「帰ってこなくていいよ」
その人は笑いながらそう言った。
「前だけ見て進め」
その人はオレの背中にそう言った。
「オレを、省みなくていいよ」
その人は目を瞑ってそう言った。
だから、ただ只管に、前へ進んだ。
心臓を鳴らし、息を吐いて、常に死と隣り合わせに道を行く。
頂点に辿り着いた時、てっぺんの青空に人知れず肩の力を抜いた。
ここがオレの、生きる道。
こういう生き方がオレなわけで。
こういう生き方しかできないわけで。
命が燃え尽きるまで、燃え尽きても、ここから離れられないんだ。
*
「燃え尽きたら、ここにいていいですか?」
ぐったりした身体を投げ出して、隣に座ってるあなたに問い掛ける。
持ち帰りの仕事をしていたブルーライトカットメガネ越しにあなたが目を瞬いて。
「燃え尽きたの?おまえが?」
「…………」
「……?」
「なんでもないです」
「えー、なんだよ」
なんだか恥ずかしくなって、ごろりとうつ伏せになる。
そうだよ。
どうして訊こうなんて思ったんだろう。
今までだってそうだった。
この人はいつも、拒否しないけど求めもしない。
心臓が震えるくらい真っ直ぐオレを見てるのに。
それを表に出さないんだから。
だから。
全てを出し切って、燃え尽きて、そしたら怒られるまでべったりくっついてやる。
だからさ。
オレの命が燃え尽きるまでオレを見てて。
今と同じくらいの熱量で。
お題「命が燃え尽きるまで」
9/15/2023, 9:25:12 AM