和菜

Open App

落ちていく。
落ちている。

気が付いた瞬間、地に叩き付けられた。
激しい痛み。なのに気絶もせず、死にもしない。

痛いと泣き喚く。
助けてと叫ぶ。
悶え苦しみ、呻き藻掻く。

けれど、ふと聞こえた声が、それを一蹴する。

「その程度の高さから落ちたくらいで何だ。情けない」
「同じ高さから落ちた他の奴は誰も泣かなかった」
「もっと高い所から落ちた奴だっているのに」

一人の声だった気もするし、大勢の声だった気もする。
反射的に確かめようとしたけれど、出来なかった。
確かめる前に、抗議する前に、また体が浮き、落下を始めたから。

パニックになり、喉が裂けんばかりに悲鳴を上げながら落ちて、やがてまた、地に叩き付けられた。

明らかにさっきより激しい衝撃。
多分、高さも先程の比ではない。

それでもやはり、気絶もせず、死にもしない。

何故、どうして。

痛い。
痛い。痛い痛い痛い痛い痛い……!

どうして、こんな……

「甘えるな」
「泣き喚く暇もなく死んだ奴もいるんだぞ」
「そんな奴らに向かって助けてと叫べるか? 生きてるだけでも有難いと思え」

--そうしてまた、声が響く。
何とか這い上がろうとしても、助けを求めて手を伸ばしても、天井は遥か高く、引き上げてくれる手もなく。

痛い。
たったそれだけの言葉さえ、届く事も受け取って貰える事もなく。




己を賢者だと妄信する愚者達よ。

あなた方は一体

何処まで落ちれば満足ですか?
何処まで落とせば気が済みますか?

6/18/2022, 4:49:09 PM