"変わらないものは無い"
とある小学生の男の子の前に、長いコートを着た男の人が現れました。
そして低く上品な声で男の子にこう話しかけました。
『少年。今、叶えてほしい願い事はあるかい?』
「願い事?」
『そう。お兄さんは魔法使いでね。子どもの願いを叶えることができるんだ。』
「願い事…」
「じゃあ、僕、ずっとこのままがいい!小学生のままでいさせて!お願い!」
男の子は目をイルミネーションのように輝かせて願い事を言いました。
『……分かった。叶えてあげよう』
男の人が人差し指を男の子のおでこに当てると、
寒い寒い日に吐いた息のような、
白い靄が男の子を包みました。
『これで魔法がかかった。少年はずっと小学生のままでいられる。』
「本当?!」
『嗚呼、本当だとも。』
「やったぁぁ〜!!お兄さんありがとう!!」
『……感謝なんてしない方がこの先幸せだぞ』
「?なぁに?」
『はは、ただの独り言さ。それじゃあ少年、1つ約束をしよう。』
「うん!」
『5年後、今日と同じ12月27日夜22時に少年の家の前に立っていてくれ。』
「…それだけ?」
『嗚呼。』
「分かった!じゃあまたねお兄さん!」
「またな。」
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『はは、どうしたんだ少年。昔の無邪気さは何処へ行ってしまったんだ?顔は変わらないのに。』
「どうしたもこうしたもない。」
『…それは?』
「2年目まではまだ良かったさ。3年目、卒業したと思ったら…
あの日に戻ったんだ。」
『…』
「それから前に経験したものと全く同じ日々を過ごしているんだ。つまらないったらありゃしない。」
「…早く、この魔法とやらを解いてくれ。」
『少年が、望んだ事だろう?』
「そんなの昔の話だ!!」
「早く…早く助けてくれ!!」
『………少年、変わらないものってあると思うかい?』
「あ?そんなもの無いだろ。友達とかはいつか変わる。」
『そうかなぁ。』
「何だよ、いいから早く…」
『まぁまぁ、そんな焦らずに。』
『変わらないもの…ただ1つだけあるよ。』
「…」
『簡単。"言葉"さ。』
「……、!」
『理解した?少年はあの日僕に頼んだんだ。小学生のままでいたい、って。』
『その言葉は過去という"記録書"にしっかりと記されているんだよ。』
『記録書は大切に保管されている。破ったりしたら少年が壊れるだけだ。身体は今までの過去の積み重ねで出来ているからね。』
「…でも、その"過去"を"言葉"で止めてしまったから…」
『そうさ。』
『あんな言葉言って無ければ、変わり続けてそのままストレートに生き続けられたのに、。』
「っ……」
『変わらないものなんて無いさ。ストレートに生き続けていれば、の話だけどね。』
『さぁ、難しい話は終わりだ。少年は望みのまま小学生のままでいられる。』
「ぁぁ……"ッ……」
『まぁそう泣くなよ。自己責任だ。』
「ッ……、"」
『精々このぐちゃぐちゃに絡まった人生の中で幸せを見つけていればいい。』
・・・・
『じゃあ、さよなら。』
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"変わらないものは無い"
12/27/2024, 6:12:25 AM