一ノ瀬

Open App

僕の両親は海が大好きだった。
だから、毎年夏になると海に連れて行ってくれて
家も窓から海が見える場所にある。

そして、母さんと夜に海辺を散歩するのが僕の日課だった。父さんは仕事で帰りがおそいから。2人だけで。


そんなある時、母さんがとっても綺麗な貝殻を見つけて、それをネックレスにして僕にくれたんだ。

すっごく嬉しかった。
宝物にしようと思った。
一生大事にしようと思った。

だから、ずっとずっと肌身離さず持っていたんだ。
離れていても母さんがそばにいる気がして、
心の支えでいてくれる気がして。


もちろん今でも持ってはいる。
でも、今ではこれを見るたびに
あの時を思い出すたびに
心が苦しくなる。


いつしか父さんは家を出て行ってしまったんだ。
そこから母さんの心は壊れていって。

色々と僕なりに考えて寄り添ってみたけど、
僕には何もできないのだと思った。
僕が何かしたところで母さんの心の穴は埋められないのだと。
あの時のような笑顔の母さんはもういない。

それでも母さんは夜になると海を眺めている。

何を考えているのだろう。
もうわからない。
どうしたら僕に振り向いてくれるのだろう。
考えてばかりだ。
いっそのことこいつと一緒に海へ行こうか。


ー貝殻

9/6/2024, 6:40:27 AM