いつぐらいであったか、母が肋骨を折り入院していた時期があった。
母は非常に快活な人であったので、静まり返った部屋はとても彼女のものと思えず、わたしの隣に敷かれた布団も温める人がいなくなってしまったので、それはそれは寂しい思いをしながら眠った。
父が見舞いに行くと言うので、私はそれを必死で追いかけた。褪せたピンクの、ちいさな自転車を転がしながら。今の体感で言う1時間位を漕ぎ続けていた気がする。きっと距離はそこまで無かったのだろうが、そのときの私にはとにかくとにかく長い道のりだった。
病院独特のにおいの中を突き進んで、お目当ての病室を目指してずんずん歩く。真っ白な廊下のまっしろなドアを開いて、まっしろなベッドをいくつかとおりぬけて、まっしろなかーてんをあけて、ああ、おかあさん!!
何だか酷く久し振りに会えた気がした。それは本当に久し振りの再会だったのかもしれない。真っ白な病室に、ぽつりと母が黄昏れていた日。初めて病室というものを知りました。
8/2/2024, 10:39:54 AM