ごしんたい

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「おう。いい話じゃねーか」
同居しているカニは言った。ズワイガニみたいな大きさの彼は、私の『今年の四月に結婚する』という話を聞いて喜んでくれた。
「お前も一人前だな」
「カニに言われたの初めてかも…」
「当たり前だ。喋るカニは俺以外居ない」
彼はちょっとぶっきらぼうだけど面倒見の良いお兄さんみたいな存在だ。家族が早々に亡くなってしまった私にとってはとても大切な存在だ。だから…言いづらかった。
「あのね、カニさん。お願いがあるの…」
「言ってみ、可能な限り応えてやるよ」
「…あの、その…あのね。彼もお金が無くて、貧乏生活は二人で乗り切ろうって言ったんだ!だけど…」
ずるずる、何かを引きずる音がする。申し訳ない気持ちでいっぱいの私は顔を上げられなかった。
「足りないんだろ?大丈夫だ。俺くらいなら良い値段で買い取ってくれる。ほら見ろ、いい重さだ。中身には自信あるしな」
秤に乗って自慢げにkg数を指す彼を見て、涙が止まらない。
「でも!カニさんは私にとって…」
「良いんだ。お前にとってずっと大切なものであり続けられれば、俺は幸せだ。カニの中でいちばんの幸せもんかもな」
ぷくぷくと自慢げに泡を吐く彼のハサミをギュッと握った。

4/2/2024, 11:23:34 AM