#ある殺し屋さんの苦悩 (BL)
Side:Koichi Sugoh
「今日こそあんたを殺ってやるから…これは俺の仕事だから…悪く思わないでね、功一さん」
ラストオーダーの時間も過ぎ、淡々と閉店準備をしている私に銃口を向けるこの男。
飄々とした態度を保ちつつも、いつもどこか迷いが見える。
私は表情を変えずに、彼に静かにツッコミを入れることにした。
「…それ、あと何回言うつもりですか」
「ちょおっとぉ〜!藤佳さん今回こそは華麗にキマったと思ったのにぃ〜!!雰囲気壊さないでよ功一さんっ!!」
殺し屋としては一流なようだが、私の前では殺し屋モードが簡単に解除されてしまうらしい。
この姫川藤佳という男は、いつも肝心なところがキマらない。
危険な男であることには違いないが、なかなか愉快な男でもある。
「…姫川さん、あなたが私を殺せるわけがないと本当は分かっているのではないですか?」
「こ、殺せるもん!たまたま本気出してなかっただけだもん!!」
「それはまた、子供のような言い訳ですね」
「だと思うでしょ?ざんね〜ん!藤佳さんは子供じゃありませ〜んっ!」
「…」
「ちょ、ちょっとぉ!?功一さん、そんな目で見ないで〜!?」
かつて私と彼が繰り広げた激しい殺し合いからははるかにかけ離れた、チャンバラごっこの延長線のようなやりとり。
姫川さんが一般市民を決して巻き込まない殺し屋だと分かって以降は監視程度に留めてはいるが、対暗殺者専門のエージェントとして彼を殺さなければならなかった未来もあったかもしれない。
…それでも私は、初めて対峙した時に彼を殺しておくべきだったのだろうか?
今でも自分自身によく問いかけている。
「…功一さーん?聞いてる〜??」
「聞いてますよ、もちろん。…それで、いつまでその銃を構えているつもりですか」
「藤佳さんの華麗な殺害計画が失敗しちゃったから、もう飲まないとやってらんないっ!」
「…まったく。仕方のない人ですね」
「やった〜ぁ♡」
ここで飲めると分かった瞬間に、姫川さんは子供のようにはしゃぎ始めた。
しかし数分後にはきっと酔っ払って、今以上の甘えたになっていることだろう。
…さて、今夜私が彼から解放されるのは何時になることやら。
【お題:子供のように】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・菅生 功一 (すごう こういち) 攻め 37歳 傭兵(兼バーのマスター)
・姫川 藤佳 (ひめかわ とうか) 受け 26歳(※真偽不明) 殺し屋
(※数ヶ月間スランプで全然書けませんでしたが、久しぶりの更新です…! by 月園)
10/13/2024, 2:24:46 PM