蜘蛛を見た時のような、とにかく落ち着かない緊張がじりりと胸にうまれる。
飛び続けなきゃ蜜にもありつけないし、咲かなきゃ手折られるだけよ。
「温室育ちはどちらかしらね」
慈しまれて育てられた生命が、美しいだけで終わるわけがなかったのだ。
蝶のように舞い、蜂のように刺す。薔薇に棘あり。
長いまつ毛がこちらを刺すように向く彼女の目をみて、そんな言葉もあったことを思い出した。
【蝶よ花よ】
8/8/2024, 4:12:17 PM