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無色の世界

世界から、色が消えた日。

朝、目を覚ました私は、いつもと違うことにすぐ気づいた。
天井も、机も、カーテンも、全部が灰色だった。

「……あれ?」

カーテンを開けても、空は青くない。
雲も白くない。
ただ、濃い灰色と薄い灰色が広がっているだけだった。

テレビをつけると、ニュースキャスターが真っ青な顔……のはずなのに、やっぱり灰色の顔で話していた。

『本日未明、世界中から色が消えるという現象が確認されました』

世界中。
つまり、日本だけじゃない。

私は制服に着替えた。
本当は紺色のはずのブレザーも、灰色。
お気に入りの赤いリボンも、どこかに紛れてしまいそうなくらい地味な灰色だった。

学校へ行くと、みんながざわざわしていた。

「やばくない? 全部灰色なんだけど」
「昨日まで普通だったのに…」

でも、その中で一人だけ、静かに窓の外を見ている人がいた。
同じクラスの、あまり話したことのない男子。

私は、なんとなくその人の隣に立った。

「ねえ、なんで色が消えたと思う?」

思いつきで聞いただけだったのに、彼は少しだけ笑って言った。

「多分さ、色を忘れたんだよ」

「え?」

「人が、色を大事にしなくなったから」

意味がわからなかった。

でも、その日の放課後。
私はあることに気づいた。

帰り道、小さな女の子が泣いていた。
手には、ぐしゃぐしゃになった紙。

「どうしたの?」

声をかけると、女の子は言った。

「おはな、かいたのに…かわいくない…」

紙を見ると、花の絵が描いてあった。
きっと、赤や黄色で塗ったはずなのに、全部灰色になっていた。

私は、ポケットから色鉛筆を取り出した。
昨日までは普通に色がついたはずの、12色の色鉛筆。

でも――

「……あれ?」

一本だけ。
赤い色鉛筆だけが、うっすらと色を残していた。

恐る恐る、花びらを塗る。

すると。

そこだけが、じんわりと赤く染まった。

「わあ……!」

女の子が目を輝かせた。
そしてその瞬間、赤く塗った花びらから、じわじわと色が広がっていった。

葉っぱが緑に。
空が青に。

世界に、色が戻っていく。

私ははっとして、朝の彼の言葉を思い出した。

「人が、色を大事にしなくなったから」

もしかして。

色は、ただのものじゃない。
誰かが「きれい」と思ったり、
「好き」と思ったりしたときに、初めて存在できるものなのかもしれない。

4/18/2026, 6:26:34 PM