いくら

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【好きじゃないのに】

 街角ですれ違う、学生服の男の子。彼らが着ているのは学ランだった。無意識にそちらに目線がいき、思わず立ち止まってしまう。そんなことに彼らは気付かない。

 ──羨ましいな。

 タイミング悪くショーウィンドウのガラスに自身の姿が反射する。髪を肩より下に伸ばし、世間では女物として扱われる衣装を身にまとった自分だ。

 こんな姿、私じゃない。

 でも全ては自分で決めたことだ。女として生きる私が好きな両親のために、私は女として生きる。

「めぐちゃーん!」

 待ち合わせしていた友人が私を呼んだ。

「ごめん、遅れて」
「全然!そんなに待ってないよ!」

 正直で素直な性格の彼女が私は好きだった。よく友人は自分の鏡写しだ、なんて言うけど、彼女は寧ろ理想だ。

「あ、そうだ」

 彼女はカバンの中から1つの箱を渡してきた。周りの話についていけるよう、ブランド物の知識はある。その箱も、某アクセサリー店の物だった。

「誕生日おめでとう!」
「……ありがとう。開けてもいい?」
「うん」

 今年は何を送ってくるのだろう。

「──ネックレス?」
「そう!めぐちゃんに似合うと思ったの」

 どう?と聞き返す彼女に私は「凄く嬉しいよ」と返した。正直、アクセサリーは苦手だが、彼女のくれる物は何でも嬉しい。

「よかった〜!今日どこ行く?私行きたいお店があるんだ」
「なら、そこにしようか」

 その後はとても有意義な時間を過ごした。

 家に帰ると疲れがどっと出て、今すぐベッドに倒れたくなる。
 一旦荷物を部屋に置くために、自分の部屋を開ける。

 彼女から貰ったプレゼントを、部屋の棚に飾る。その横には去年貰ったものや、お揃いで買ったものがある。どれも全て、私は好きじゃない。

 好きじゃないもので、どんどん私の部屋も、体も侵食されて行く。

「今更、だよな」

 自分の部屋にいると、つい気が抜けて口調が本来のものに戻ってしまう。

「好きじゃないなんて、言えないよ」

 私の大好きな彼女の好きな物は、私にとってはただの錘だ。

3/25/2023, 10:36:51 AM